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八重する企みと囚人たち Lv.4(三十五話)

 決着がついた瞬間を幸は目に焼き付けていた。


 とどめを刺そうとしたルークだが、突然武器を手放した……様に見えたが、よく見ると手放したのは剣でなく、その鞘だけだった。

 周囲を撹乱し続けたキャリーに運ばれる。


 瞬きの間に敵の真横へ移った。そして、首を切り落としたのだ

 ずっと、負けないでと手に汗握り、心臓が何度止まるか分からない。それが今、終わったのだ。

 敵を倒す事ができた。しかし、安堵するつかの間。

 彼らは敵を追い詰める為に相手が操っていた、蠢く枯れ木の上を走っていたのだ。しかし、今、敵を倒してしまったせいで木々は元の形に戻り崩壊していく。


 彼女たちが真っ逆さまに落ちてしまうのだ。


「みんな!」


 思わず声が出てしまう。


(飛んで助けに行かなきゃ!)


 羽ばたくイメージが頭をよぎる。しかし、自分にそんな力がない事など、小さい時から知ってた。

 なぜ、今こんなバカな妄想をしてしまうのか、分からない。


 このまま、彼女たちをアンやキャリーが落ちて行くのを黙って見てなきゃいけない事に歯痒くなる。

 その時、彼女たちは誰かにつままれた様に空中に止まった。


「え?」


 何が起こったのか辺りを見渡す。

遠くにいる看守が杖を刺し、光を放っているのが見えた。


「なんとか、間に合ったな……」


 彼がそんな事を言っている様に見える。

 アンやキャリー、アンの彼氏さんがゆっくりと地面に下ろされて行くのを見て、幸は胸を撫で下ろした。

 喜びかけた。その時、屋上の出入り口が蹴破られる。


 バガン!


「どいつもこいつも骨がないわね。怯えて檻に籠っちゃってつまらないわ!」


 振り返るとマゼンタピンクの髪をかき上げ、闇に怪しく輝く黄緑色の瞳の眼。

ゴーレムの生首を持った、露出狂のアシュメ看守長がいた。


「イヤァー!」


 幸は理解に苦しみ、叫んでしまう。

 ズボンを脱いで、上着のボタンをすべて外し、返り血塗れの姿。

なぜそこまで清々しくしているのか、幸は啞然を通り越し、恐怖する。


「あら! サチちゃん♡あなたも夜風を浴びに来たの? 気持ちいいわよね~」


 叫び出した幸に気づき、アシュメはゴーレムの生首を投げ捨てた。

 彼女は人差し指でバツ印を作る。


「でも〜囚人が勝手に外に出ちゃダメよ〜♡」


 不敵に笑う、彼女はゆっくりと歩み取ってくる。

 幸は身の危険を感じ、距離をとって逃げ出す。


「ほらほら、鬼ごっこしましょ♡ アシュメちゃん、今すっご~く機嫌悪いの。捕まえたら、い~っぱい可愛がってあげる」


 レイピアを抜き、懐から銃を取り出した。


(ホラーゲームでも見た事ないクリーチャーだよ!)



 

 地上に降ろされたキャリーたち。

 突然の悲鳴に頭上を見る。


「幸ちゃん!」


 アンは嫌な予感がした。


「アンさん、彼女の側に看守長が!」


 状況が見えるローゼンが教える。


「どうしよう、助けに行かなきゃ」


「待て、貴様はここで大人しくしろ。これ以上暴れれば二度と立てなくするぞ」


 ボロボロのヘンリクがアンに杖を向けていた。


「……」


 キャリーは高い壁を見上げる。

 彼女の目には今、一筋の道がはっきりと見えていた。

 ただ、今は動くべきなのかどうか、分からずにいる。



 

「ほらほら、逃げて! 悪い子はお仕置きよ。でも、弱い子は殺しちゃうかも〜♡」


 柵沿いをたどりながら逃げ惑う幸を煽りながら高らかに笑う。

 端っこに追い詰められた幸は動きを止める。


「あら、もうお終い? そ~れ~と~も~別♡室♡で遊んでくれるのかしら♡」


「ご……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 幸は恐怖のあまり両手を上げて、降伏を唱える。しかし、それを望んでいなかった。

