八重する企みと囚人たち Lv.4(二十九話)
ヘンリクをノアルアでぶつけたカニンチェン達は、枯れ木の森を歩いていた。
走った所でこの混乱なら追ってこないと思ったのだ。
ただ、彼はずっと考え込んでいる。
次なる一手についてだ。
ふと、足を止めてリードの方を見る。
後をついて来た囚人たちやリードは足を止めた。
「君、まさか、ヘンリクに来る事を知らせていたのかい?」
周囲にいた囚人たちはリードから一歩行く。
本人は平然とした様子で腰に手を当てた。
「はっ、何言い出すんだ。お前がやったんだろ? ゴーレムの奴らも囚人を一斉に解放したのも。俺は何も知らなかったんだぜ。あのおっさんがたまたま、あそこにいたんだ」
彼女の言葉に間違いはない。一つを覗いては。
「いいや、違うね。確かに君の言う通り、この計画の手配は僕がした。だが、脱獄ルートに関してだけを言えば君が用意したんだ」
ギロリと自分より背の低い女囚を睨む。
「そう言えば、君、僕に会いに来てくれる前、独房にいたんだっけ? あそこは彼の担当だ。君、告げ口したろ?」
がっつり疑われている。
こうなると信じてくれと叫んでも耳を貸す奴は少ない。
リードは両手を広げて大笑いした。
「はっははは! そうだよ。俺は、はなっからテメーらを一網打尽にするつもりだったんだ」
「残念だったね。結局、期待したヘンリクは役に立たない。この先、邪魔をする気だったんだろうが、君の様な優秀な奴は計画を達成するのに邪魔になるだけなんだ。諸君、彼女を捕えろ」
「おう」
囚人の一人がリードの手に触れようとした。その時、ヒョイっと倒れ、空をつかませる。
「!」
隣にいた囚人は慌てて彼女を捕まえようとした。しかし、リードにはすでに見えていた事。
体勢を低くして自分より大きな相手を勝手に転ばせる。
「へへ、俺を捕まえるんならもっと早くねえと、見え見えなんだよ。ダボが……」
きつく眉間に皺を寄せる。
「テメェのせいで俺たちの当初の計画は滅茶苦茶だ」
地面から片手に収まる石を持ち上げる。
「落とし前つけさせてやる」
リードは迷いなく前に走り出した。囚人達が足を掴もうとする。が、彼女はわずかに届かない位置を通り過ぎる。
見えている危険には近づかないのだ。
「くたばれ!」
振りかぶった瞬間、背中に空気を包んだ様な重みを感じる。
次の瞬間、自分は押さえつけられたのだと理解した。
振りかぶった手は掴まれ、背中に乗られたせいで倒れ込まされる。
見事にカニンチェンの前に倒されてしまった。
「クソが!」
「カニンチェン様に手を出すのは、私が許さない」
鳥の子だ。
彼女はずっと空からカニンチェンの事を追っていたのだ。
「カニンチェン様、この不届きものをどうしますか?」
鳥の子は、顔を上げて尋ねる。
出来る事ならコイツが持っている石で頭をかち割りたいと思っていた。
尋ねられたカニンチェンは少し考え込む。
答えようと思った時、追っ手に気がつく。
「おや、驚いた。可哀想に彼を殺したのか?」
「たぶらかしたのは、お前だろ?」
走って来たのと、疲労感により肩で呼吸をするヘンリク。
彼はすでにレイピアを赤く染めていた。
「たぶらかした? そんなわけないじゃいか。僕は聞いただけだ。現状に不満がないか、おかしいと思わないか。実際、彼がこっちに来たと言うことは、君たちのやっている事は間違っていたんだよ」
ヘンリクは呆れて言い返す気がない。
首を鳴らしたら直ぐに構えを取った。
「……鳥の子。僕の武器は待って来ているかい?」
呼ばれて彼女は、ハッと返事をした。
鳥の子は急いで肩に背負っていた筒を彼に渡す。
受け取ったカニンチェンは筒から中身を取り出した。
包帯に巻かれた短槍だ。
ゆっくりと解いていく。
「短槍使い……」
「いや……えぇ、一番他の用途に使いやすい武器なので」
カニンチェンはヘンリクに聞こえない様、後ろの囚人たちに指示を出す。
「これから先、生きた人間がいる。そいつを動けない様にしておけ。心臓が動いてれば、問題ない。僕は目の前の奴に集中させてもらうよ」
カニンチェンは短槍を体に巻きつけて、駆け出した。
空を切りながら振り回す。
自分の部下すら殺した男だ。
動きに迷いがないことは、すぐに分かった。
危うい攻撃が何度も掠めてくる。
カニンチェンも負けじと突きを放った。
攻防一体の戦いで決着がつくのは相当先だと思った。その時、ヘンリクは懐から何かを取り出す。
カニンチェンは慌てて距離を詰める。
「ダウン・リブストック!」
ヘンリクの声と共に体をそらす。
何かが通り過ぎていくのを肌で感じる。
次の瞬間、背後にいた囚人が潰れた卵の様に地面に内臓をばらまく。
「……」
カニンチェンは改めてヘンリクの魔法の恐ろしさに気付かされた。
(これは……手は抜けないな……)
自然と槍を握る力が入る。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
カニンチェンが短槍を習ったのは、幼い頃で親の教育の一環でした。
当時は別に深い興味はなく言われるがままでしたが、トラブルなどに巻き込まれる度、ちょうどいい棒を用意するだけで戦えることと、短い刃が他にも使えたりと便利で現在はとても気に入って愛用するようになりました。
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