イメージ
イメージ。そうイメージだ。何度も繰り返してきたルーティンのおかげで、糸なら容易にイメージできる。両手の指から大量の糸を生み出していく。
「あ、アンタそんなこと出来たの……?」
梃子が呆けている。
エフェクトは、ゲームソフトの属性でイメージするのがもっとも容易いため、火炎や雷、風に氷などがほとんどだ。ペンキもたいがいだが、それだって水のイメージだ。
糸なんてエフェクト、俺だって聞いたことがない。もちろんやろうと思えばできる人もいるんだろうが、俺の場合、強みは糸そのものじゃない。
「気づいたのは今さっきだけどな」
これだけの数が出てくれば、流石に知覚できる。
今まで一本だけだったから、まさか実体化しているなんて思ってもいなかった。
いや、ごく最近まで単なるイメージで、エフェクト化はしていなかったんだと思う。
そうじゃなければ誰かが気づいたはずだ。
本当に、ごく最近、おそらく命のやりとりをする中で、目覚めた力――
自分の成長が追い付き、いつの間にかエフェクトになっていたのだ。
極度に集中させたイメージの産物であるがゆえに、自分だけでは絶対に気づけない矛盾。
「ばかね。そんなにたくさん、あやつるイメージできないでしょ?」
「かもな」
だが――
「えっ!?」
本命の一本が、セノの足を絡めとった。
全く知覚できない速度でセノに到達していたのだ。
「俺のイメージした糸は、光の速さで届く!!」
「そんなのよけられないじゃん!!」
ずっと照準用のレーザーサイトの代わりにイメージしてきたその糸は、だからこそイメージの上では光と同義。見えた瞬間にもう着弾する。
銃弾にエフェクトは纏わせられない。速すぎて見えないからだ。
だが、命中までの過程を無視できるなら、関係ない。
視認と着弾が同時なら、過程を想像する必要がないからだ。
糸を繋ぐ際にヴァイスたちが驚いていたのは、このことだったんだ。
知覚できない速度で、糸が自分に着いている、その事実に気づいたからあれほど警戒していた。
「だからお前の負けだ!!」
「こんなの切っちゃえば……!!」
「もう遅い!」
俺は一本釣りの要領でセノを吊り上げた。
「にゃわーっ!?」
そしてハンマー投げの要領でぶんぶん振り回す。
「ひええええええええええええ!!」
遠心力で戦意をシェイクしていく。もはや殺界臨とやらを維持する力もなくなっただろう。石柱やアーチも消えていく。
「よし!」
残りの糸で縛り上げて蜘蛛の巣のように広げ、そこにセノを貼り付けて逆さ吊りにした。
「す、すごいですアキラちゃん!」
「へ、へー……やるじゃん」
スキルを褒められるのは悪い気はしないが、調子に乗っている場合ではない。
「くっ、くのっ……」
「無駄だ。下手に動かないほうがいい。糸に切断のイメージを足すくらい、簡単なことなんだから」
「ひっ……!」
苺のように赤いほっぺだったセノの顔色が真っ青になる。
糸で切断するのはフィクションに限らず、ケーキや果物でよく見かける。
果物と親和性のよいv7なら、いわんやだ。
やりたいかどうかは別にして、出来るかどうかなら、おそらく出来る。
「やっ、やだーーーお兄ちゃんのバカーーーーー!!」