八重する企みと囚人たち Lv.4(三十四話)
飛び交う無数の枯れ木の刃。
ダインとアンはその全てを交わし、砕いていく。
視界が一部奪われ、頭がズキズキと痛むデザスター。
先程よりも多く手数を増やし、逃げ道を塞いでいるのに奴らは突破するのだ。
ついには交差する枯れ木を避けて、ダインが接近する。
気がつくと大きな拳が目の前にあった。
「グボッ!」
手痛い一撃を喰らう。だが、青年もタダでやられるつもりはない。
ダインの背後、すり抜けられた枯れ木の形をすかさず変える。
背中を貫こうとした。しかし、完全な死角だったはずなのに、ダインはデザスターを足場に、迫り来る攻撃を交わしたのだ。
(どう言うことだ? なんで、あそこで避けられる!)
自分の血を舐めながら、辺りを見渡す。
(でけぇ女もいなくなってやがる! いや、後ろだ!)
そこには迷いなく近づくアンの姿があった。
デザスターはいつの間にか二人に挟まれている事に気づく。
「「オラオラオラオラオラ!」」
無数の拳が叩き込まれた。
急いで身を固め、上に逃げる。
「なんなんだよ!」
攻撃が当てられず、自分ばかりが痛めつけられることに、イライラしていた。
ふと、城壁の下、岩場に隠れているリードとローゼンを見つける。
その時、思考がリンクした。
デザスターは思わず吹き出してしまう。
「へっ、そう言うことかよ……」
ローゼンはリードに自分の能力を話した。
「は、はい、私には出鱈目な共有の力が……」
「出鱈目な共有? 詳しく聞かせろ」
少女はこくりと頷いき、自分の能力だけを話した。
本当は生い立ちまで話したいが、今は時間がない。
「出鱈目な共有はその名の通り、他者との何かを共有することができます。以前、独房で会話した時、私はあなたと肉体を共有して会話しました」
どこからともなく声が聞こえたのはこれが理由だと分かった。
瞬間、リードはゾッとする。
「俺の中にお前がいたのか?」
ローゼンは慌てて首を振った。
「そうではなく……感覚です。痛いとか、どう思ったとか、私もこの能力をまだ上手く扱えないんです……」
俯く彼女を見ながら、リードは出来ることを考える。
ふと、これがあればと思った事を尋ねてみた。
「なぁ、あいつらの視界を俺に集めるって出来るか?」
彼女の質問にたどたどしく答える。
「そ、そのぐらいなら出来ます」
「それともう一つ。こっちが出来れば勝てる」
リードは確信していた。
「俺の思考をあいつらに共有したい」
先程から見ていてずっと思っていた。自分なら背後の攻撃をかわせる。
死角からの奇襲もできる。
彼らを安全に敵に近づけさせられると思ったのだ。だが、ローゼンにできるか確証がない。
「やれるか?」
彼女の言葉にローゼンは迷いなく頷く。
「やってみます!」
「よっしゃ、頼んだ!」
ローゼンはリードの手を取り、自分の力を意識した。
そして、こう唱える。
繋がれ。
繋がれ。
繋がれ。
触手のように動く枯れ木を交わしていた二人の頭に言葉が響く。
(テメェら聞こえてるか!)
「「!」」
リードの声と同時に伝えたい事が直接伝わった。
(これからお前らの目を俺にする。そんで、俺の方に視界の情報を集めっから、安全な道を教えてやる。分かったな!)
数秒の出来事にアンもダインも同様の一つも見せなかった。
ただ一言。
「「分かった!」」
返事をして走り出す。
そこからは視界がクリアになった様に全体が見える。
今までどうして見えなかったのか、分からないほど。
さらにリードに手を引かれる様に、彼女の意思が自分たちを引っ張るのを感じる。
二人は信じて動き続けて行った。
デザスターの懐に、裏に入り込みラッシュを叩き込む。
たまらず相手は上へと逃げ出すのだった。
「素晴らしい……」
ダインは思わず言葉を漏らす。
「当たり前でしょ」
アンは胸を張って答えた。
「だって、私の相棒なんだもの」
戦いの中でも笑顔を見せるアンに、ダインは思わず顔を赤くする。
(眩しい……)
二人は気を取り直して、リードの指示に従った。
不運なことにデザスターにもこと事は共有されてしまう。
「そういうことなら」
彼は迷わずリードたちへと攻撃を向ける。
木を登り始めた二人にも見えた。しかし、カバーに入れる状況ではない。
(まずい!)
