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孤立と孤独の少女たち Lv.3 (三話)

 動かなくなったドラゴンにナイフを突き立てるのは、綺麗な金髪に黄色い瞳をした少女、キャリー・ピジュンだった。


(コレさえあれば、ランサン郵便は、またさらに大きくなる)


 紅蓮の竜巻、メアリー・ホルスが倒した真紅のドラゴンを誰よりも先に回収しようと急いで戻って来た。周囲には素材を取りに集まる人どころか、獣一匹いない荒野が広がっている。

 なぜ、彼女は、絶え間なくナイフを突き立ててドラゴンの素材を集めようとしているのか。


 亡くなったお爺さんの願いの為だ。


 "お前の母さんを手伝ってやりなさい"


 お母様を助ける。つまり、ランサン郵便を大きくする事が、キャリーにとって思いつく最大限の恩返しだった。しかし、ドラゴンの鱗は未だ、一枚も取れずにいる。


「ダメだ。全然取れない……」


 挫けるキャリー、やっぱり誰か、呼んでこようと思った。その時、背後から獣の唸り声が聞こえる。

 振り返るとネズミの頭と鋭い前歯に、犬の様に素早く走り、獲物に飛び付く四本の足をした魔物がいた。

 それも一匹ではない。

 十匹以上がドス黒い瞳で、キャリーを睨んでいた。


「なんだ、お前ら……」


 キャリーは慌てて、手に持っていたナイフを現れた魔物に向ける。

 奴らの目的は、自分の後ろになるドラゴンだとすぐに気づいた。

 ジワジワと外周を回りながら近づいて来る。


「あっち行けよ!」


 乱暴に振り回しながら威嚇をするが効果がない。

 奴らは、屍のドラゴンと一緒にいた小鳥もろとも、いただくつもりだった。

 分が悪いことに気づいたキャリーは、慌てて逃げようとする。しかし、逃げた先にはすでに魔物が待ち構えており、破裂するような声で吠えられて、キャリーは尻餅をついてしまう。

 動けなくなったキャリーに三匹の魔物がもう逃がさん、とばかりに襲いかかってきた。

 食べられると顔を覆った。次の瞬間、引き裂く様な鈍い音と共に全身にとてつもない圧を感じる。


「間に合って良かった!」


 目を開くとそこには、紅髪を後ろでひと結びし、肉塊の様な禍々しい剣を軽々と持つ女性が立っていた。

 目の前には赤く染まった大地。まるで、赤い雨が降った様に血の池ができていた。

 それもそのはず、今、キャリーの目の前にいるのは、人類史上最も強く、後に最凶とうたわれた紅蓮の竜巻、メアリー・ホルスである。

 駆けつけたメアリーは、余裕な笑みを浮かべ、魔物について語り始める。


「こいつらは、ラット・ドックつってな、この辺りに生息する追い剥ぎみたいなもんだ。一匹、一匹、長い前歯とすばしっこい動きで手を焼くんだが……少し圧をかけてやれば問題ない。キャリー、少し怖いが我慢してろよ」


 名前を呼ばれてキャリーは目を見開く。

 次の瞬間、引き裂く様な殺気と真紅の世界がメアリーを中心に広がっていく。

 全身から恐怖の汗が滲み、嵐の中にいるように体が冷える。

キャリーは震え始めてしまった。

 ラット・ドックも同様に身を縮め、目の前の強敵に距離を置き始める。しかし、逃げようとした奴らの背後に大きな足が降る。


「何……あいつ……」


 周囲にいるラット・ドックよりもさらに大きく、トゲトゲとした茨を絡めた尻尾を持つ魔物が現れた。

 他と違う相手にキャリーはすぐに群れのヌシだと気づく。

 メアリーはもう一度、引き裂く様な殺気を飛ばす。しかし、プライドが高いのか、恐怖を感じないのか、ラット・ドックのヌシは動じなかった。

 低い唸り声を立て、尻尾を鞭の様に地面を叩きつける。

 キャリーは二人とも食われてしまうのではと震えてしまう。だが、メアリーは違った。

 彼女は呆れた様子で、ため息を吐く。


「やれやれ、今のが効かないか……こういう奴を相手にするのは毎回面倒なんだよな。まぁいいや、一瞬でカタをつける」


 メアリーは手にしていた武器を握り直した。

 姿勢を低く、振り払う体制に移る。


「キャリー! 目と耳をしっかり閉じといろ!」


 彼女の言葉に怯えていたキャリーは急いで、目と耳を塞いだ。


 この人ならなんとかしてくれる。


 いつの間にか、そんな安心すら覚えていた。

 ふと、目の前の女性が、どんな戦いをするのか、見てみたいと思ったキャリーは、瞑っていた瞳を開く。


 一瞬で決着をつけるメアリーの姿がハッキリと見えた。


 小さな獲物に勢いよく飛びかかるラット・ドックのヌシ。

 構えを取り、待ち構えていたメアリーは、力一杯に剣を薙ぎ払う。


 次の瞬間、刃と空気は訣別し、火花を散らした。

 周囲の景色は剣に収縮し、暗闇を作り出す。

 赤黒い稲妻が溢れ、空気を震わせた。


 メアリーの視線は炯々と紅く輝き、見るもの全てを喰らいつくさんばかりだった。

 襲いくるラット・ドックのヌシは、大きく開く口から横に一刀両断、切り裂かれてしまう。


 暗闇は晴れ、メアリーの切った場所から青空が広がり、色鮮やかな世界が戻ってきた。

 一瞬の出来事を見ていたキャリーは思わず言葉を漏らす。


「きれい……」



 

