週刊・魔法少女をつくろう 〜あなただけの魔法少女がつくれる〜 創刊号は666円(税込)
オッスオイラ子供部屋おじさん33歳。
どこに出しても恥ずかしい黒縁眼鏡のガリオタニート!
とはいえ5年前まで働いてた貯蓄と3年前に当てたキャリーオーバー中の宝くじ(1等)のおかげでもう一生働かなくてもいいんだがなおまいらとは違うのだよ。フヒヒヒ嫉妬乙。
そんな引きおじつまり俺はもう長いこと魔法少女モノに夢中だ。幼稚園児の頃からの筋金入り。
親はとっくに孫の顔を拝むことを諦めてるし宝くじ様のおかげで引きニートしても文句の1つない。
いっそ最近は俺のことを息子と孫の二役として扱っている。俺はばぶ。
金だけはあるオタニート俺は最近ネットで面白いものを見つけた。
週刊 魔法少女をつくろう 〜あなただけの魔法少女がつくれる〜 創刊号は666円(税込)
デア◯ステ◯ーニって軽快な音楽が脳内を過ったけど、販売元はどうやら違うらしい。とんだエセゴ◯ティー◯だ。
創刊号といいつつブツが届くのは最終刊だけで、それまでは毎週AIちゃんと通話で一緒に様々なデザインを固めていった。
AIちゃん、あまりにもリアルおなごでめちゃくちゃ緊張したでござる。
そして今日! ついに! 俺様の完璧なデザイン監修の成果が! 届くのだ!!!!
「たかしーーー! 昼飯食べるのかい!!!」
「いらねーーー!」
「荷物届いてるけどあけていいのかーーーい?」
「開けんなババァーーーーーー」
どうやら俺が夢の中で可憐な魔法少女たちと戯れてる間にすでに届いていたらしい。
慌てて部屋を出て一階に降りる。
「あんたね、好きに過ごせるだけの金はあるし家から出ないのは止めないけどね。そろそろちゃんとご飯食べたり運動したりしな? あんたのほうが早く死にそうでかーちゃん心配だよ」
「ごめんて。荷物部屋に置いたらやっぱ食べるよ。ありがと」
少しは料理も覚えなっていういつもの説教を背中に受けつつ、段ボールを持って階段をあがって部屋に戻る。
「ま、飯の前に開封式するんですけどねー」
カッターで丁寧にテープ部分へ切れ目を入れ、ゆっくりと開いた。
「さあ、開封後まず目に止まったのは渾身のデザインのマスコットキャラとー……変身バングル…だけ?」
「そうだよたかしくん」
え?
この女性声優が演じるかわいい系美少年ボイスはどこから?
「ぼくだよ。テルテルだよたかしくん」
ムクリ。そんな効果音が似合いそうな動きで、俺デザインのマスコットであるテルテルが起き上がり、浮き上がった。
浮いた? ビンクのテルテル坊主みたいなこのぬいぐるみが?
「か、かがくのちからってすげー……」
現存する技術でできなくはないと思うけどこんなすげぇ技術が総額3980円(税込)でよいのだろうか。
「さあたかしくん。そのバングルを腕につけて。そのバングルにはたかしくんがデザインしたすべてが収納されてるんだ」
「えええ凄すぎだろ…」
ということは、俺がデザインした魔法少女イクラたん身長136cm 1/1スケールも取り出せるってぇことぉ?!
「さあたかしくん。君が決めたあのセリフを言うんだ」
「マジカル☆ヒロイン・イクラ! ウェイク・アッーーーーーープ」
高らかに叫ぶと、変身バンク用に決めた曲(9割AIちゃん1割俺作曲)が流れ始める。
ちなみにいつもアニメのセリフを一緒に叫ぶから母ちゃんは特に気にしない。
音楽とともに俺がデザインしたコスチュームが少しずつ現れる。
バングルをつけた右手からはじまり、左手、インナー、レギンス、シューズ、そしてドレス。
最後は髪の毛をツインテールに―――って
「俺に着せてどうする!!!!!」
イクラたんは……俺の理想オブ理想はどこに……!?
「きみこそが、魔法少女イクラだよ」
「はっあああぁぁぁぁぁぁあ!?」
これの! どこが! イクラたんだというんだ!
これじゃあただのおっさんの雑コスプレじゃないか。
こんなのに金払ったなんて俺は認めない!
クローゼットについてる鏡を見ても、どう見ても痛いおっさんの女装でしかない。
海を模した爽やかなデザインがいっそ滑稽だ。
ガチャッ
「たかしー! 早く来ないとチャーハン冷めるよー!」
「勝手に開けんなババァ!!!!」
最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ。
母ちゃんに見られてしまった。
俺には女装趣味はないのに、元々の趣味のせいで絶対誤解されちまう。こんなのを女装だなんていうのも烏滸がましいというのに。その方面に真剣な人たちに土下座したいレベルだ。
「あっあんた…どこのおじょうさんだい…? まさかたかしに誘拐……」
「は? 何いってんだよ」
こんな格好をしている息子に対する戸惑いによる母親なりの気遣いかとも思ったが、それにしては目が本気だ。
「言っただろ? きみこそが魔法少女イクラだって」
「は?」
「今のきみは、他の人には魔法少女の服を着た小学生くらいの美少女にしか見えないんだ」
そんな展開求めてないんだが!?
「もしその状態を解除したいなら設定したセリフを言うといいよ」
そうか。そうだった。
設定したセリフで変身できたなら解除もできるのは道理だ。
「ウェイク・ダウン!!!!」
変身のときと違って解除は一瞬でほっとした。
これで母ちゃんの目にも普段のうだつの上がらないTシャツGパンの俺が見えているはず。
「たかしあんたどこからでてきたんだい…? それに今ココに小学生くらいの女の子がいなかったかい……?」
「ホログラムだよホログラム! 立体映像をだすおもちゃなんだ! 映像に驚きすぎて俺の視界に入ってなかったんじゃねぇの!?」
「はあ……そうかい……そこの浮いてるぬいぐるみといい最近のおもちゃは凄いわねぇ……」
母ちゃんなきつねにつままれたような顔をしつつも、何とか納得して部屋を出てくれた。何だかんだ息子を信用してくれていて助かる。
「はあ……これはもうクリーニングオフだな……」
せっかくあんなに懸命にしたデザインたちが勿体なくはあるけど、俺が望んでいる代物とは違いすぎた。
このバングルもデザインは気に入っているけれど、とっとと外して返送してしまおう。
「……っと…あれ? 外れない……?」
「1度魔法少女になってしまったら外すことはできないよ。魔法少女は運命から逃れることはできないからね。無理に外したら死んじゃうよ」
「はあ!? 巫山戯んじゃねぇぞ!」
「魔法少女レベルが上がれば変身時には本当に肉体も魔法少女になるからがんばってね」
俺はもう膝から崩れ落ちるしかなかった。