本音
風呂場事件はこの後も滅茶苦茶大変だったのだが、思い出すのもアレなので記憶の底に封印した。本当に大変だったんだ。わかってくれ。
その後も訓練は続き、ひと月が経とうとした頃、体育館にクラス全員が集められた。
今日は2年と3年の戦闘特進クラスもいる。
前に立つのは箱雲丹さんと、金髪を先のほうだけ赤くした独特な髪の女性だった。顔には大きな傷があり、歴戦の戦士を思わせる。
「よう一年坊。はじめましてやな。ウチは、2年を担当しとる羽田ときじくや」
確か、大阪支部から出向して来ていたはずだ。関西弁なのも頷ける。
「何で集められたか言うで。まぁ簡単や。VTTでv域にカチコミをかける。その手伝いをしてほしいというわけや」
「ニャーッハッハッハッ!! ついにこの日が来たか!!」
他の全員が言葉を脳内で反芻して理解している最中に、一人だけ脊髄反射で暴君が笑い出す。
「なんやオモロイやつがおるなあ」
「蛇崩さん。話は最後まで聞きましょう」
「ニャッハッハッ許せ」
別に話の腰を折りたかったわけではないらしい。腕組みして暴君的に聞きの体勢に入る夜崩。
「何も前線で戦えっちゅう話やない。アンタらには後方支援を頼みたいんや。3年生は出撃するVTTの代わりに緊急時に出動する役割があるさかいな」
なるほど。VTTとしてはなるべく多くの戦力を割きたいが、それだと通常業務が手薄になる。
なりふり構わない印象こそあるが、悪い手ではないだろう。
そもそも若者しか見れない以上、学徒動員もなにもないのだ。
それに、v域に突入するなら、大勢の観測で安定させた方がいい。
「敵に情報が洩れたらアカンからな、実はもうこの後すぐ行動開始や」
「ええーーーっ!?」
体育館が揺れるほどのざわめきが起こるが、夜崩は一人頷いている。
「なんで、参加したない奴は、今ここで降りてくれ。現場で怖気づくんはナシや。ウチらに命預けれるやつだけ来てくれ」
ドンと胸を叩く羽田さん。
それから、志願する者だけが残るように言われたが、多くの生徒たちが残った。
もちろん、俺や夜崩は残っていたし、ふわりちゃんや梃子の姿もあった。
そんな俺たちの前に出てきたのは、吹田先生と海野先生だった。
「みなさん……覚悟を決めたみなさんの前に、それでも言いたいことがあります。もしかしたら、その覚悟を台無しにしてしまうかもしれません……でも、聞いてください」
吹田先生の目は、泣き腫らした跡があった。
「私の本音を言えば……みなさんには行って欲しくありません」




