5・決戦芝公園
v学襲撃事件の世間に与えた衝撃は凄まじいものだった。
中学高校が襲撃される大規模テロなど、日本においては存在しないと言っていい。
学生を集めることで、v獣の大規模襲撃の可能性は元々指摘されていた。
だからこそ自衛の手段を教える学校がv学であり、そのジレンマは構造的なものだ。
いずれにせよ、危惧が現実化し、生徒たちが危険にさらされたのは確かだ。
しかもVTT本部が陽動で襲撃され――こちらはほどなく撃退されたそうだが――その間にv学が狙われると言うのは、想定されていない事態だった。
連日この問題がテレビを賑わせ、政権やVTTの責任論にも発展したが、やがて下火になった。
中高年はv獣を見れないし、見たこともない。
TVの主要な視聴者にとって、理解できない他人事だったからだ。
しかし、実際に我が子を入学させている親たちは当事者と言える。
結果として、v学を辞める生徒が多数……いや辞めさせられたというのが大部分だろう。
襲撃を受けて心配になって転校させたがる親の気持ちはわからなくはない。
それは自衛のためにv学に入れたことと矛盾するように見えるが、我が子がいない俺には究極的には理解できないことだと思う。
そうして転校した生徒の中にはベンゾー君もいた。
本人は残りたがっていたが、親があまりに心配するので無理だった。「進学校に入りたがっていた時には行かせなかったくせに、いざ襲われたら転校だなんて……僕の人生、なんなんでしょうね、ハイ……」と言っていた彼の顔が忘れられない。
やっと自分の中で折り合いをつけて、v学が楽しくなってきた頃だっただろうに、あまりにも残酷だ。
こうして、高校入学組を中心に、退学者は全体の半数にも及び、クラスの合併が行われることになった。
各学年3クラスだが、それが2クラスになる。
引き裂かれるクラスが出るというよりは、先日のv値計測を元に、戦闘力を基準にクラスを振り直すという方が近い。
一般の学校が学力で特進クラスを作るようなものだ。
高いv値を持つ生徒にはより戦闘訓練を、そうでない生徒は生存訓練を重点的に行うと聞いている。
v値は3~7の生徒がほとんどなので、v値5の俺はどちらのクラスに振り分けられてもおかしくなかったが、夜崩やふわりちゃんと同じAクラスになった。
残念ながら九介はBクラス所属となり、よほど無念だったのかその場でふわりちゃんに告白してフラれていた。かける言葉もない。
ただ、絶対にAに上がってやると息巻いていたので、期待して待っていたい。
誰が悪いわけでもないが、こうして友人と引き裂かれると、喪失感が襲って来る。
俺たち世代の、何一つ思い通りにならないようなそんな無力さは、いつまで経っても慣れることはない。
仕方ないのを理解しているからこそ、やるせない。
ともかく、襲撃事件から3日間休校、および自室待機となっていたが、ようやく組分けが終わり、新たなクラスでの授業開始日になったのだ。
本来は年度頭にある再会や別れで教室内はわいわいしている。
「ふわり、アンタ、髪ピンクに染めたの!?」
「う、うん。そうだよ」
「見かけても別人だと思ってた……あんまりにもキャラ違うし……どしたの急に?」
「い、いいじゃない別にもう!」
ふわりちゃんは中学時代を知る友達と再会したようだ。
自分の黒歴史を知る人間というのは面映ゆいものだ。
高校デビューだったんだな、ふわりちゃん……
そんなケースはともかく、クラスが違うとはいえ、たいていの同級生の顔は頭に入っているものだ。
だが、明らかに知らない顔があった。
いや、正確には知らないわけではない。
学校では見たことがない顔という意味だ。
そのため、見た瞬間に――