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射影機とドラゴンと雨宿り Lv.三(三話)

「この手紙を東門のここの家までお願いします」


「はい、そうしますとレベル一なので、六百ミンツになります」


「これ、急ぎで、隣町の貴族の屋敷までお願いできるか?」


「ええ、レベル二で受け付けられます」


「それで頼む」


「はい、分かりました。君たち、聞こえた? この仕事、誰か引き受けてくれない?」


「おうよ、そいつを速達で運べばいいんだな!」


「お願いねー!」


「あーお願いします」


「任せとけ!」


 チャリンチャリーン!


 今日も手紙や荷物を届けてもらうお客様とそれを運ぶ者たちで賑わっている、ここは、バシレイアにある、ランサン郵便協会のギルドである。

 そこに一人の少女が不安な顔をして入ってきた。


「いらっしゃいませ! ランサン郵便協会へようこそ! 配達ですか? それとも、仕事を受けに?」


 入ってきた少女にいち早く気づいた受付嬢のミラは明るい挨拶をした。

 少女はビクッとなりながら軽くお辞儀をして、キョロキョロと室内を見渡しながら、正面の受付にゆっくりと近づいた。


「こ、こんにちは……え、えっと……」


 俯きながら少女は何か話そうとするが緊張でうまく呂律が回らない。

 ミラはうだうだとする少女をニコニコとしながら要件を話してもらうのを悪意なくジッと待っていた。しかし、少女には、それがとても申し訳なくて、相手を待たせてしまっていると思い、そのせいで、さらに焦って余計に話せなくなってしまった。

 やがて、少女は勇気を出して、深呼吸をしてからミラに話しかけることができた。


「こ、こん、こんにちは……て、て手紙を…出ひ、たいのですが……」


 そんな風につっかえ、つっかえに少女が要件を言い終わる前にミラは察して、話を進めた。


「手紙ですね。速達ですか? 通常ですか?」


「えっと、急ぎじゃない……です」


「分かりました、配達先を確認しますので、少々お待ちを、"何も問題がなければ"レベル一の代金で配達

いたします」


 ミラは笑顔のまま両手を前に出して受け取る用意をした。


 少女はすぐに差し出して代金を払ってとっとと帰ろうと思ったのだが、ある言葉が気になって任せる事が出来なかった。


「な、何も問題がなければて、ど、どう言う意味、ですか? そ、それと、レベルって?」


 その質問にあっと思い出し、ミラは両手を揃える。


「お客様、当店のご利用は初めてでしたか! そうでしたら、少し説明をさせて下さい」


 少女はよく分からず首を傾げる。


「ここでは、手紙もしくは依頼の距離や大きさ、過酷さで、値段が変わってしまうんです」


 ミラはカウンターの下から五段五色に分けられたピラミッドが書かれた紙を取り出して説明を始めた。


「私たちはそれらを総合して、レベルと読んで仕事を回しております。例えば、手紙の配達はこの街で済む物ならレベル一、最低依頼料は六百ミンツ、報酬は二百ミンツになります。それでお客様の手紙は……」


 言いながらミラはちょっと見せて下さいと言って少女の手紙の宛先を見た。そして、地図を広げて、大体の位置を指差す。


「この辺り、中部北西ですね?」


 少女はこくりと頷く。

 ミラは少女の顔を見てから一息置いて、なるほどと呟く。


「そうしますと……んーとレベル三の二万ミンツになります」


「え! そんなに高くなるんですか!?」


 少女は予想以上に高い値段を言われたので驚いた。

 ミラは頷いて、地図の一部をぐるぐると囲う様になぞりながら高い理由を話し始める。


「今、この辺りはドラゴンが出ていて危険なんです。被害などの報告はないのですが、非常に危険でレベルを上げざるおえません。それで高い値段になってしまったんです」


 話を聞いていた少女は、涙目でブルブルと小動物の様に震えながら地図を見ていた。

 彼女はただ、育ててくれた、お爺さんに元気だと伝える為にギリギリの生活の中、ミンツを貯めて、ようやく、手紙と送る分だけのミンツを用意したのだ。しかし、予期せぬ金額とドラゴンに彼女はもう、倒れてしまいそうだ。


「お客様、いかがなさいますか?」


 ミラは申し訳なさそうに聞く。

 少女は首を振って答えた。


「いいえ、きょ、今日は……やめておきます。後日、お金を貯めて依頼させてください……」


 少女は頭を下げて足早に外に出て行った。


 チャリンチャリーン!


