ガーネットは許さない Lv.1(二話)
太陽が燦々と照らす中、日除けの布すらかけられない馬車の上でルークは静かに座り込んでいた。
辺りには何もなく、明るい土と揺らぐ景色だけが果てしなく世界に広がっている。
隣では綺麗な金髪に黄色い瞳をした少女、キャリー・ピジュンが黙って座っていた。
ルークの前には、ミルクティー色の髪を背後で束ね、ベージュのコートを羽織った女が一人。
彼女の名前はレサト、ファイアナド騎士団の暗殺者だ。
燦々と照らす太陽の中、上着を脱がない彼女に思うところがある。
(そんな格好で暑くないのか?)
鎧を着込み、兜を未だに外そうと思わないルークは心配するのだった。
(それにしても……)
彼は先程から感じていた居心地の悪さに目を向ける。
(静かすぎないか? こいつら!)
元気のいいキャリーですら、出発してから一度も口を開いていない。
目の前のレサトに至っては、常に鋭い視線を向けてくる。
これでは気を休めることすらできない。
そもそも、なぜ、ルークがかつての敵であるファイアナド騎士団の彼らと行動しているのか。
彼の上官であるシルバー・ヴォルフの命令だと言うしかない。
襲撃により被害を受けた枯れ木の村とファドン刑務所。
復興の準備にはもうしばらくかかりそうだった。しかし、のろのろとしていては次の襲撃に備えられない為、戦争を企てるスタックタウンの人間の元へ先行することになったのだ。
よそ者の自分があれこれ話せるわけではないが、静かなこの場所に居続けると気がおかしくなりそうになる。
耐えきれなくなったルークは、キャリーの方に向きを変え、話しかけた。
「なぁ、キャリー。スタックタウンってどんな街なんだ?」
彼の質問にキャリーは少し驚く。
静かに俯き、しばらく考えてから答えた。
「大きな時計の中みたいな船の街」
「?」
彼女の回答にルークは首を傾げる。
(大きな……時計の中? 船の街?)
開目、検討がつかない。
固まる彼に、馬車の先頭で座っていた目つきの悪い青年オリパスが、尋ねてくる。
「あんた、スタックタウンには、行ったことがないのか?」
彼の質問にルークはこくりと頷く。
「あぁ、神の国バシレイアの首都からほとんど出たことがなくてな。戦争の時も荒野の真ん中ぐらいにしか来てなかった」
戦争にいたと言っても、オリパスは動じることなく淡々と語り始める。
「技術の街スタックタウンは、物作りが盛んな街で、常に物音が響き渡っているんだ」
時計や革細工、様々なものが作られて続けている。
話を聞いて、鍛冶屋をイメージし、熱い街かと、ルークは想像を巡らせる。その時、小さな小石に馬車は揺れる。
本来ならなんともないはずだが、先日、人を多く乗せて、急いで山を抜けた馬車の車輪には根深いダメージが入っていた。
バキ!
次の瞬間、車輪は外れて、馬車は体勢を崩してしまう。
ガラン!
ルークは慌ててそばにいたキャリーを庇おうとした。しかし、彼女の姿はいない。
すでに馬車から離れていた。
突然、鎧の首周りを引っ張られる。
身軽に宙を跳ぶレサトに掴まれていた。
彼女はルークを引っ張ったかと思えば、すぐに離し着地する。
途中で手放されたルークは地面に転げ落ちてしまった。
「グハッ!」
幸い馬車に巻き込まれずに済んだが、もう少し手心を加えて欲しかったと思ってしまう。
「みんな無事か?」
馬車を運転していた小柄な老人テトを庇いながら、オリパスは顔を上げる。
見た感じ、全員無事だった。
雑に助けられたルークも無事と答える。
「しかし、まずい事になったな、これじゃあもう使い物にならないぞ」
目の前には片方の車輪が一つ外れた馬車が地面をこすっていた。
馬もこれでは、引っ張れないと呆然と立ち尽くしている。
「置いていくしかないわね」
レサトの言葉にテトはオリパスを跳ね除け怒鳴り出す。
「冗談じゃねぇ! これは俺のなけなしの財産なんだ! これじゃあ商売も旅も出来ねぇだろ!」
「元々、そんなに売れてなかったでしょ?」
キョトンと首を捻るキャリーは言った。
言い返すこともできず、テトは唸る。
そんな様子を楽しそうにレサトはクスクスと笑っていた。
砂埃を払いながらオリパスは言う。
「ここから歩いて行くとおそらく間に合わないだろう。そうなるとどの道、立ち往生する羽目になる」
彼は顔を上げ、黄色い少女の方を見た。
「キャリー、悪いんだが、先にスタックタウンに行ってガーネットに車輪を作ってきてもらえないか?」
その言葉にキャリーは元気よく答える。
「うん! 分かった。あと、水と食料も買ってくるね」
言い終わると同時にピチッと雷が光り、彼女の姿は見えなくなる。
あっという間に走り出してしまった。
スタックタウンを知らないルークは、ふと、気になっていた事を尋ねる。
「なぁ、間に合わないってどう言う事だ?」
彼の問いかけにオリパスは一瞬口を開くが、少し考え込んでから答える。
「もう少しすれば分かる」
青年の言葉にルークは首を傾げる事しか出来なかった。
燦々と照らす太陽に苦しみながらしばらくしていると、突然、地面が揺れ始める。
「な、なんだ!」
辺りを見渡すと遠くの方で土煙が上がっていた。
「あれは……?」
「あれが技術の街スタックタウンだ」
息を呑むほど大きく、錆びた鉄色をした巨大な船だった。
船の後ろの方に一番大きな煙突が見える。そこから、真っ黒な煙がゴーゴーと音を立てて周囲の大きな歯車を回しながら船を動かしていた。
さらに目を凝らしてみると船の上や横にはみ出るように家が立っている。
あれでどうして崩れないのか不思議で仕方なかった。
「これが……スタックタウン」
驚くルークの隣に立ちながらオリパスは語る。
「この土地では常に魔物の危険と隣り合わせだ。だから、ああやって地面を走る船になったんだ」
同じ国だったのに天と地ほどの違いがある街に、ルークは汗をかいてしまう。
お前が言うな、ルーク!
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
突然すいません、つい思っていたことを言ってしまいました。
割と暑いのに厚着をしてる子が多くてこっちも心配になりますよ。
皆さんもこれからさらに暑くなると思うので体調管理には気を付けてください。
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