灰色と化した村とキャリー Lv.3
朝日が登り始める。
たった、一夜で、三人の襲撃者によって村は滅んだ。
オットーとの戦闘により倒れていたオリパスだったが、体を動かせる様になり、村へ戻る。
昨日まで建物が並び、活気に溢れていた村は、もうどこにもない。
ただ広がるのは燃え崩れた黒い炭の塊だけだ。
澄んだ青色と炭色の大地を前にオリパスはただ、立ち尽くす事しかできなかった。
脳裏には村を襲撃した魔法使いと共にいたオットーの姿が浮かぶ。
"お前のせいだ"
(考えなくても分かる。あいつが仕掛けたんだ……)
"あんたのせいだ"
このままでは、また、再び争いが起こる。
理由ができてしまった。
神の国バシレイアが攻め入る理由ができてしまったのだ。
全部無駄。
今までの犠牲も、
選択すらも、
全てが無駄になった。
叫びたい。
叫んで怒りを吐き出したい。しかし、オリパスにそんな余裕はいのだ。
(止めなきゃ……)
急いで手を打たなくては、バシレイアが動いてしまう。
シルバーを探し始めようとした。その時、レサトが声をかける。
「オリパス」
彼女の方を見るとコートの中から黒いスーツが見える。
村人を守ってくれたのだと分かった。
「無理しちゃダメよ」
眉を顰め、心配そうに見つめる彼女に、オリパスは僅かに当たってしまう。
「アイツのせいで無理しなきゃダメなんだろ……」
ぶっきらぼうに吐き捨てる。
彼女には関係ないというのに。
レサトは言いにくそうに目を逸らす。しかし、伝えなくてはと彼女は昨夜のことを話し始めた。
「オットーにあったわ」
思わず顔を上げる。
腕を組みながらレサトは話を続けた。
「仲間がやられていたみたいで……手を貸してしまったの」
魔法使いの事だとすぐに分かる。
オリパスは空を見ながら少し考えるのを辞めた。そして、深いため息と共に怒りや嘆きを心のうちに隠した。
彼は俯いて聞く。
「助けられたか?」
彼の問いにレサトは皮肉っぽく顔を引き攣らせて笑った。
彼女は敵を助けてしまった、と自覚しているのだろう。
それは、自分の味方でいてくれている証拠の裏返しだ。
オリパスはホッと息を吐く。
「なら、良かった……」
誰かが死ねば、新たな火種になってしまう。
なら、これでよかったのだ。
一言、呟く。
この言葉にレサトは少し驚いた顔を見せるが、あまり、聞いてこなかった。
オリパスはシルバーと合流する。
文字通り何もなくなった村なので、すぐに会えた。
「魔法使いを倒せたかね?」
彼の問いに頷いて答える。
「あぁ、倒したさ……」
殺せてはいない。だが、撤退に追い込んだのだ、変わりないだろう。
オリパスは他の状況が、どうなっているか尋ねる。
「村人の方は大丈夫か?」
彼の問いにシルバーのそばにいた兵士が答える。
「負傷者十名、死者二名、行方不明者一名、他全員安全を確認しました」
情報を聞いたシルバーは顎髭をいじりながら嘆く。
「これ程の被害になるとは……ファドン刑務所は何をやっていた」
チラリと枯れ木の山の方を眺める。
うっすらとお城が見えていた。
あそこは、刑務所の役割と同時に村を守るのも仕事の一つだ。しかし、彼らが降りて来たのは、だいぶ後になってからだった。
「そこの君、上では何が起こっていたのかね?」
近くを通りかかった看守服の男に尋ねる。
看守は敬礼をしながら報告を始めた。
「はっ、村で火事が起こる少し前に謎の音が聞こえ、囚人たちの手枷が外れるトラブルが起こりました」
夜中に聞こえたスピーカーの事だと、オリパスは気づく。
「その後、村の火事と囚人の鎮圧を手分けする事になったのですが、突如、ゴーレムが押し寄せて、村に駆け付けるのが遅くなりました。申し訳ありません!」
シルバーは謝る看守の男を先に行かせて、頭を抱え始めた。
「まさか、暴動も同時に起きていたとは……」
予想外な事ばかりで首が回らない。
老兵の横でオリパスは、仲間の心配をしていた。
(刑務所の方にはキャリーがいる……うまく逃げ切れていたらいいのだが……)
心配になり、お腹が痛む様な気がした。
オリパスはそっと隠す様に押さえる。
その時、ヒヒーンと馬の鳴き声と共にフードを深く被った者が現れた。
恐らく、バシレイアの隠密部隊の者だと気づく。
訪れた、彼はすぐにシルバーに耳打ちする。
次の瞬間、シルバーの目が揺らいだ。
「なんという事だ! 襲撃の一人にサソリの右腕、オットーがいた。これは宣戦布告と捉えて申し分ない」