 外に出る時、目の前に人影が見えて少女はピタリと足を止める。危うくぶつかる所だった。


「ご、ごご、ごめんなさい!」


「いえ」


 少女は俯きながら、すぐに謝ったが、相手はそっけなく返して彼女の横を通り過ぎる。

 謝った謝った時に返事が返って来ると思わずに驚いた。

 誰が返事を返したのか気になって、顔を上げる。


 そこには綺麗な金髪に黄色い目をした、自分より年下の少女だった。

 しかし、彼女は、どこを見て歩いているのか、虚な目をして、暗い表情をしていた。


 一瞬、少女は今のギリギリな自分の生活より金髪の彼女の方が心配になる。しかし、自分の生活の為にその場を後にした。


「あっ、キャリーちゃん、おはよう」


 ミラは軽く手を振って挨拶をした。


「おはようございます」


 少女とすれ違いながら店内に入った、キャリーはいつもの様に返す。


「今日はとっても混んでるよ。昨日の祝祭で話したい事やお見上げを沢山用意したんだろうね……西に、

東に届ける物が山積みだよ……って聞いてる?」


 ミラはキャリーに雑談を振ったが、彼女はぼんやりとした様子で、掲示板の依頼の紙を一枚一枚剥がし始めた。そして、掲示板の紙を全て剥がし終えたキャリーは受付の前に戻ると、手にした紙を全て置いた。


 その様子に他の人たちはざわつく。


 ミラも驚いた様子で紙の束とキャリーを交互に見る。


「え? キャリーちゃんこれ、全部やるの?」


「うん、これ、全部やるよ」


「嘘、無理でしょ? この量は流石にキツイって、絶対一日中じゃ終われないよ」


「平気、やらせて」


 キャリーはいつもの様に笑って言う。が、ミラには不気味に見えた。


 何か変だと感じながらも、キャリーの祝福の力を知っているミラは、掲示板に貼られていた全ての依頼を任せる事に。


「分かりました。それでは、配達証明書と手紙などの荷物を取ってきますので、お待ちください」


 友人としてのミラではなく、受付嬢のミラとして、丁寧な口調で告げると立ち上がり、同僚のムグレカに荷物を持ってきてと頼んだ。そして、自分は配達証明書の用意を始める。


 ムグレカは軽く返事をして、荷物を取りに動こうとしたが、信じられない量を一気に頼まれたのでイッテンポ遅れて驚いた。


「はぁ!?」


「はぁ? じゃないわよ。とっとと、取ってきてちょうだい」


 ムグレカはミラに近づき耳打ちで聞き直す。


「本当に今日の依頼分の荷物を全部持ってこなきゃいけないのか?」


「当たり前よ。それがあなたの仕事でしょ」


「何かのイタズラ?」


「いいえ、マジの仕事」


 ミラは目線でキャリーの方を見る様に促す。


「キャリーちゃんがなんでか今日、やる気満々だからね。イタズラじゃないわよ」


「あの子が? まだ、子供だろ? 無理ですって、あそこに貼ってるのは、レベル一から三まであるんですよ。この辺だけじゃ済まない国を渡るのだって、到底、一日じゃ終わらない。下手したら一生届かないかも」


 ムグレカはその先を言おうとしたが、ミラが口を挟んだ。


「いいから、とっとと取ってきなさい。私達はまだ、他の仕事もあるんだから。安心して、あの子とは付き合い長いから大丈夫」


 ミラは頭をかくムグレカにウインクをして続けて言う。


「それにあの子は私やあなたより長くこの協会で、働いているのよ」


「マジ……?」


 ムグレカはウッソだーと言わんばかりに苦笑いを浮かべた。


「ほら、とっとと取りに行ってちょうだい」


 ミラはいつまでも荷物を取りに行かない同僚のムグレカの肩を掴み、くるりと回し、背中を押す。

 ムグレカは悲鳴をあげて転びそうになるが、彼女にはどうでもいい事なので配達証明書の用意を始めた。


 しばらくして、二人はキャリーに運んでもらう、荷物と手紙、それらの配達証明書をカウンターに運んだ。


「これで全部よ」

 

 言いながらミラはひたいを拭きながら言うが、実際に汗をかいてまで色々やったのはムグレカの方だった。


 キャリーは配達証明書を手に取って軽く目を通す。


 ムグレカはヘロヘロでカウンターの奥で倒れていたが、立ち上がりキャリーと荷物を見ながら訝しむ。

 こんなに依頼を受けて大丈夫なのか? 依頼の中には手紙の配達だけじゃない、大きな荷物だってあるのだが、こんな子供に運べる訳がない。


 そんな風に彼は思っていると配達証明書を見終えたキャリーは鞄を前にずらし、かぶせをあげて、机に乗っている大きめの箱を引き寄せる様にずらし始めた。すると、鞄の口に吸い込まれる様にして大きな荷物は中へと入っていく。


