イモータルパレス
文字通り、世界が瞬間的に書き換えられた。
「は?」
芝公園に、石柱や石のアーチが大量に出現している。柱の上端の波のような文様はイオニア式だったかコリント式だったか。アテネの遺跡のような異様な光景だった。
「ニヒヒ……これがセノのおくの手! イモータルパレスだっ!!」
おそらくセノの認識能力とイメージ能力が跳ね上がり、v域を上書きするほどになったのだ。
つまり、世界の一部まるごとアイツのフィールドにしたということ……!
セノは空間ごと支配したことで強制的に夜崩との距離を離していた。地面が動く歩道のように移動し、夜崩が俺の傍まで押し出されている。
「貴様何をした!!」
「ニヒヒヒッ! セノの闘度は12! でも殺界臨で倍! あんたらにかち目なんかないんだよーだ! ざーこざーこ!」
何だと!? 確かヴァージン・ヴァレイの口ぶりだと、闘度はv値と同じはず――
「紗々璃ちゃん以上のスーパーv値じゃと……!!」
「そうよ! セノこそスーパーびっちよ!!」
おつむは強化されていないようだが、能力は劇的に向上しているのがわかる。
なぜなら、体の周りを複数のエフェクトが飛び回っているからだ。炎に氷に雷、他によくわからないエフェクトの球体が衛星のように本体を護衛している。
「行くのよ! パルテノン!!」
石のアーチから、大理石の石像が次々と現れた。
異様な光景だ。だが、どこかで見た気がする。
しかし考えている暇はない。石像が殴りかかって来る。
唸りを上げる石の剛腕。
こんなもの当たったら終わりだ。エフェクトもクソもない。
大理石の塊で殴られたら人間は死ぬ。
だが、そんな石像が山のように襲い掛かって来るのだ。
「こんなの……どうしようもないぞ!!」
「いや! チャンスだ! こんな技、リスクがないはずがあるか!!」
夜崩は石像の群れをかわしながら、どんどん先へ進んでいく。
「もう! なに! 当たれっ! 当たれってば!」
敵の攻撃の精度が、明らかに落ちている。まるで当たらない。
そうか! これはイメージの産物。
ということは、これだけの数を出して脳の処理が追いつくはずがない。
出せば出すほど精度が落ちていき、操作もおぼつかなくなっていくだろう。
だが、セノはムキになってどんどん石像を増やしていく。
夜崩の言う通りこれはチャンスだ!
俺も石像に射かけて動きを鈍らせていく。
後ろからはふわりちゃんも駆けてきている。
行ける!
そう思ったとき、夜崩が位置を下げ、俺に耳打ちをしてきた。
「気をつけろ。ぬいぐるみは爆破できていた。石像に出来ん道理はない」
「!」
いつも夜崩の戦闘センスには驚かされる。
俺は考えすぎるきらいがあるが、それでも辿り着けないところに夜崩は軽々辿り着く。
視野の広さと思考の柔軟さがまるで違う。
進み過ぎたところでこの数の石像が全部爆発したら、死ぬところだった。
「どうする? 時間を稼いで奴のパンクを待つか?」
「いや、それでは意味がない。v7の行動自体が時間稼ぎだからだ」
「!」
これも忘れるところだった。
世界樹は、明らかに大量の人間に「観測させるため」に出現している。
VTTの反撃が長引けば長引くほど、v域が安定化してしまう!
「案ずるな。こちらも奥の手を使う」
「奥の手? そんなの聞いたことも……」
「これをやると暴君もしばらく使い物にならん。あとは任せたぞ」
「え?」
「蹂躙の時間だ!!」
夜崩の足が火を噴いた。