表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/74

エフェクト

「【ヌリカベ】か……つまらん!!」

 ヌリカベというのはもちろん妖怪の名前だ。

 v獣にはそれぞれ長ったらしい正式名称があるが、それを使っている人は少ない。

 その姿は我々の認識が妖怪という形に当てはめているのか、妖怪めいている。

 そこで、v獣は似た姿の妖怪の名前を当てはめて呼称されることが普通だ。

 こいつはまさにその典型例で、大根のような植物が横に広がったような形をしている。

「油断したらダメよ、蛇崩さん」

 ふわりのなぎなたの穂先はぷるぷると震えていた。

 無理もない。高校入学組は、まともにv獣と向かい合う経験をしたことがないものも多い。

「ここは俺らに任せて」

 こちとら中学もv学だ。そう多くはないが実戦経験だってある。

 ヌリカベの脅威度は低い。俺たちでも対処できるはずだ。

「大根おろしにしてくれるわ!!」

 空を割いて鉄球が飛ぶ。

 厳密には強化プラスチックだが、威力はそれで申し分ない。

 なぜなら――

「ニャハハハハハハ!! 爆ぜ散れ!!」

 命中の瞬間、けたたましい轟音と共にヌリカベが爆発した。

 有言実行、大根おろしがまき散らされる。

 ヌリカベの胴体が大きくえぐれていた。

「わ~すっごい……爆発を扱えるなんて……」

「爆発の【エフェクト】を使えるのは学生だとアイツくらいかな」

 エフェクト。それは、武器に特殊効果――すなわちエフェクトを発現させたもの、あるいはその能力を言う。

 侵食してきたv域は、疑似仮想現実だ。ヴァーチャルな空間がそこにあるものとして俺たちの脳が認識している状態であり、極論、集団催眠に近い。

 それを逆に利用したのがエフェクトだ。

 仮想空間を自分の「イメージで上書きして」武器を強化するのだ。

 専用の武器――v器(ヴき)には専用の伝導体が仕込まれており、持ち主のイメージを拡大。

 それはv域上で仮想的にエフェクトを発生させる。例えば俺の場合、弓矢とグローブのそれぞれに伝導体が仕込まれている。

 v獣も半仮想的な存在ゆえ、このエフェクトの効果をモロに受けるのだ。

 だが、爆発は不定形な上、速度をもっており、イメージするのが難しく、使い手は非常に少ない。

 日頃から感覚的に生きている人間向きのエフェクトだと言われているが――

「ニャハハハハハ!! 焼きサンマが欲しくなるな!!」

 次々と振り回される鉄球は、命中と同時に大爆発。

 ヌリカベの面積を次々削り取って、大根に似た組織をまき散らす。

「命人! サンマを買って来い!!」

「ヌリカベ食うつもりかお前!!」

「それもそうだな! 大根もだ!!」

「もう本末が転倒してるじゃねえか!!」

「めっ! 乱暴な言葉遣いしちゃダメですよ!」

 駄目だ。二方向同時にツッコミは出来ない。

 こいつらの緊張感の無さよ。

 ともあれ、ヌリカベはもう上半身を消し飛ばされている。

「わたしたちの出番……なさそうですね」

 夜崩は変人だが天才だ。

 低級なv獣では触れることすらできないだろう。

 獲物が鎖のついたトゲ付き鉄球を振り回すスタイルなので俺たちも近づけないが。

「ヌリカベだって脅威なはずなんだけどな……」

 v獣は本当に危険な存在なんだ。

 若者をv域にさらっていく――【神隠し】を引き起こす生物災害。

 ヌリカベは触れた者を体に取り込んだままv域に帰っていくので、戦闘能力という意味ではさほどでもないが、危険度自体は高い。

 それを感じさせないほど、夜崩が強いのだ。

 よく例えとして言われるのが、「授業中にテロリストが学校を襲う妄想は誰しもするだろうが、そればかり考えている人間が強い」ということ。

 そういう意味では、夜崩は何度も頭の中でテロリストを殲滅していることだろう。

 と――

「あれ……?」

 おかしい。違和感が広がる。

 それが確信になる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