 キャリーは次々と同じ様にして、荷物を鞄に詰め込んでいった。そして、床に置かれているキャリーの腰ぐらい背の高い荷物が最後に残ったが、キャリーは鞄は何気ない顔で逆様にして最後の荷物に被せる様に入れた。


 ムグレカはマジックショーでも見ているのかと思ってしまう光景に開いた口が塞がらない。


 キャリーは最後に残った手紙もそのまま鞄にしまった。


「それじゃあ、行って…きます……」


 キャリーは小さく呟き、スタスタと外に出て行った。

 ミラは行ってらっしゃいと言いながら手を振って見送る。


 キャリーが扉の外に出て行った後に同僚の顔を見たが彼はまだ、唖然としていた。


「ほら、仕事仕事!」


 ミラは仕方なくムグレカの背中を叩いて声をかける。


「四次元魔法はそれなりに有名でしょ?」


「聞いた事はありますけど、迷信レベルかと思いました。それにあの魔法ってめちゃくちゃ金がかかる上に高難易度のやつですよね? 全く信じられません! なんで、あんな子供が持ってるんですか? あっ! もしかして、どこかの御曹司の子なんですか?」


 ムグレカは目を輝かせながらミラの方を見るが、


 彼女はそっけなく答える。


「さーどうだったかしら、でも、キャリーちゃんは私達より稼いでるわよ」


 言いながらミラは扉の横にある窓の外を見た。


 そこにはさっき、外に出たばかりのキャリーが立っていた。

 彼女は屈伸やのびをした状態で右左に上体を倒したりして準備運動をしていた。

 そして、肩の力を入れて引き上げ続けて限界まで入れて、息を吐きながら脱力をする。


 これはキャリーがほぼ毎日やっている仕事前の準備運動だ。


 そうして、準備運動を終えたキャリーは、スッと背筋を伸ばして立っていた。

 次の瞬間、ピカリと光ってキャリーは姿を消した。


「今のは……あれも魔法ですか? いや、でも、魔法陣も杖も詠唱も何もしてなかった気がする……そしたら、もしかして」


 ミラの後ろで見ていたムグレカは、彼女に聞こうとしたが一旦自分で考え始める。

 彼がキャリーの力に気づいた時にミラは振り返りながらニヤリと笑って答えた。


「そう、あれは世にも珍しい祝福の力よ」


「やっぱり!」ムグレカはポンと手を叩く「あんなにすごい祝福の力を持った人は、初めて見ました」


「そうね……」


 ミラは窓の外を見ながら答える。


「確かにあんなにすごい祝福の力はそういないわね」


 ここ、神の国バシレイアでは、稀に祝福の力を持つ者が生まれる。


 祝福の力は火や水を扱うものから、自身を守るもの、疲労を治す力など奇跡を起こしたり、人より傷が治ったり、腕力があったりとシンプルなものなど様々。


 この世界にとって、祝福の力は確かに珍しく素晴らしい力だけど、足が他より早い子供や数字に強い学者などいわゆる、才能とさほど、変わりないものである。


 むしろ、こっちの方が使い勝手が良い事もある。


 カウンターに座る彼女、ミラも祝福の力を持っているがあまり使えない。


「あの子と比べたら、私の"お気に入りのメイクをすぐにできる"力は小さい物ね」


 彼女はカウンターに突っ伏して呟いた。


「朝の身支度がすぐ終わって便利なんだけど……」


 それに対して、何もない同僚には愛想笑いをする事しかできなかった。

 

 走り出したキャリーは、目にも止まらぬ速さで街中を駆け周り、手紙をポストに入れ回っていた。

 途中、人混みの多い通りに当たった時には、キャリーは避ける様に壁をつたって屋根の上に駆け上がる。

 キャリーは出窓の段差を華麗に避けて、屋根と屋根の間を宙返り。


 たまたま、見ていた子供はすごい物を見たと母親に興奮気味に話すがきっと、信じてはもらえないだろう。

 キャリーは国を守る城壁の前までやって来た。そして、わずかな、壁の柱を使って階段をダッシュの容量で空に向かって駆け上がる。そして、彼女はそのまま自由落下に城壁の向こうへ落ちて行く。


 普段だったら、こんなに自由に走れる事に喜びを感じるはずだが、今は何も感じなかった。だけど、それでいいんだ。と彼女は自分に言い聞かせる。


 こうしていれば、辛い事を思い出さなくて済むんだから……

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

今回、レベルが仕事の難易度を表すと語っていましたね。

実は、タイトルのレベルもその作品の難易度を示唆しているんです。

つまり、今回は、そこそこ、平和って事ですね。

「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださったら、

ブックマーク、評価を付けてくださると嬉しいです。

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