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VTT

「ニャハハハハハハハ!! 命人は最高の椅子だな!! 褒めて遣わす!!」

 戦闘後に椅子にされていた俺だが、ご満足いただけたようだ。

 こちとら物理的に尻に敷かれて気分は最悪だが、背中の感触的な意味ではそうとも言い難く、まぁ複雑な気分だ。

 いずれにせよ、戦闘終了で校舎から出てきた生徒たちにすごい目で見られている以上、早く終わりにしたい。

 そんな呼吸を察してか、すっくと立ちあがる暴君。

「おかしい」

「えっ?」

「馬鹿者。よく考えよ。ふわりが戻ってこん。それにこの状況で戦教(せんきょう)が出て来んわけがあるか」

「確かに……!」

 先ほどまでの柔らかな感触とは打って変わって、背筋を冷たいものが走る。

 戦教は戦闘教員の略で、実技の指導教員であり、こうした有事には戦闘も職務としている。

 確かに、v域が発生して、先生が出てこないはずがないのだ。

「v域は校舎の一部まで伸びていた。おそらく、向こうにもv獣が出たのだろう」

 俺が立ち上がるまでの間に、夜崩は武器を鉄球から組み立て式の大鎌に持ち替えていた。

 どうしてこう、マニアックなv器ばかり使いたがるのか。

 大半の生徒のv器は剣、弓、槍またはなぎなただ。

 これはそのまま剣道や弓道、なぎなたといった習い事や部活動と重なるところが大きい。

 経験者にとってこれほど使いやすい武器もないだろうし、その人口の多さが、未経験者の入り口としても安心感があり、よく選ばれる。

 鉄球だの大鎌だの使っているのは夜崩くらいだろう。ガンダムだって同時に使ってる奴はいないのに。

 特注らしいが他に使う人間はいるんだろうか。

 そんな大鎌を手に校内に入っていく様は不審者以上の何かだが、判断は的確だ。

 慌ててその後ろを追いかける。

 と、全く同じタイミングで、校舎から大きな人影が出てきた。

「おお、古賀先生ではないか」

 戦闘教員の古賀くれは女史である。

 2m近い長身で筋肉質の女性がゴスロリ服を着ている上にどでかい斧槍(ハルバード)を持っているので初見なら驚くだろうが、俺たちは毎日顔を合わせているので流石にそれはない。

「……大丈夫?」

 体格に似合わずというと失礼かもしれないが、古賀先生はか細い声で言う。

 パーマのかかった長髪から、漏れて聞こえて来る感じだ。

 授業中も二言三言しか言わないし、本当に無口なんだろう。

「ニャハハハハハ。こちらは暴君(ボク)と命人がさらりと片づけたぞ」

 何を奥ゆかしいことを。

 ほとんど一人で片づけたくせに。

 明らかに海野先生と古賀先生で話しぶりが違うが、古賀先生はまだ19歳というのもあるんだろう。感覚的に3年生とほとんど変わらないし。

「そう……種別は……?」

「ヌリカベ3、カッパ2、テング1ですね」

 俺がそう言うと、だらりと下がった長髪の間からでもはっきりわかるほど目の玉を大きく見開いて古賀先生は驚いていた。

「嘘……」

「ところがどっこい、事実です。夜崩があっという間に片づけてしまいました」

「すごい……」

 古賀先生がふるふると震えている。

「きっと、【VTT】にだってすぐ入れる……よ?」

「ニャハハハ。引く手あまたよの」

 VTTは、v獣対策の専門家集団だ。ヴァーチャル・タクティカル・チームの略らしいが、恰好つけるための建前で、v獣対策隊の略称だと思う。

 全国五大都市に支部を置く組織で、日本をv獣から守護している。

 v獣を認識できなくてはならないため、17歳から20代前半の隊員で構成されているのが特徴で、v学はそもそもVTT隊員の選抜も目的の一つだ。若者を集めて自衛手段を教え、かつまとめて守るというのももちろん目的ではあるが。