ダインは急いで飛び降り掛けつけようとした。
枯れ木が彼女たちを貫く。その前に、雷に運ばれて帰ってくる兵士ルークが、飛んでくる枯れ木を真っ二つに切り裂いた。
「すまん、遅くなった」
「兜野郎!」
空へ投げ飛ばされたルークが無事に戻ってきたのだ。
「あたしもいるよ!」
どこかから声が聞こえる。
蠢く枯れ木の上を走るキャリーだった。
彼女は周囲の木々を燃やし始める。
相手の武器を奪うためだ。
「また、増えたのか……いいぜ、全員まとめてぐちゃぐちゃにしてやる!」
デザスターは再び無差別に攻撃を始める。
援軍に喜ぶローゼンにリードは声をかけた。
「おい、あいつらとも共有させろ!」
彼女の言葉に目を見開く。
「え、でも、あなたもう」
リードは広い空間で祝福の力を使うのを惜しむ。
その理由は、果てしなく続く情報の数々が、目に負担をかけるからだ。
今もこの戦いを見ている全員と視界を共有していて、とてつもない負荷が掛かっているはず。
「これ以上したらあなたの目は」
言いかけた言葉をリードは遮る。
「いいから、黙って繋げ!」
彼女の言葉に押されリードの視界にキャリーとルークを追加した。
その瞬間、ぐらりとリードの姿勢が崩れる。
「リード!」
「うるセェェ、問題ッない!」
大丈夫なわけがない。
今、彼女の顔は血まみれだ。
血の涙に、鼻血、吐血までしている。
このままではリードは死んでしまうとローゼンは悟る。
「みなさん! 急いで奴を倒して!」
アン、ダイン、キャリーは急いでデザスターの元へ向かう。
ルークは動けない二人の護衛だ。
(ちくしょ……やっぱしんどい。てか、一番やばいのキャリーじゃねえか)
高速で流れ行く視界。
周囲の物がどうなっているのか分かる前に次の物が来る。
頭の中がグニャリとなりそうだった。
(だが、ぜってぇ諦めねぇ)
それでもリードは歯を食いしばり、目を凝らす。
一瞬の隙も見逃すまいと目を凝らした。
「おい、兜野郎! 何ぼっと突っ立てんだよ」
リードはルークに叫ぶ。
「テメェもあいつらに加勢しろ」
「だが、それじゃお前たちは」
誰が守る。そう聞こうとするのが共有で分かった。
リードはニヤケっ面を見せながら煽る。
「俺らは命も軽い囚人だ。それでも守りたいなら早くあいつを殺せ」
顔から血が合うれる彼女の姿を見て、ルークは剣を納める。
「分かった」
言葉と同時に動き出す。
奴らと共有できることに気づいたデザスターは、もう一度、出来るか試す気だった。
そうなれば、奴らは手も足も出ずにやられる。しかし、リードやローゼンに意識を向けても何もならない。
仕方ないので今、向かっている奴らの一人に向けることした。
(あそこの間抜けヅラのデカブツだ。テメェの思考を見せやがれ!)
彼が念じた瞬間、息寄せられる様に彼の視界と思考が浮かぶ。
次の瞬間、デザスターは叫ばずにはいられなかった。
(アン、アン、アン……)
無数の衣装で身を固めたでかぶつ女。
隣で戦っているアンの姿が映っていた。
おしゃれな服を着て、花束を抱える。
真っ白なドレスを着込み、愛おしそうにこちらを見つめてきた。
「わあぁぁぁあ! なんなんだ?」
初めての光景に恐怖すら覚える。
地上では少しだけ嬉しそうにするローゼンがいた。
「あれ、テメーの指示か? イカれてんだろ……」
リードは呆れてしまう。
あんなの共有されたあいつらどうなんってんだよ、と疑問が浮かんだ。が、そこまで問題にはならないとすぐに気づく。
ルークもキャリーも、特に驚かなかった。
(なんか、すごく綺麗だなぁ)
(俺も少し前までやってたな……)
そもそも、気にしていない。
妄想されたアンに関してだが……
「ダインったら……」
顔を赤くして照れているのだ。
それなら私も……、とアンは美しく鍛え上げられた肉体を見せる、彼の姿をいくつも想像した。
「や、やめろ!」
気持ち悪い光景に目を覆うデザスター。
その隙にと辿り着いたアン、ダインが彼を囲う枯れ木を叩き割る。
デザスターはここまで攻め込まれるとは思わずに、足を滑らせてしまった。
落下先に待ち構えていたのはルークだった。
剣を抜く構えのまま向かってくる。
「させるかよ!」
デザスターは急いで枯れ木を操り攻撃しようとする。
瞬きの一瞬、武器だけが取り残され、ルークの姿は消えていた。
どこに行った? そう思った瞬間、彼は首を切られてしまう。
以前、ガンダムの映画を友人と見に行った時に戦闘中、
恋人の事を妄想する男がいて、おもろそうだからつかおと思ったんです。
いざ書いて、そのシーン考えたら、案の定カオスで頭を抱えたんですけど、
よく考えるとダインよりも、彼の裸を妄想するアンの方がやばいのでは、と思いました。
もっと言えば、恋人の裸を妄想する本家のやばさを思い知らされます。
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