再燃の争い Lv.4
枯れ木の麓村に来てから三日目の真夜中。
事件が起きた。
けたたましく響き渡る機械音。
横になっていたオリパスは慌てて起き上がる。
「……」
「うるっせぇな、何の音だよ」
隣で熟睡していた老人テトは、睡眠の邪魔をされて不機嫌に呟く。
オリパスは構っていられないとベッドから抜け出し、身支度を整え始めた。
「お、おい、どうしたんだ」
テトの問いにオリパスは、すぐに答える。
「あれはスピーカーだ」
「スピ……なんて?」
聞き取れなかったテトは眉を顰める。
「スピーカー、昔、スタックタウンの技術者が作っていた機械だ。どんなに小さな声も、何倍にして大声に変えてしまう道具だ」
ホルスターのベルトを巻き終えたオリパスはテトの方を見る。
彼が次にしてくる質問が、わかっていたからだ。
「つまり、どう言うことだ?」
オリパスは浮かない顔で答える。
「恐らく……いや、十中八九、敵襲だ」
コンコン、と扉を叩く音が聞こえる。
「誰だ?」
彼はホルスターのラッパ銃に腕を伸ばしながら、扉に近づく。
いざとなったら、扉越しからでも打つ気だった。
「私よ」
その一言で、彼はすぐに扉を開ける。
扉の前に立っていたのは、すでに身支度を整えていたレサトだ。
オリパスはアイコンタクトを取ってから、こくりと頷く。
すでに敵襲だと気づいていたのだ。
「テト、何ボサっとしてるの。早く支度しなさい」
レサトは、まだ、ベッドに膝を埋めていたテトを睨みつける。
冷ややかな視線に、背筋が凍りそうなった。
眠気など最初からなかった程に目を覚ます。
テトは慌ててベッドから飛び降り、靴を履き始めた。
「まったく、年おりを急かさないでくれ……」
こんな事なら着いてこなきゃよかったと小言をこぼし始める彼に対して、レサトは冷たく言った。
「ゆっくりで良いけれど、殺されても文句は言えないわよ」
ヒィーと叫びながら荷物をかき集める。
スピーカーの音は山のファドン刑務所の方から聞こえてきた。
あそこにはキャリーがいる。
昔は敵対関係だった。
近づけば小競り合いが起きるかもしれない。だけど、今はどうでも良い。
あらゆる問題を捨ててでも、彼女の元へ行こうと考えていた。
ふと、背後が明るくなる。
夕暮れの様に赤く、ゆらゆらと火の粉が舞っていた。
(まさか!)
オリパスは慌てて窓を開ける。
宿屋の近くに立っている、酒場が燃えていた。
「火事だ!」
「水を持ってこい! 早く!」
火事に気づいた村人たちが、火を消すために動き始めている。
燃え盛る炎の中、一瞬、人影が見えた。
「!」
オリパスは手早く、ラッパ銃を取り出す。
「そこから離れろ!」
迷わず引き金を引いた。
バン! と銃声が響く。
一瞬のうちにオリパスの放った弾は、燃え盛る酒場の中へ消えていった。
カチンと妙な音が小さく聞こえてきた。しかし、村人たちは先に聞こえた銃声に気を引かれてしまう。
彼らは宿屋の二階にいるオリパスの方を見た。
多くの視線が集中する中、気にも止めずオリパスは動く。
彼は撃ち終わったラッパ銃をしまい、もう一丁、取り出した。
迷いなく、窓から飛び降りる。
地面に転がる様に受け身を取って、ラッパ銃を酒場の方に構えながら近づいて行く。
「お、おい、何の真似だよ! あんた?」
火を消そうとした村人が困惑した表情を浮かべる。
急いで火を消さないと、他の建物にも引火してしまう。
ふざけた真似をする奴は許さない。
ガタイのいい村人が、オリパスを取り押さえようとした。
同時に、まるでタイミングを見計らったのでは、と言いたくなる様にオリパスも走り出す。
真っ直ぐと火災現場に一番近い、火を消そうとした村人まで走っていくのだ。
ギロリと睨みつける彼の顔は、殺意に満ちている様だった。
これから自分が殺されるのだと思った村人は身構えてしまう。
「う、うわあああ!」
次の瞬間、ブワッと背後で、大きな音が聞こえる。
目をやると、大きな火柱が吹き上がり、村人に近づいて来ていた。
このままでは、炎に包まれる。そう思った瞬間、オリパスに引っ張られたのだ。
「どわぁ!」
硬い地面に落とされる。
村人の前に出たオリパスは、ジッと炎の中を睨みつけた。
「頼む! 全員、逃げてくれ!」
未だ、状況が飲み込めていない村人たちは、唖然と立ち尽くすばかりだった。
彼は一体、何を警戒しているのか、分からない。
それでも、オリパスは燃え盛る酒場から目を離さずにいた。
「何の騒ぎかね?」
宿屋からシルバーが出てくる。
「シルバー様!」
困惑していた村人たちは、信頼できるシルバーに事情を話し始めた。
「あの者が、突然、酒場から離れろと。すでに手遅れなのに、早く消さないと他の建物にも火が回ってしまいます。どうか、彼を説得してください」
村人の話を聞いたシルバーは、オリパスの方に目をやる。
「……」
彼の態度で、シルバーは何かに気づく。
「皆、彼の言う通りだ。離れていたまえ」
ゆらゆらと燃える炎は、再び燃え上がる。
重い金属が擦れ合う音が響く。
それはまるで鎧が擦れる音の様だ。
大きく揺らぐ炎の中、黒い人影がはっきりと見えた。
村人たちは、まだ、炎の中に人がいると気づく。しかし、目の前の青年やシルバーの言葉から助けに行けず、怖気付いていた。
シルバーはオリパスの横まで歩いて行き、姿を見せようとする敵を黙って見つめる。
「ほぉ、これは……始めてみるな」
感心するシルバーの先に現れたのは、全身を大鎧で身を固め、炎を観に纏った男だった。
両手の細長い管から炎が浮き出ている。
細長い管を辿ると背中に背負った、円柱のタンク二本に繋がっていた。
オリパスは険しい顔で尋ねる。
「何者だ……」
「ヒュー、ヒュー」
現れた火ダルマの男は答えない。
ぼんやりと立ち尽くしていた。
どう動くか、考え始めようとしたオリパスに、シルバーが話しかける。
「相手は答える気がないのだろう。火が広がるのはまずい。ここは迅速に片付けようではないか」
彼はそう言い切ると腰に携えたレイピアに手を伸ばす。その時、地面が揺らいだ。
地響きの様な振動が小刻みに伝わってくる。
ファドン刑務所がある山の方からだ。
オリパスは慌てて山の方を見る。
規則性のない不気味な動きで、進み続けるゴーレムの群れが山を駆け降りてくる。
奴らは近くにいた村人から襲い始めて行った。
「な、何だ、あれは!」
「キャー」
「に、逃げろ!」
村人たちは慌てだす。
周囲の悲鳴に反応したのか、火災現場で立ち尽くしていた火ダルマも雄叫びをあげ始めた。
「ブロロロロ!」
細長い二本の管から火山の噴火の様に炎が溢れ出す。
混乱の一夜が始まる。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
「八重する企みと囚人たち Lv.4」二十三話のスピーカ音がなっていた時ですね。
本編の方で書こうと思ったけど、さすがに無理と思いましたが自画自賛で賢明な判断だったと思います。
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
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