雑草
大騒ぎをしていてお咎めなしなはずもなく。
放課後、俺たちは奉仕活動として草むしりをそれなりの時間やらされた。
罰のはずなのに、暴君が妙に楽しそうだったのが印象的だ。「雑草めが!!」とか言いながらすごい勢いでむしっていた。彼女にとって、雑草は圧政対象なのかもしれない。
それが終わると、報告も兼ねて、校舎の隅っこ、どこか薄暗い生徒指導室への出頭を命じられていた。いわば呼び出しだ。
俺たちというのは、俺と夜崩とふわりちゃんの三人だ。
九介の野郎は含まれていなかった。
何でだ。俺たちと並べたら、まだ普通に見えるからか。
生徒指導室で立たされた俺たちの前に座っているのは、眉毛まで白髪のおじいちゃん。
海野紋二という古典の先生なのだが、年齢不詳だ。
どう見ても定年を超えてそうなんだけど……
そんなおじいちゃん先生だが、その佇まいには不思議な威圧感がある。
なんというか、武術の達人のようなたたずまいというか……
「ンム……授業中に騒いじゃアいかんナ」
普通のことを言っているだけなのに、言葉の重みを感じる。
そのせいか、止まったら死ぬんかというような性格の夜崩まで大人しく話を聞いている。
「授業をナ、ちゃんと聞きたい子もおる。その邪魔をするのは粋じゃないわなア」
「はい……」
その通りだ。
騒いだ俺たちが悪い。……俺巻き込まれただけな気もするけど。
「それじゃア、もう騒がんようにな」
「へ?」
全員の間の抜けた声が重なる。
「ええと……」
言いにくそうなふわりちゃんと違って暴君の動きは早い。ずい、と前に出る。
「それだけですかなのじゃ?」
丁寧語使おうとするとバグるお前の口調はなんなんだよ暴君よ。
「ン。まァ、お前さんたちは、頭いいから、言われたことはわかっとるだろ」
信頼なのか放任なのか。
「だが、これだけは覚えといてくれナ。いまお前さんたちが過ごしとる生活は、そりゃアもうかけがえのないもんだ。きらきら、宝石みたいなナ。だから、大事にすごしてくれナ」
海野先生の言葉には、なにか青春時代を理不尽な形で奪われているかのような響きがあった。
……戦中世代じゃないよね……?
「先生は、戦中世代ですかなのじゃ?」
なんでお前はそんなに躊躇がないんだ暴君。
「ほっほっほっ、よほど年寄りに見えているんかナ」
先生は笑っていた。
でも、質問には答えてなかった。
……戦中世代じゃないよね……?