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八重する企みと囚人たち Lv.4(二十七話)

 暗い通路を抜けて行く。

 長く狭い道を通ってリードとカニンチェン、そして、囚人たちは外へと出ることが出来た。

 しかし、運悪く一人の男が立ちはだかる。

 彼の姿にノアルアは目を見開く。


「ヘンリクさん……」


 いつも、気怠げにしている中年のおっさんであったヘンリク。

 今は一組織を束ね、混乱を鎮めようとする男として、あらゆる問題の解決に打ち込んでいた。

 ゴーレムとの戦闘で息を上げ、疲れ切っている。


「違う」


 カニンチェンが口を開けた。


「彼はもう敵だ」


 その言葉にノアルアはハッとする。


「しかし、困った。彼、相手では僕たちは手も足も出せない……」


 指に顎を添えて考え込む。

 ノアルアは彼の指示を察し、前へと出る。


「ここは俺が食い止めます。あんた達は先に言ってくれ」


 カニンチェンは少し目を見開いたが、すぐに微笑んで頷く。


「頼んだよ」


 囚人達を連れて迂回して行こうとした。


「行かせるわけねーだろ」


「あんたの相手は俺だよ!」


 後を追おうとしたヘンリクの前にノアルアは立ち塞がる。

 ヘンリクは囚人を逃してしまった。


「……」


 渋い顔を浮かべながら、かつての同僚の顔を見る。


「まさか、君が裏切るとはね……」


 彼の言葉に呆れみが混じっているのを感じる。

 ノアルアは話した。


「当然です。こんなの間違っているんだから。あの女は間違ってる! 悪性を敷いた。罪のない人を捕らえ、言われのない罰で囚人の精神を壊した。仲間だって人生を滅茶苦茶にされたんだ!」


 数日前に抗議しに行った彼らは、刑務所の中庭で吊るされたのを見た瞬間、はらわたが煮え繰り返りそうになる。


 許せない。


 あの女も、


 彼女を止めなかったシャーフも、


 こんな奴を上につける国の方針も、


 何もかもが許せなかった。


「あんたもおかしいと思わないか? あんな痴女を看守長にするなんて。俺と一緒に革命を起こしましょう!」


 知って欲しかった。

 自分がとった選択の理由を。

 きっと分かってくれると思った。


「あぁ、分かるよ。可笑しいよな……」


 ヘンリクは髪をかきあげる。


「あの尻軽女もだが、テメェが革命家だったとはな」


 彼は降ろしていたレイピアを構えた。


 話はついえた、と分かったノアルアもレイピアを抜く。


 次の瞬間、瞬く間に距離を詰め、刃を交えた。


 軽い剣がぶつかり、独特の音が響き渡る。

 一度、ズレたものは元には戻らない。


 ノアルアは迷いなく、ヘンリクの急所を狙い、付いていく。

 手数は圧倒的に有利だった。


「どうしたんですか! こんな程度じゃないでしょ」


 声を張り上げ煽る。


「……」


 怒涛の攻めの中で、ヘンリクの守りが崩れる隙を見つれた。


(そこだ!)


 迷いなくノアルアはつく。が次の瞬間、明らかな違和感を覚える。


「訓練が染み付いている様だな」


 ヘンリクは片足を軸に青二才の攻撃をそらした。そして、流れる様に真っ直ぐと毛鉤の様に細い剣を突き刺す。


「ぐはっ……」


 バシレイアの兵士は日頃の訓練を欠かさない方だ。


 剣術は身を守り、仲間を守れる術である。


 その為、日頃からファドン刑務所でも訓練を行っている。

 長い稽古を続けていると若いものはへばってしまう。

 だから、ヘンリクはケジメとして、いつも、最後の一撃を大きな隙を与えて、導いてやっていたのだ。


 彼もまた、その一人だった。

 ノアルアは何も言い残す事はなく、息を引き取ってしまう。


 ヘンリクはあっけないと冷たいため息を吐いた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

アシュメ・ダイ、シャーフ・シェラタン、ヘンリク・シュタール、ノアルア……

今回、メインで出てきた看守たちですが、実はノアルアだけ、苗字がないんですよね。

この世界では階級、地位が比較的高い家計には苗字が与えられているんです。

逆に地位が低い、アンや登場してないオリパスには苗字がないんですよ。

ノアルアの裏切りの原因は多々ありますが、

ほんのわずかに格差のコンプレックスも要因の一つになったのかもしれません。


「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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