八重する企みと囚人たち Lv.4(三十二話)
雷を纏い、駆けつけたキャリーは、リードを抱え、急いでその場を離れる。
「逃がさないよ」
枯れ木を操る青年は言った。
巨大なムチを振り回すように木々を振り回し、キャリー達の逃げ場を塞ぐ。
「Hah、君、めっちゃ早いね。攻撃が当たんないよ」
楽しそうに笑った。
キャリーは珍しく眉を顰めている。
なぜ、こんなに暴れているのか分からないからだ。
「お前、何者なんだ! なんで、こんな事する」
青年の顔はより一層、楽しそうになる。
「僕の名前はロ……」
彼は一瞬、不自然に黙り込んだ。そして、誰かと話すように独り言を始める
「え、なんで……? まあいいか、君の提案に乗ってあげる」
やがて、ニヤリと微笑みキャリーたちの方を見る。
「いや、僕の名前はデザスター、そう名乗らせてもらおうか!」
デザスターと名乗る青年は両手を広げ、枯れ木達に指示を出す。
蠢く奴らは生きているように、
粘土のように自在に形を変える。
気づけば、枯れ木達は人をまね、足を生やす。
キャリー達を囲い込んだ。
「完全に包囲される前に走って逃げるぞ」
リードの提案に首を振る。
なぜ、と聞こうとした瞬間、すぐに答えが分かった。
こちらを見続けるデザスターの背後から二つの黒い影が現れる。
一人は剣を振り上げたバシレイアの兵士。
もう一人は筋骨隆々の大男ダイン、彼らはデザスターに攻撃を仕掛ける。
だが、ほんの少し早ければ届いていたかもしれない。
二人の攻撃は寸前のところで枯れ木に挟まれてしまう。
すかさず二人は距離をとった。
「リードさん、助けに来ました」
「誰、お前ら? ぞろぞろと現れて鬱陶しいな!」
枯れ木を触手のように動かし、あちこちに目掛けて攻撃していく。
キャリーとリードは急いで離れ、ファドン刑務所の方へ向かった。
向こうには用意された兵器があるからだ。
素早く走り出したキャリーを追おうとデザスターは動こうとする。しかし、ルークとダインに阻まれた。
「鬱陶しい……」
攻撃に転じるが、二人は深く踏み入ることが出来ず、苦戦を強いられていた。
予測不可能な動きを取る枯れ木。
他にどんな手を隠しているのか想像のつかない相手。
下手に踏み入り過ぎれば命がないと言う緊張感。
歯痒い気持ちにせかされる。
一本の枯れ木が鋭い針に代わり、突然、動きを変える。
真っ直ぐにキャリーの方を目指したのだ。
「マズい!」
慌てて、ダインが動くが間に合わない。
迫り来る危険はキャリーの目の前までやって来た。
危うく串刺しにされかける。
紙一重のところをアンがへし折ってくれた。
「アン、幸はどうした!」
リードは目を見開く。
「えっと、屋上にまでは連れてったよ……」
アンはたどたどしく答える。
目を凝らしてみると確かに屋上にいた。
こちらの様子を頑張ってみようとしている。
(あの馬鹿、なんでまだ逃げてねぇんだ!)
思わず奥歯を噛み締める。
「リード危ない」
目の前で枯れ木が砕かれる。
「ボサっとしてないで」
相棒の言葉にリードは自然と身が引き締まる。
ざっと周囲の様子を伺うが横槍を企む奴らはいないと気づく。
ただ、目の前の厄災をどう対処すればいいのか分からない。
相手は変幻自在に枯れ木を操り、攻撃を相殺している。
(て言うか、アイツらの動き危なすぎるだろ……いつ死んでもおかしくねぇッ)
果てしなく広い空間だと祝福の力の収集が追いつかず目に負担が掛かる。
これさえなければとリードは頭を抱えた。
顔を上げるとアンの姿が見当たらない。
「アン、頑張れ! ダインもルークも」
キャリーは横で応援している。
他に出来ることがないのだ。
(クッソ……俺もこいつも戦えねぇのが、ウザい……ちくしょう)
デザスターの攻撃はさらに激しくなる。
単純な物量からフェイントまで混ぜて来た。
この中で一番動きがすっとろいダインの足に枯れ木が絡まる。
「しまった!」
体を捻るが外れない。その時、ルークが絡まる木々を切り落とす。
「大丈夫か? ダイン」
「えぇ、ありがとうございます」
二人はすでに肩で息を吸うほど、呼吸がままならなくなる。
(どう攻めれば……)
ルークが攻略の糸口を考えようとした瞬間、体が引っ張られる。
「ルーークー!」
ダインの叫び声を最後に暗闇に投げ出されてしまった。
「は? わぁぁ!」
体が落ちていく。
自分は空に投げ出されたのだと気づいた。
「助けに行かなくては」
「あたしが行く」
唖然とするダインの横をキャリーは駆け抜けていった。
全速力で落ちていくルークの元へ走る。
「俺さ、さっきの奴ら真似したかったんだよね」
デザスターは、枯れ木をまとめて人の形を真似る。
先ほどよりもそれらしく。
木に足が生えた程度だったが、今度のは、体格の良い大男に代わった。
「でぇきた」
青年の呟きと共に枯れ木の人形は、一瞬でダインとの距離を詰める。
「!」
振り下ろす腕は大きな丸太のハンマーに作られていた。叩く力は強烈だ。
「ダイン!」
「アン! お前もだ。馬鹿!」
気づくとリードが飛び込んでくる。背後には波のように大量の枯れ木が押し寄せていた。
一瞬で彼女達は埋もれてしまう。
「アァァァァァン!」
素早く枯れ木の人形を倒そうとするが力勝負を仕掛けられて動けない。
「ッ!」
そんな彼にトドメを刺すわけでもなくデザスターは歩き出した。
同族の気配が近いからだ。
目の前の建物の中にはいない。
外にいるのだと気づく。
そして……
「あっ、みーつけた」
這いつくばり、その場から逃げようとする少女を見つける。
彼はすぐに先回りして逃げ道を塞ぐ。
「逃がさないよ」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
裏話ですが、デザスター、ローゼン、彼ら二人が名前を隠してるのは、
ややこしい現状をさらにややこしくしないために伏せさせていただいてます。
もし、彼らに興味を持ってくださったら、とても嬉しいです……
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
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