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秘密の花園 Lv.1

 翌朝、村が起き始めた頃。

 まだ、いびきをかく同室の行商人テトの横で、オリパスは武器の手入れをしていた。


 彼が使う武器は、火薬と小さな鉄球を使ったラッパ銃だ。

 銃口の周りは楽器のラッパの様に広がっていた。

 中身の火薬を白い紙の上に、慎重に取り出す。


 残った火薬をしっかりふるい落とした。

 内部の汚れを落とす為、小さなブラシで掃除する。


 完全に払い終わったら、部品の不備がないか動作チェックを行う。

 全て終われば、火薬を戻し、球をこめた。

 すぐに撃たないので、火薬が湿気ないためにカバーをかける。


 一通りの作業を終えた頃、外を見るとレサトが歩いているのが見えた。

 彼女が早起き。もしくは、一日中起きていても珍しくない。


「……」


 何も気にせず、待つことも出来たが、オリパスは少し不安を感じる。

 裏切るのでは、と言う考えは全くない。


 ただ、危ない真似をしでかさないか、そっちの心配だ。

 オリパスは立ち上がり、部屋を出ていく。



 

 日の光が眩しくレサトは目を覆いながら外に出た。

 ずっと部屋にいるのが窮屈に思えたのだ。


 気晴らしに辺りを散策しようと思う。

 ふと、宿の娘ニーナが前を通り過ぎる。


 白いハンカチを頭に被せ、暖かい黄色の長いスカートを履いていた。

 彼女は水いっぱいのジョウロを重そうに持って運んでいた。


「おはよう」


 レサトに気付けてなかったニーナは肩を跳ねさせる。

 ピチャッと水が少しこぼれた。

 ニーナはおどろきながらも明るい声で挨拶する。


「お、おはようございます! 昨日はよく眠ることはできましたか?」


「いいえ」


 レサトは首をする。


「えー!」


 慌てる彼女を少し見てみたかったのだ。

 クスリと笑ってから嘘だと伝える。


「冗談よ。ぐっすり眠れたわ。ふかふかのベッドで安心した」


 少女は胸を撫で下ろす。


「それなら、よかったです」


(まぁ、こっちが嘘なのだけれど……)