 戦教は全員VTT出身で、実戦経験者が選ばれている。

 若い時期しか所属出来ない組織だけに、上がりを迎えた後の就職先や進学先は手厚いことで有名だ。

 むしろそれ狙いでv学に入る生徒も少なくないが……。

「しかし、暴君(ボク)はVTTに興味はない。人に使われるのは好まん」

「そう……一年生はなれないから……ゆっくり考えてもいいかもね……」

「それより、ふわりを見ていないか?」

「あのピンクのコ……? 見てないけど……」

「えっ、ふわりちゃんがシャッターを下ろしたんじゃ……?」

「シャッターは……私が下したよ……?」

「!?」

 その場の全員に衝撃が走る。

 最悪の想像が頭に浮かんだのだ。

「ふわりの奴め、まさか【神隠し】に……!」

「先生は、他の先生に連絡を! 俺たちは最後に見た辺りを探します!」

「りょ、了解……!」

 VTT時代の癖なのか、敬礼をする古賀先生。

 気持ちが当時に戻るのもわかる。緊急事態だ。

「よし、では暴君(ボク)は、下々の者どもに協力を強制してこよう!」

「頼む! 俺は最後に見た辺りを探してみる!!」

 言いながらもう走り出す。

 強制じゃなくて要請だろとか、そういうことを言っている暇はない。

 暴君は暴君だが、判断はいつも的確だ。俺に対しては異常だけど。

 校庭に出てきていた生徒たちを上手く率いてくれるだろう。

 それより、最後にふわりちゃんを見たのは、校舎に向かっていく姿。

 あれは1年の校舎だった。シャッターのレバーは、最寄りだと1-A教室の横にあったはず。つまり、その近くにいる可能性が高い。

 ただ、v域はそこまでかかっていたのも確か。

 そして、古賀先生が交戦した以上、v獣が校舎に現れたのも確かなのだ。

「……無事でいてくれよ」

 もう陽が完全に落ちてしまって、校庭も薄暗い。電灯は自動でつくので、真っ暗ということはないし、校舎も電気は点いている。

 それでも、この暗さが嫌な予感をさせてくる。

 v域が消えた以上、流石にv獣はもういないと思うが、ベルトのバックルに仕込んだナイフに手をかけながら校舎に足を踏み入れた。

 下駄箱周辺を見渡すが、ふわりちゃんの姿はない。

 廊下に出て、奥まで見渡すがやはり姿はなかった。

「二階に上がるわけはないし……先生を呼びに職員室に向かったのか……?」

 v学の職員室は一階にある。これは戦教が出撃しやすいようにそうなっている。

 古賀先生と入れ違いになったのかもしれない。

「……待てよ」

 冷静になってみると、俺はふわりちゃんが訓練された人間のように動いた場合で考えてないか。

 ふわりちゃんは高校からの入学組で、まだ数か月しかv獣対策を学んでいない。

 既に3年、v獣対策の教育を受けている俺や夜崩とは違う。

 v獣の目撃率は、芸能人と出会う確率とあまり変わらないと聞く。

 全然ないわけじゃないが、極端に多いわけでもない。

 俺たちはv獣ネイティブ世代だから幼い頃から対策こそ教わるが、至近距離の遭遇なんかめったにないし、戦闘経験がある人なんてひと握りだ。

 なら、パニックになったり怯えるほうが自然なんじゃないか。

 だとすれば、校舎に出現したv獣を見て、逃げたり、隠れてる可能性もある。

 うん、その線がありそうだ。

 夜崩で感覚バグってるけど、それが普通のはずだ。

「おーい! ふわりちゃーん!」

 声をかけてみる。

「もう大丈夫だー! 出てきていいぞー!」

 反応はない。EGGを使って気絶している可能性もあるな。

 それこそ幼児の頃から教わる緊急避難術だし。

「職員室側で倒れてたら見つかっているだろうし……ってことは逆側かな」

 二階に逃げて行ったのかもしれない。

 v域から離れれば安全なのだから、それもあり得る。

 俺は、職員室の方向とは反対側の、階段の方へ向かった。

「は?」

 そこで、有り得ないものを見た。

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