エピローグ:鎌倉賦
次に現れたのはふわりちゃんだった。
「もう、無茶ばかりして。本当にしょうがない子なんだから……」
彼女は相変わらず、母親のような口ぶりだった。
優しい手つきで俺の頬を撫でる感触がある。
「……眠ってる? 眠ってる、よね?」
口調が少し変わった……?
なんというか、普通の学生のように。
「私、本当はこんな子じゃなかったんだよ……? 知らないでしょ? 知らないよね……? 中学も女子だけだったし、男の子となんか全然話せなくて……でも、そんな自分を変えたくてv学に入って……」
そうだったのか……
いつも積極的だったから、そんなイメージはなかった。
……イメージ。うん、これも勝手なイメージか……
「そんな私でも、キミだったら話せるかもって思ったんだ……って言ったら怒るよね」
怒る。
でも、理解はできる。
「ピンク色の髪なんて、昔の自分が見たら卒倒しちゃいそう……でもね、そのくらいしないとダメなんだもん……キミを蛇崩さんが囲い込んでるから……キミと仲良くなろうと思ったら……もっと強い人にならないと……ママみたいに強い大人に……」
ん?
夜崩が囲い込んでいる?
確かにあの暴君は下僕だの、所有物だの言ってるか。
だが、俺と友達になるのを邪魔するようなヤツじゃない。
実際、九介だって別に――
と。
何かやわらかいものが頬に当たる感触がした。
え? 今の、何?
まさか――
「私をこんな風にするなんて、いけない子なんだから……めっ、ですよ」
最後の口調は、いつもの通りだった。
動けないし声も上げられないだけに、自分の心臓の音だけが妙に大きく聞こえていた。