 安堵する彼女を見ながら心の中で呟く。


 寝つきが悪いのは、今に始まった事じゃない。

 それに宿屋で寝られてないなんて言うのは、その店に失礼だ。

 そもそも、これは自分の問題、体に触れられるのを嫌がるのも、自分じゃ制御できない問題だった。

 そのせいでオリパスやキャリーに迷惑をかけてしまって、レサトは年長者として不甲斐ない思いだ。


「水やりに行くのかしら、何を育てているの?」


 レサトは微笑みながら尋ねる。

 ニーナはジョウロを胸の高さまで持ち上げて言った。


「見にきますか?」


 可愛らしい笑顔を彼女は浮かべる。


「えぇ」


 ニーナのお誘いにこくりと頷いて、ついて行く事にした。

 村から少し外れ、枯れ木の山、近くまでやって来る。

 この先の坂を登れば、キャリーのいるファドン刑務所に行ける。しかし、ニーナの向かうのは反対側の獣道だった。


「あ、コート気をつけてください。この辺の木々に引っ掛けるとすぐ破けちゃうんです」


 彼女はそう言いながらズンズンと進んでいく。

 ジョウロに水を入れてないんじゃないかと思う程だった。


「もし、破けちゃったら、私が直しますね」


 彼女の言葉に、少しだけ目を背ける。

 このベージュのコートは、ダメになったら捨てようと思っていたから、そこまで気にしていない。


「つきましたよ!」


 ニーナは嬉しそうに言いながら、レサトに秘密の花園を見せる。

 この村、強いては山もだが、あちこち枯れた木が黒く染まっている。

 地面も植物が少なく、全体的に白っぽかった。しかし、目の前の光景はまるで別世界と思える場所だった。


 青々と育った草花が小池ほどの大きさまで広がっている。

 土も緑を囲う様に茶色くて柔らかそうな土に変わっていた。


「どうですか? 綺麗でしょ?」


「えぇ、素敵ね」


 ニーナの問いかけにこくりと頷く事しか、出来ない。

 枯れた土地でここまで美しく、育つ様にするには、相当、土を弄らなければいけない。


「たがやすの大変だったんじゃない?」


 レサトの言葉にニーナは首を傾げる。


「たがやす? あっ、いいえ」


 彼女は首を振った。


「たまたま、なんです。ここに来た時、たまたま緑があって。それから水を上げていたら、いっぱい育ったんですよ」


 彼女は愉快そうに言った。

 きっと、初めて見つけた時、とても驚いただろうなとレサトは想像してしまう。


「ふふ……」


「それからは、宿の外観のために買っていた花のタネを巻いてみたりして」


 少し口ずさむ。


「私だけの秘密のお花畑ができたんです」


「良いわね、とっても素敵よ」


 レサトはそっと猫を撫でる様に花に触れた。

 指先に乗せる様にして。

 ニーナもレサトの隣に座って花を眺め始める。

 ふと、彼女は夢を語り始めた。


「私、今は村で唯一の宿を手伝っているんですけどね。ゆくゆくはお金を貯めて光の塔を見に行きたいんです」


 神の国バシレイアの中央にある教会の事だ。

 年中、光を空に放っている。


 星と同じ様に方向を示す目印になる程、どこからでも見えるのだ。

このあたりからでも、見ようと思えば見える。


「旅の人から聞いたんですけど、あそこの中庭は、楽園の様な場所だって聞いたんです。だから、いつか、見に行きたいと思っているんですよ!」


 彼女は目を輝かせながら言った。

 ニーナの姿を見ながら、レサトは過去の夢を思い出す。

 まだ、レサトが学校に通っていた頃、植物の本を熱心に読んでいた。


 元々、花を育てるのは好きだったのだが、いつか、いろんな花を世話してみたいと密かに目を輝かせていたのをよく覚えている。


 付き合っていた彼氏、後の夫にそのことを話したら、彼は快く応援してくれた。

 彼の力を借りて、花屋を開けたのは、今でも素敵な思い出だった。


 オルゴールの部品が壊れている様に、素敵な思い出は、不穏なメロディーを奏で始める。

 花は踏み潰され、バケツの水は床にばら撒かれた。

 荒らされていく店内で、大男たちに無理やり連れてかれる。


 どれだけ嫌がっても、彼らはやめてくれない。

 それどころか、嬉しそうに笑っている。

 問答無用で殴られ続ける夫を前にレサトはただ、やめる様に首を垂れるしかできずにいた。


―これ以上はいけない—


 レサトは急いで考えるのをやめた。


「大丈夫ですか? すごく顔色が悪そうですけど……」


 心配するニーナに気付き、無理やり笑みを作る。

 レサトの顔は青ざめており、とても辛そうだった。


「それより水をあげてあげたら?」


 立ち上がりながら言う。


「あっ! そうですね」


 ニーナは頷きながらジョウロの水を流し始めた。

 透明な水は、細い隙間を通り雨の様にして秘密のお花畑に注がれていった。

 葉っぱに溢れた水は跳ねて、小さくなりながら下に降りていく。


 こうやって花を愛でたりするのも、一興とレサトは静かに見つめていた。


「叶うといいわね……」


 静かに呟く。


 聞こえてないかもとレサトは思っていたが、ニーナの耳にはしっかりと届いていた。

 彼女は可愛らしい笑みを浮かべて頷く。


「はい!」


 明るくて、素敵な返事だ。

 夢は夢でしかなかったと思い知らされる日が来ることを、二人はまだ知る余地もなかった。

前半はおまけですね。

オリパスの動向について書くの忘れてた……見失ってたんじゃないかな。

前々から思ってたけど、レサトさんちょくちょく人をからかったりするけどお茶目な方かな?

彼女の過去をすぐに見せられないのが心苦しいです。気長に待ってくださると幸いです。


「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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