臨界樹
追い詰められたセノは、なんと自分の衣服を爆破した。
「!?」
衣服と共に糸が弾け飛び、下着姿――当然のように苺柄――のセノが自由になる。
しかし、逆さ吊りになっていたので、そのまま地面に落下。
顔面を強打する寸前、そのパンツをひっつかまれて助け上げられた。
「貴方、何をしてますの」
それは、地上近くに浮遊したヴァージン・ヴァレイだった。
だが、服もボロボロで、体中傷だらけだ。
「はなせよーおっぱいメロン!」
「聞き分けなさい。殺界臨まで使ったのでしょう? 潮時ですわ」
「うぐっ」
やはりリスクはあったのだろう。
実際、苺を模した服はボロボロと崩れ始めている。イメージで形作られている生命体が、反動で体を維持できなくなりつつあるのだ。
そんなことより、こいつがここにいるということは――
「箱雲丹さんたちをどうした!!」
「想像以上でしたわ。まさか私が追い詰められるなんて。辺り一面吹き飛ばしたのでわかりませんが、運が良ければ生きてらっしゃるかもしれませんね」
「だが、あんたも無傷じゃない」
「オホホ……どうかしら。でもどちらにせよ、もう私たちの勝利は確定していますの」
「何!?」
「えっ!?」
おい、何でいま、セノまで驚いた?
「貴方ねえ……勝手に作戦に参加するからです」
「だって……だって……会いたかったんだし」
「ともかく、考えればわかるでしょう。【臨界樹】がここまで安定してしまえば、もはや人類に打つ手はありませんもの。オホホホホ」
「ニャハハハハハ!!」
高笑いするヴァージン・ヴァレイ。わかってるのかわかってないのかつられて笑うセノ。
臨界樹というのは俺たちが世界樹と仮称していた、東京タワーと重なるあの大樹に違いない。
確かに、若い都民が多数観測したために、もはや解像度は完全に実物と区別がつかないレベルになっている。
「樹が安定したからなんだっつーの」
梃子が釘バットで野球ボールを打ち放った。
野球名門校のノックのように正確に放たれたボールは、ペンキをまき散らしながらヴァージン・ヴァレイに飛んで行く。
「汚らしいものを向けないで下さる?」
彼女の正面でメロン果汁がネットを作り出し、ボールを受け止めた。
「なっ!?」
そしてそのネットがきりもみしながら直進、梃子を押し飛ばした。
俺も援護するように糸を飛ばしていたのだが、ネットに巻き込まれて断ち切られてしまった。
面の制圧力は糸と相性が悪すぎる。
「駄々っ子の相手は一人で充分ですの」
「ちょっと! 誰のこと!!」
「くそっ! 出せよっ!」
梃子のダメージは大したことがないようだが、メロンの網目模様のネットで地面に縫い付けられてしまっている。
「別に、今の私でも貴方たちを全滅させるのは容易いのですよ。ですが、我々の偉業を人類が知らないというのも味気がありません。この国が生まれ変わるその瞬間を、見せてあげようというのです」
「何だと……」
「臨界樹はまもなく、【V】の時を迎え、王の実を結実する――」
恍惚に顔を緩ませるヴァージン・ヴァレイ。
言葉の意味はわからない。だが、それは人類にとって脅威であるはずだ。
「そう上手く行くもんか。棘抜長官たちだってあそこには乗り込んでいるんだ!」
「オホホホホホ! 頼みの人類最強も既に倒されましたわ」




