俺のエフェクト
「セノーーーーーッ!!」
俺は弓を構え、爆風の向こうに現れたセノに向ける。
「……ゆるさない!! ゆるさないんだから!!」
セノも爆風を受け、ボロボロだ。もはや飛ぶ力も惜しいのか地面に降りている。
だが、その目は怒りに燃え、活力は失われていない。
「許さないのは――」
「こっちのセリフだっての!!」
俺が言い終わるより早く、背後から梃子が突っ込んで来た。
引きずるように構えた釘バットからペンキをまき散らし、セノに飛び掛かる。
「じゃまするなああ!!!」
釘バットを二丁拳銃の銃撃で受け止めるセノ。
余裕を失っているせいで弾丸はクオリティの低いペンギンの煮崩れになっている。
それでバット自体の衝撃は受け止めたものの、ペンキがまき散らされ、セノの全身に降りかかった。
「ぷわっ、何すんのよ!!」
「……っざけんなし……!!」
梃子の怒りようは尋常じゃない。
バットを止めたペンギン崩れを、そこから更に振り抜いて吹っ飛ばす。
逃げようと下がるセノだが、ペンギン崩れから伸びたペンキが、ゴムのように彼女の体と繋がっていた。
ペンキのエフェクトは粘性を自在に操れるのか!
「にゃに!?」
パチンコの勢いで飛んできたペンギン崩れが直撃し、動きを止めるセノ。
「許さない? 邪魔するな?」
そこに更に梃子のバットが振り抜かれる!
「アニキを使い潰したてめーらが……言えたことかああああ!!」
そうか。梃子が【解放】の話の時あれほど怒りをあらわにしていたのは、兄が【神隠し】にあっていたということか!
梃子はその怒りを両腕に込め、セノにぶつかったペンギンくずれごとフルスイングでかっ飛ばす!
「ぐぬうぅ!!!」
なんとセノはそれを耐えた。
二丁拳銃を真後ろに撃ち、その威力で耐えていたのだ。
だが、梃子はそんなことお構いなしにバットをペンギンくずれに乱打する。
「アニキは、何も覚えてないっ!! 一緒に海に行ったことも、溺れていたウチを助けてくれたことも! 一緒に河川敷の花火を見に行ったことも、真冬の天文台で冬の大三角を教えてくれたことも……全部全部覚えてないっ!」
「しらない……そんなのしらないもん!」
「あんなに頼りになったアニキが……まるで小さい子どもだ!! 九九をいま覚え直してるんだ!! 勉強を見てくれてたあのアニキがだぞ!! わかるか!! その妹の気持ちが、アンタにわかるのかーーーーっ!!」
怒りのフルスイングがペンギンくずれを引き裂いてセノを吹っ飛ばした。
「ぐううぅ!! セノだって……セノだってええ!!」
ボールのように吹っ飛びながら、しかし、セノは抵抗を止めず、でたらめに銃を乱射した。
適当な造詣のピラニアか何かとなった弾丸のいくつかは、梃子に迫る。
「そんなもん――」
打ち返そうとする梃子。
だが――
「ぼんっ!!」
「あっ!?」
そのピラニアもどきが、炸裂した。
火炎が渦巻き、破壊力がまき散らされる。
だが、コイツが爆発に頼ることはわかっていた。
だからここで、梃子を「手繰った」。
俺の横に、すとんと落ちる梃子。上手くいったようだ。ケガはない。
「えっ、え? 今の何?」
「俺がとんでもないバカだったってことだよ」
とっくに答えは出ていた。出来ていた。
自分だけ気づいていなかったんだ。
「やっぱり、お兄ちゃん、とんでもないエフェクトをもってる……!」
セノが苦々しげに顔を歪める。
「そうだ。お前たちv7の知覚力で、初めて気づいたよ。俺自身、見えてなかったんだから」
俺は弓を捨てる。
もうこれは必要ない。
v器としてはグローブさえあればいい。
「俺のエフェクトは、【糸】だ!!」