 アシュメは落胆した顔を浮かべる。銃口を突きつけた。


「あなたも他の連中と同じだったわけね。残念、歯向かってくれたら、もっとやさ~しく可愛がったのに」


 引き金を引こうとした瞬間。

 動くと決めたキャリーが壁を駆け上がる。

 何もせずには、いられなかった。

 瞬く間に壁を上り切るキャリーに、幸もアシュメも目を見開く。

 キャリーはここにいる間の安全のために、シャーフから教わったお呪いを唱える。


「ルアーナ・ソウ!」


 その言葉を聞いた瞬間、アシュメは目を見開く。

 これはヘンリクが開発した看守長を止めるためだけの呪文だ。

 彼女の両手にも囚人と同じ様に、呪文が刻まれた腕輪を付けている。

 次の瞬間、アシュメの体は自らを支える事すらできずに地面にへばりつく。


「この……メ、スガキが……」


 キャリーは幸の方を見る。


「逃げて!」


 その言葉に幸はハッとする。

胸を突かれた気がした。

 無実なのに刑務所にいた自分を追い出そうとしたリードや優しくしてくれたアン。

 そして、今助けてくれたキャリーに幸は背中を押された気がした。

 不意に自分ならここから逃げられるのだと気づく。


 みんなからもらった祝福の力があるのだと思い出した。


 幸は両手を広げる。

 黒く艶のある羽が虹の艶めきを放ちながら生えてく。

 足は細く長い爪が生える。


 日の出とともに、彼女は姿を変えた。

 半分鳥の様な姿に変わった幸にキャリーは驚く。


「すごい、綺麗……」


 すかさず、彼女は大空へと飛び立った。

 自由を求めて。

 無事に逃げ出した幸を見て、キャリーは胸を撫で下ろす。しかし、喜びも束の間、呪文の効果は一瞬だった。

 アシュメの体は軽くなり、動ける様になってしまう。


「小鳥ちゃ~ん」


 駆け寄り、逃げられない様に腕を掴む。


「やってくれたわね! 私すっごく不機嫌なの。はぁ、私の心をあなたなら満たしてくれるのよね♡」


 彼女のドロっとした微笑みに全身が凍り付く。

 泡を吹いて倒れそうだ。


「あぁーあなたなら弱くても、貧弱でも楽しめる♡まずは全身の穴という穴を広げてあげるわ!」


 腕をグイグイと引っ張る。

 このままでは、もう二度とどこへも行けなくなる。と悟ったキャリーは必死に足掻いた。


「離して! やだ! やだ!」


「大丈夫、初めは痛いだろうけど慣れれば唾液が止まらないほど楽しいわよ」


 嫌がるキャリーを無理やり連れて行こうとする。

 その時、天空から幸が舞い戻ってきた。


「させない!」


 疾風を起こし、視界を奪う。

 アシュメは思わず顔を覆った。その隙に幸は足を使って、キャリーを彼女から引き離す。

 高く飛び、地上にいるアンの元へ。

 キャリーをゆっくりと下ろした。


「幸ちゃん、それ……」


 翼がある事に驚くアン。

 幸は照れくさそうに笑った。


「リードさんは、きっと私にこの力があるのを知ってたんだと思います」


 改めてアンの顔を見て言った。


「今までありがとうございました。いつか、恩返しをさせて下さい!」


 彼女はヘンリクに捕まる前に、再び大空へと飛び立つのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

えぇ、色々と語りたいけど、まず初めに……そこらのホラーよりやばい女が出てきましたね。

(前々からいたけどね)

結構なハイになってます。

ちなみにキャリーが唱えた呪文はシャーフから教えてもらったものでした。

暴走気味のアシュメに使うためにヘンリクが用意してくれたもので、非常時のみに使います。

常時使うと喜ぶから。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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