 一撃でラット・ドックのヌシを倒したメアリーだが、やるせない思いが背後を引く。


 自身の祝福の力は強力で負けを知らない。しかし、強力ゆえに使った後の周囲の反応がたまらなく恐ろしく感じるのだ。


 敵味方問わず、彼らは皆、怯え、正気を失いかける者もいる。


 後ろの少女も恐怖で震えているのだと思うと胸が締め付けられる様な思いだ。しかし、メアリーが思っている様にはならなかった。


「すごい! すごい! 今の何!」


 メアリーの服を引っ張りながらキャリーは、黄色い目を輝かせる。

 初めて見る力に、最初こそ怯えていたが、ヌシを倒した一撃は、キャリーにとって初めての刺激だった。

 爽快で、圧倒的迫力、サーカスですら見たことがない。


「あ……あぁ」


 はしゃぐキャリーに驚き、ぎこちなく頷くメアリー。

 初めて、祝福の力に怯えず、こんな風に笑う子に戸惑ってしまった。

 キャリーは、次から次に話し出す。


「さっきの武器は?」


「バチバチしてたけどあれ何?」


「すごいすごいすごい」


「カッコよかった!」


 お世辞ではなく本気で褒めてくる彼女は、こそこそと称えてくる他の連中と違いメアリーの心をこそがゆくする。しかし、嫌な気持ちはしない。

 メアリーは初めて自身の祝福の力に誇りを持てた。


「だろ? あたしの祝福の力さ」


「私もね、祝福の力を持ってるの!」


 キャリーははしゃぎながら、メアリーの前に立つ。


 次の瞬間、姿を消した、かと思えば、すぐ横に現れ、その次には別の場所にピュン、ピュン、飛んで動き始める。


 メアリーでも下手すれば、見失いそうだった。

 きゃっきゃ、騒ぐキャリーだったが、足元をしっかり見ていなかったせいで、小石につまずく。


「あっ」


 地面がひっくり返るのが見えた。しかし、転ぶ事はなく暖かく押さえつけられる。

 見るとメアリーが驚いた顔を浮かべてキャリーを抱き抱えていた。


 キャリーも呆気に取られ目をパチクリとさせる。

 呆れた様子でメアリーは注意をした。


「はしゃぎすぎだ」


 彼女の言葉にキャリーは、シュンと空気が抜けた様に唇を尖らせ俯いてしまう。


「ごめんなさい……」


 うるっと涙が溢れそうになる。

 すごいものを見られて楽しかったのだろう。

 落ち込む彼女があまりにも可哀想に思えたメアリーは、キャリーに背中を見せながら、しゃがみ込む。

 ジッと見つめる彼女にメアリーは言った。


「おぶってやるよ」


 言い終わる前にキャリーはメアリーの背中に乗り込んだ。


「うん!」


 計っていたのでは、と思うほどだった。


 少女は楽しそうに笑い頬をメアリーの髪に擦り付ける。

 メアリーは立ち上がり、ゆっくりとスタックタウンまで歩き始めた。


 このぐらいならちょうどいい具合に合流できる。


 しばらくするとモゾモゾと動いていたキャリーは静かになり、ジッとし始める。


「ねぇ……えっと……」


 何かを聞こうとして口をもごもごさせる。

 何が聞きたいのか、メアリーは静かに耳を傾けていた。


「あなたの名前が知りたい……」


 もじもじとキャリーは呟く。


「あたしの名前かい?」


 たかがそんな事かにもじもじとして尋ねてきた事に驚く。メアリーは笑いながら答えた。


「あたしの名前は、メアリー・ホルス。よろしくな」


 ニッと背中にいるキャリーに笑って見せた。

 彼女の暖かく、頼もしい横顔に、キャリーを締め付けていた影の様な責任感はいつの間にかスッと見えなくなる。


 キャリーは顔を埋めてへにゃへにゃと笑いながら言った。


「あたし、メア姉の事好き!」


 名前を聞くのにもじもじとしていたのに、こっちは平気で言えるのかと笑いながら、メアリーはキャリーの事をお振り直して、ゆっくりと夕日の中、スタックタウンに帰って行くのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

キャリーにとって、ミラやシルフィードは頼りになる人たちでしたが、

お母様の息が掛かっている信用のできない人たちでもありました。

頼りになっても頼れない。なぜなら、信じられないから……だから、心を閉ざしてがむしゃらに配達をしえたのです。

そんな彼女の前にメアリーが現れた。

彼女の強さと優しさは、キャリーにとって言い表せない程の光だったと思います……

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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