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イン・デス・メロン

「あの樹を引き倒す」

「はぁ?」

 ヴァージン・ヴァレイとセノがぽかんと口を開けた。

「そんなのできるわけないじゃん! ざーこざーこ!」

「現実を直視できないのですね……お可哀そうに」

「いいや、出来る!!」

 出来るはずだ。

 あの臨界樹は、しょせんイメージの存在だ。

 重さなんてものは本来「ない」。

 あれは虚像だ。巨大で重厚なのは見た目だけだ。

 重さを感じているのは、先入観に過ぎない。

 だから、破壊することだってできるはずなんだ!

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 背負い投げのように、糸の束を引っ張る。

 山でも引いているかのようなビクともしない重量が糸の先から伝わってくる。

「愚かですね。何のために東京タワーと重ねていると思っているのです。イメージは重なり合い、同等の重量を想像しているでしょう? それでなくともここまでの解像度が生まれれば、そのまま超巨大樹としても認識されているでしょう。無駄なのです」

 解像度が低い時は東京タワー、高い時は超巨大樹としての実存感が重量を想像させる。なるほど、よく考えられた防御策だ。

 だがそれがどうした。

「関係あるかああっ!!」

「実現可能とは思いませんが、見過ごすほどお人よしでもありませんわ」

 背負い投げの体勢の俺は、メロン果汁の網を生み出そうとしているヴァージン・ヴァレイの姿を捉えた。

 くそっ。今邪魔されるわけにはいかない!

「すまん! 助けてくれ!!」

 俺の目線の先には、ふわりちゃん。

 ふわりちゃんは、静かに夜崩を地面に下ろすと、そのまま背を向けて走り出した。

 うん、それでいい。

 ふわりちゃんはそのまま、なぎなたで梃子の捕らえられていたネットを切り裂いた!

「サンキュ!」

 飛び出した梃子が釘バットで野球ボールをノックしまくる。

 それは粘性を伴ったペンキをまとい、果汁の網に激突。その速度を押しとどめる。

「たあああああっ!」

 そこに飛び込んで行ったふわりちゃんの、風を纏ったなぎなたが、唸りを上げて網を切り裂いた。

 遠距離と近距離の梃子、中距離のふわりちゃん。相性のいい二人が、進撃する。

 ヴァージン・ヴァレイはネットを乱射するが二人のコンビネーションを崩せない。

 彼女も弱っているのだ。

「もう、あなた何してますの! 手伝いなさいな!」

「えー、しょうがないなあ」

 焦ったヴァージン・ヴァレイに促され、セノが戦線に復帰した。

 ダメージが濃厚とはいえv7だ。

 これは――まずい。

「ニヒヒッ、のいちボムくらっとく?」

 セノの髪に、まるで髪飾りか冠のようにノイチゴが生えて来る。

 彼女はそのノイチゴを、適当にむしるとそれを放り投げた。

 空中でバラけたそれが雨霰のように降り注いだ。

 直後、次々と起こる爆発。

 それは、粒の一つが爆弾であり、いわば極小のクラスター爆弾だった。

 イモータルパレスの時の石像爆弾に比べれば破壊力はおとなしい。しかし、これでは避けようがない。

「きゃああっ!」

「くっ、なんだし!」

 爆撃は二人を襲い、そのまま俺の方にも飛んで来る。

 衝撃と熱波を感じるが、糸を引く手は意地でも緩めない。

 心が折れなければ、あの大樹だってへし折れるはずなんだ!

「ホホホ。やればできる子です。貴方は」

「ニヒヒッ、もっとほめてほめて」

 調子に乗ったセノはノイチゴ爆弾をバラまき続ける。

 まずい、想像以上にセノの回復が早い!

「オーホッホッホッ! 折れなさいな! イン・デス・メロン!!」

 ヴァージン・ヴァレイが巨大なメロンを己の上に生み出す。

 それは果汁の塊がメロンの形を成しているだけだ。

 ネットに加工するなど攻撃で使っている果汁を、凝縮してエネルギーの塊を生み出したのだ。

 おそらく、大爆発を起こしたのもあの技だろう……!

 くそっ、あんなものぶつけられたら、とても糸を維持できない!

 マズ――

「うおおおおおおおおおおおお!! 出遅れたあああああああああああ!!」

 直後、崩壊していたテントが下から吹き飛んだ。

「羽田隊長!?」

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