怒り
最強だと……?
舌足らずで噛んでいるし、本人が言ってるだけのようにしか思えないが、常人の尺度でこいつらを測ること自体危険すぎる。
「最強には見えんな」
「弱そじゃね?」
「あらあら。ちっちゃい子が出てきちゃ駄目よ」
みんなは容赦なかった。確かにヴァージン・ヴァレイに比べたら各段に……いや、体格を基準に弱そうとか考えること自体、自分に刺さるからやめておこう。
「ムキーーーーッ!!」
ムキーって口で言ってる……なんかそういう奴ばかり集まってくる気がするけど気のせいだろうか。
「セノの強さ、見せてあげるんだから!!」
セノが二丁拳銃を構える。
だが、既に俺は矢を番えている。
いつも通り、頭と糸を繋ぐイメージで――
「!?」
瞬間的に、セノが飛びのいた。
ヴァイスの時と同じだ! なぜだ! なぜわかる!
やはり殺気なんてものがあるのか!?
「そこのお兄ちゃん、なんてひどいことしてくるのっ!」
「ひどいって言われても……お前は敵だし」
そりゃ、人間型の敵を射るのはこっちだって抵抗があるが……。
「にゃっ! もうおこった!!」
セノは、銃を持った腕を自分の前で交差させるように構える。
意味があるようには見えない。
「ジグザグショット!!」
しかし、放たれた弾丸は、交差しながらジグザグに進んでいく。イメージで生み出された弾丸だからこそ、意味のないポーズに意味が生まれる。
交差の度に火花を散らし、威力を上げているのがわかる。
物理を超越した弾丸――
「ざっけんなッ!!」
それをまとめて打ち返したのは、やはり梃子のバットだった。
「怒ったって? 怒ってんのがテメエだけだと思ってんの!!」
怒りの形相で梃子が突っ込んで行く。
セノが撃ちだす弾丸を、優れた反射神経で叩き落としていく。
「すごいな……」
「まずいぞ。v7がこの程度のはずがない」
確かにそうだ。ヴァイスもヴォルケーノもこんなもんじゃなかった。
攻撃を誘っているのかもしれない。
「暴君も突っ込む。援護せよ!」
だが、だからこそ暴君は行く。そういう奴だ。
「私も行きます!」
「正しい判断だ! 敵の狙いが散るほど良い!!」
夜崩とふわりちゃんが大鎌となぎなたのエフェクトを全開にして突っ込んで行く。
俺に出来るのは、援護だけだ。
しかし、狙いをつけるたびに軸を外されて射ることすら出来ない。
俺が手をこまねいている間にも、梃子は銃弾の雨を潜り抜けて肉迫する。
「食らえし!!」
釘バットのフルスイング。水のエフェクト――いや、カラフルなペンキがバットにまとわりついている。
そのフォトジェニックな一撃を、セノはゼロ距離で発射した弾丸で迎え撃つ。
「なっ!?」
今まで通りはじき返されると思われた弾丸は、肥大化し、バットを押し返す。
弾丸は、巨大なクマのぬいぐるみになり、そのまま弾丸の勢いでバットを握ったまま、交通事故のような勢いで梃子を吹っ飛ばす。
「うわっ!?」
放物線を描いて飛んでいった梃子はジャングル化した公園外縁に突っ込んで行く。おそらく葉がクッションになってくれているとは思うが、すぐに戦線には戻れないだろう。
一方、バットのペンキでベタベタのクマは、それでも勢いが落ちることはなく、そのまま夜崩に飛び込んでいく。
「狩るなら獅子が良いのだが!!」
夜崩の大鎌が真正面からそれを切り裂く。
両断されるぬいぐるみ。
しかし次の瞬間――
「ぼん!」
カッと光ったかと思うと、大爆発が巻き起こった。