シルバーは怒鳴り声を上げる。
心なしか、僅かに頬が上がっている様に見えた。
彼は拳を作り険しい顔でオリパスを睨む。
「君には悪いと思うが、スタックタウンがその気なら我々もそれ相応の準備をしなくてはならない」
シルバーの話を聞いて、オリパスは慌てて止めようとした。
「まだ、こちらで対処できる。だから……」
甘ったれた発言。
オリパスはすぐに失言だと気づく。しかし、時すでに遅かった。
シルバーは激昂した様子で宣言する。
「もう、我慢できん。今すぐ兵を集めて戦う準備をさせてもらうよ」
「頼む! もう少しだけでいい。待ってくれ!」
このままでは、何もかも無かった事になる。
せめて、彼を止めることができれば、バシレイアが直接、手を降しに動かないでいてくれればいい。
オリパスはなんとか、止まってくれる様に話そうとした。しかし、過去の無力な実績によりシルバーは冷ややかに呟く。
「君はすでに失敗しているだろ? このままでは、みすみす見逃せと言っているものだ」
彼の言葉にオリパスは何も言い返せずにいた。
ファイアナド騎士団の解体は出来ても、彼らを使ってスタックタウンを導く事は出来なかった。
さらには、恨みを持った奴が神の国バシレイアに攻め始める。
副団長、さらには参謀としての自分が聞いて呆れる程だ。
(確かに俺は無力だ……だが、愚かしくても守りたい物があるんだ!)
だが、気持ちとは裏腹に説得する為の何かをオリパスは何一つ持ち合わせていなかった。
金も、シルバーを惹きつける物も、言葉も、オリパスには何もない。
その時、一人の少女が現れる。
綺麗な金髪に、黄色い瞳を宿した最速の少女キャリー・ピジュンだ。
彼女は険しい顔でシルバーを睨む。
「なんだね?」
「……」
シルバーは煩わしそうに彼女を見下していた。
黙っていたキャリーは、深呼吸を行い、口を開く。
「オリパスに力を貸して」
彼女の言葉にシルバーは首を傾げる。
「なぜ、私がこの男ごときに力を貸さねばならない」
冷たくあしらおうとした。しかし、キャリーは先程から握りしめた手紙を差し出す。
「あたしはお前の依頼を成し遂げた」
真っ直ぐな視線にオリパスはメアリーの面影を感じる。
筋を通す力強い視線に、シルバーは手紙を受け取った。
しばらくして、彼は渋々とした様子で呟く。
「分かった。貴様らに手をかそう」
シルバーは部下に指示を出しに、その場を去る。
あっという間に話を通せた彼女に、オリパスは驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。
「キャリーお前……」
呼びかけた。その時、彼女は背中を丸め込む。
静かに肩を震わせていた。
(俺はまた……誰かに背負わせる気なのか?)
人並外れた祝福の力を持つ、メアリーやキャリーと違い。
オリパスはなんの力も持たない人間だ。
そんな自分がやっぱり惨めだと思い知らされる。
虚しくなっていく心はこの空の様に何もない。
彼にはそれが、たまらなくそれが悔しい。
(何もないからじゃない……俺が無力だから……もっと、強ければ、もっと、賢ければ……)
しかし、何か手に入れたとして、その先の未来が変わっていたか考えると答えは一つしかなかった。
何も変わっていない。
俯きかけるオリパスを前に、キャリーは、向きを変えて顔を合わせる。
ピースサインを見せて、誇らしげに笑って見せた。
オリパスには、あまりに眩しく、惨めな影が自分の後ろにある事を思い知らされるのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ここで「八重する企みと囚人たち LV.4」と合流しましたね。
キャリーが心配していたやらかしなんて気にも留めてない。
それどころか、彼女の明るい仕草が、彼を自責の念でつぶしそうです。
「盤上へ望む願い、夕暮れに降りてきた男、秘密の花園、再燃の争い、村人の避難、塗りつぶす白銀の剣、無意味な犠牲、サソリの尻尾、灰色と化した村とキャリー」以上、九話を読んで下さり、ありがとうございます。
また、少し時間がいてしまいますが首を長く待っていてください。
次回は始まりに戻ってみようと思います。
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
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