東京タワーパニッシャー
「ニャハハハ。よくやった!」
「!」
声は上。映像は下。
下方に見える空に、夜崩が居た。
それは虚像ではなく、まぎれもなく現実の暴君だった。
なぜなら、「俺の想像を超えていた」からだ。
「後は任せよ!! そしてどくがよい下々ズ!!」
夜崩は、へし折れて落下する臨界樹――いや、東京タワーの先端に立っていた。臨界樹の崩壊で重ね合わせが解け、枝がほどけ落ちて東京タワーの姿が見えていた。
俺はこの時初めて、自分が東京タワー「ごと」臨界樹をへし折っていたことに気づいた。
同時に、いつまで経っても地上に落ちてこない理由もわかった。
いつの間にか目を覚ました夜崩が、空中で吊り上げていたからだ。
その背には巨大な炎の翼が生まれており、物理法則を無視した浮力を得ていた。
「ハァ!? 夜崩パイセンマジ何やってんの!?」
「そ、そんなこと出来るんですか!?」
慌てて影の落ちているエリアから避難していくみんなも、あまりの光景に半信半疑だが、夜崩は満足気に高笑いしていた。
「ニャハハハハ!! 命人に出来て、暴君に出来ないはずがない!!」
「な、なんですの!?」
俺が出来るということが、コイツにとっては可能のラインなのだ。
それを信じているから、出来てしまう。
敵は東京タワーを臨界樹に重ねることで存在強度を上げようとしたが、それは同時に、東京タワーの存在強度を落としたということ。
結果、炎のエフェクトで、タワーを持ち上げることが出来たのだ。
理屈を超越した幼馴染が、東京タワーをサーフィンのように乗りこなし、猛烈な速度で灼熱のマンゴーに突っ込んで行く。
夜崩はアンテナに乗っているが、その先端には大鎌の刃が取り付けられていた。
一方、燃え盛るvvvは、既に俺のすぐそばまで迫り、その熱波を肌で感じるほどだった。
「くっ、このコだけは仕留めましてよ!!」
だが、夜崩の方が速い!
「その身で圧政を受けよ! 東京タワァァァァァパニッシャァァァァ!!!」
「なっ」
圧倒的な質量が、vvvに直撃。鎌の刃がその胸を貫いた!!
「ぐあああああああああああああああああああああああ!!!」
それはどんなイメージで防御しようが防ぐことが出来ないほど、暴力的で破壊的な一撃だった。
あまりの衝撃に、埋まるほどの地面に突っ込み、更に大地を大きく穿った。もはやvvvがどうなったかなど全くわからないほどの衝撃。
自重を支えきれない鉄骨が砕けながら地面に突き立っていく。
大質量の落下で掘り起こされた土砂は俺の正面で炸裂し、なすすべなく吹っ飛ばされる。
それをキャッチしたのは、やはり夜崩だった。
着地と同時に、俺を飛び越えたのだ。真上をパンツが通っていくのが見えたから間違いない。
「ニャハハハ、褒めてつかわすぞ」
夜崩は珍しく俺の頭を撫でると、炎のエフェクトを少しずつ減らして着地した。
地上はまだ土煙が収まりきっていない。
その土煙を突っ切って、小柄な影が上空に飛び出した。
間違いようがない。セノだ。
その手には、例のマンゴーの種と、そしてメロンの種を巨大化したものが握られていた。
「ゆるさない!! ゆるさないんだから!!」
おそらく、vvvが消滅し、種が遺されたのだ。
「まだやる気か? 良いぞ。まだいたぶりたい気分だ」
夜崩がにやりと笑う。
だが、抱えられている俺はわかるが、指先は震えているし、鼻血も垂れてきている。
そもそも、土煙舞う地上に降りたのだって、限界だったからだろう。
東京タワーを持ち上げるなんて無茶をして余力なんかあるはずがないのだ。
だから、これはハッタリ。
「つ、つぎ! つぎは勝つもん!!」
しかし、セノも余裕はなかったらしく、これが効いた。
臨界樹が折れてもなお残るv域に向かい、飛び立つセノ。
が、途中で振り向くと、こちらを指差してきた。
「そこのお兄ちゃん!! セノは妹と書いて妹なの!! おぼえときなさい!! あんたはぜったいに妹が侵してやるんだから!!!」
意味不明な捨て台詞を残し、セノはv域に向かって飛んでいく。
「あのポンコツ苺は何がいいたいのだ?」
「さぁ……?」
最後までセノは色々喚いていたが、その姿もやがて消えた。
それを見た瞬間、緊張の糸が切れるのがはっきりとわかった。
自分の中の緊張の糸まではっきりイメージできていたのは、少し可笑しかったが。
とっくに限界なんて超えていたのだ。
目の毛細血管が破れたのか、視界が真っ赤に染まり、俺も鼻血が噴き出す。
「おい! どうした命人――」
真っ赤な視界が今度は急にブラックアウトし、ほどなく意識も消えた。