八重する企みと囚人たち Lv.4(三十六話)
(何も……見えない……)
リードは暗闇の中、手探りに辺りを散策する。
戦いの後、緊張の糸が途切れる様にプツンと目が見えない。
今までは少しキツくつむっていれば、すぐに見えたのに、今は目をつむる事すらできない程いたい。
「だ、誰か……いないか」
声が震える。
ゴロゴロとする地面。
周りになりがあったのか思い出せない。
(見えないって……こんなに怖いのか?)
リードは今までずっと超空間把握能力、祝福の力を駆使して生きてきた。
なのに、今、何も見えずにいる。
少し前に進む事すら怖い。
リードはたまらず、助けを求めてしまう。
「あ……アン、助けて……助けてくれ!」
「ここにいるよ」
そっと、手に温もりを感じる。
暖かく、大きく包み込む手。
「アン、アンなのか!」
胸が熱くなる。
そこにいたんだ。
「大丈夫、今、ルークさんとキャリーが手当してくれるよ」
足音が聞こえる。
思わず、肩を震わせてしまった。
「大丈夫、私がついてるから」
アンの声が聞こえる。
彼女の声が今、唯一の目印になってくれた。
「ちょっと、失礼するぞ」
ルークが包帯をそっとリードの目に当たる。
痛みが走り、体が強張る。
「ちょっと、痛いよ。そんなに強く握らなくてもリード大丈夫だよ」
アンは優しくなだめてくれた。
リードは彼女の手をしっかり掴み、治療が終わるのを待つ。
アシュメに脅されて怖くなったキャリーを宥め終えた後、ルークと共にリードの治療を行う。
彼女がこんなにビクビクとしているのは初めてだった。アンは思わず笑ってしまう。
「これで大丈夫なはずだ」
ルークはそっと距離を置いて呟く。
「俺は救護班じゃないから、後でちゃんと診てもらうんだぞ」
彼はそう言ってヘンリク看守の元へ行ってしまった。
ふと、辺りを見渡すがダインの姿が見当たらない。
先程までそばに居たはずなのに……
「血……」
ポツポツと赤い血が真っ直ぐと一つ目の門へ向かっていた。
「リード」
「なんだ?」
「少し歩いても大丈夫?」
アンの問いかけに彼女は静かに答える。
リードを抱え上げてアンは一つ目の門へ向かった。
血の後は多くなり、小さな小屋の中へ続いている。
「……」
ジッと見つめているとモゾモゾと背中の方で動くのを感じる。
「降ろせ」
リードは呟いた。
言われた通りにすると彼女は地面にしゃがみ込む。
「行けよ……」
「え?」
「心配なんだろ……?」
震える声で彼女は言った。
きっと、まだ不安なのにリードはアンの事を突き放す。
彼女の言葉にアンは甘える事にした。
(手放さなきゃ行けないんだ……)
いなくなるアンの温もりを握りしめながらリードは静かにその場で待つ事に決めた。
小屋に入ると小さなベッドとカマド兼ストーブ、必要最低限の家具だけが置かれた部屋が広がっている。
部屋の中で一人うずくまるダインがいた。
彼はお腹を抑えている。
「痛いの?」
アンの声にダインは顔を上げた。
「あっ、いえ、先程の戦闘で刺さってしまって……大丈夫です。一人でできるので」
彼は言い終わると無理やり枯れ木を引き抜いた。
お腹から血が溢れ出る。
「大変!」
アンは慌てて彼に駆け寄る。
荒い息遣い。
顔色は冴えていなかった。
「死にたくない……死にたくない……」
弱々しい言葉を繰り返し吐く。
ダインのこんな姿を見るのは初めてだった。
「ダイン?」
アンの声に彼はハッとする。
「す、すみません。そのまま、傷口を抑えてくれますか?」
彼は何事もなかったかの様に急いで傷の手当てを終わらせる。
「「……」」
手当が終わった後、二人は向かい合い座る。
いつもは楽しいはずなのだが、先程のことを聞かれて、ダインは居心地が悪く感じていた。
「あの」
怖くて、思い切って口を開く。
「すみません……弱音を吐いて……」
チラリと彼女の方を見る。
アンは別に気にしてないと笑顔を作った。
「私は、兄上が死んで以来、死ぬことが怖いんです。死へ近づくに連れて……狂ってしまうのではと、怖くて仕方ないんです」
雪山で非道の死を迎えた兄上の様に、ダインも狂って死ぬのではと、危機に立たされる度に思うのだ。
そんな、不甲斐ない所を愛する人に見せてしまうとは情けない……
ダインは本気で悔しがる。拳を固め、震えていた
しかし、アンは違った。
「私だって……あなたが、リードが、キャリーちゃんや幸ちゃんが死ぬのは見たくない。みんなが生き残れてよかったって思ってる」
ハニカム笑顔。
彼女の笑顔でダインは心がほだされる。
アンはダインの手に自分の手を絡める。
「ねぇ、ダイン……」
彼女は顔を赤くしながら呟く。
「貴方の苦しみを、少しは私で誤魔化せるかしら?」
ダインはキュッと心臓が震えて、身が引き締まる。
「は、はい!」
思わず返事をした。
アンはダインを床に寝転がらせる。そして、そっと口付けた。
彼女の行動に驚くダインだったが、彼女の思いに身を委ねる事にした。
負傷者の手当ての手伝いをしていたキャリー。
移動中、小屋を遠くから眺め、ちょこんと座っていたリードに気づく。
「どうしたの?」
「さぁな……さっきから出てこねぇんだよ」
リードは呟いた。
「ちょっと、見てこよっか?」
キャリーがそう言い小屋へ、向かおうとした瞬間。
「ダメよ」
アシュメが現れる。
キャリーはすかさず、門の外まで逃げだした。
「大丈夫よ、小鳥ちゃん。もう落ち着いたから何もしないわよ♡」
手を振って呼び戻そうとする。しかし、キャリーは首を振って断固拒絶した。
「そら、そうだろ……」
リードは肘をついて呆れる。
アシュメは分かっていたのか、ため息を吐いた。
それから小屋の方に目を向ける。
「やっと、始めたのね♡」
ペロリと舌舐めずりした。
リードはゾッとする。
アンに何を吹き込んだのか、怖くなる。
「あの子にはアシュメちゃんが、た~ぷりと準備させてあげたのよ♡ 安心して、私は純愛派よ」
何をどう安心すればいいんだ。
リードは思わず顔を覆ってしまう。
嘘をつくな! あんたが純愛派なんて絶対あり得ない!
(自分にはかけ離れた交わりだから尊くて好きと分かるが、認めたくないあやかしである)
ただ、正直、僕もこの二人の掛け合いは見ておきたかったので同罪ですかね?
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