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八重する企みと囚人たち Lv.4(四十話)

 波の音すらかき消す、賑わいを見せる商店街。

 盗みを働こうとした幸は、寸前の所を青年に止められる。

 今は彼に食事に誘われ、後に続き歩いていた。


「ここにしよう」


 大きなシャボン玉の様なランプがたくさん照らす店を指差す。


「おばちゃん、二人」


 迷いなく中へ入っていた。

 彼は席に着くと長い杖を置き、メニュー表を見せて来た。


「好きなのを頼みなよ。僕が奢るから」


 気前よく言う。

 幸はチラリと見るが、どれも聞いた事ない料理ばかりだ。しかも、参考の写真などない。

 これではどんな物が来るか想像がつかない。


「……」


 選べずに困ってしまう

 ふと、見た事のある料理名に目を見開く。


(パエリア……)


 幸は思わず顔を上げた。


「これって、お米の!?」


「あ、あぁ、そうだよ」


「これでお願いします!」


 今までずっとパンばかりの生活だった。

 彼女の気迫に驚きながらパエリアを注文する。


「それにしても、なぜアイオライトコンパスを盗もうとしたんだい?」


 青年の質問に幸は身を縮める。

 周囲を気にしている彼女に、彼は大丈夫だよと付け足す。


「あぁ、ここならただのホラ話に聞こえるから、好きに話して良いよ」


 彼の言葉を信じ、正直に答えた。


「実は……あの人たちが盗めなかった物を盗めたら、彼女たちに恩を返せると思ってしまったの。無事を知らせられると思ったの……」


 我ながら馬鹿な話だ。

 アンリードが盗めなかったのに自分なら盗めると勘違いしていた。

 幸は顔を赤くする。


「なるほど、だけど彼女たちは、きっと望んでないんじゃないか? 捕まったら悲しむよ」


 幸はこくりと頷く。

 髪をいじり、気持ちを着つくろった。


「そうね……リードさんはきっと、怒るでしょうね」


 ありありと怒鳴り付けるリードの姿、が目に浮かぶ。


「はい、おまちどう!」


 女将が平たく大きなフライパンを持って来た。


「新鮮な魚介のパエリアだよ!」


 真っ赤なエビと黒い貝殻に柔らかくて大きな身を詰めた貝の実。

 黄色く輝くお米がフライパンを埋め尽くしていた。

 気を着つくろっていた幸は、目を輝かせる。


「さぁ、話は食べてからにしよう」


 彼はスプーンを差し出した。

 幸は思わず、唾を飲み込む。


 いつぶりのお米だろうか、スプーンを受け取ると幸はパエリアを掬い上げた。

 火傷しない様に、息を吹きかけてから口に頬張る。

 柔らかくて、もちもちとした食感、

 歯応えたっぷりのエビが口の中で愉快に踊り始める。


 幸の頬を涙が零れる。


「え! は? どうしたの?」


 突然、泣き出す彼女に青年は驚く。


「おい、坊主、女の子泣かすなんてひでぇな」


 近くにいた船乗りが茶々を入れた。


「僕は何もしてないぞ。お、おい、大丈夫か」


 慌てる彼に、幸は涙を拭きながら答える。


「ごめんなさい……やっと、やっと、食べられて、嬉しくて……お米が美味しいです。おいしくてえぇぇぇ!」


 この世界に飛ばされてからずっと食べる事のできなかった温かな食事。

 馴染みのある食材のお米。

 それがやっと食べられ、幸の中で無理していた物が全部崩れていった。


「えぇぇん、おいしいーよー」


「ははあ、そりゃ何よりだ!」


 女将は笑って彼女を慰める。

 この調子で大きなフライパンにあったパエリアを幸は泣きじゃくりながら全て食べ切ってしまった。


「ご、ごめんなさい……取り乱してみまいまって……ヒック……」


 フライパンを片付けてもらいながら幸は落ち着こうと息を整える。上手くいかず、しゃっくりに変わってしまう


 初めて会った時の女性らしさが消えて、どこか少女の面影をみせる。

 驚きながら青年は話た。


「あ、あぁ、良いんだ」


「そろそろ、話さなきゃ……ですね」


 幸はつっかえながら話そうとする。しかし、もう少しゆっくりしてから話そう、と彼に言われてしまう。

 また少し時間を置かせてもらった。

 やっと、落ち着いた頃、彼女はゆっくりとキャリー・ピジュンの出会いを話し始める。


 全て話し終えた後、彼は冒険譚を聞かせてもらった子供の様に机に肘をつきながら嬉しそうにしていた。


「いやぁ、良い話が聞けた。嬉しいよ」


 彼は水を一口飲む。


「でも、君がこうして予告状を出してくれて、本当に良かったよ」


 青年は笑みを浮かべる。


「あの子の話を聞くことができるから」


 先程から気になっていた事を尋ねてみた。


「あの、キャリーさんの事を知りたがるのはなぜですか?」


 純粋な疑問だった。

 彼はいい加減、暑くなったのかフードをとりながら言う。


「身内の活躍を聞きたがらない人間はそういないよ」


 少女と同じ綺麗な金髪に、星の様に輝く瞳をした青年は微笑むのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

青年の名前はサウザー・と言います。そう言えば、名乗らせていませんでしたね。

さすがに、誰だとモヤモヤを残したままだと皆様に申し訳ないので名前だけ、語らせていただきます。

(ほかの情報は伏せさせてくれ!)

「キャリー・ピジュンの冒険 八重する企みと囚人たち Lv.4」は以上になります。

長い物語を最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

次回は、十五日「八重する企みと囚人たち」で語れなかったオリパスたちの方を投稿します。

楽しみに待っていてください。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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