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超反応

「!?」

 バナナの葉が一気に展開。

 先ほどより数が増えており、その全てから五線譜が出現した。

 だが夜崩は気にしないどころか、五線譜の上に飛び乗った。

 そして、音符に触れるより先に次の五線譜へ飛んでいく。

 あれが実体のないエフェクトだったらすり抜けるかも、というような躊躇が全くない。

 義経の八艘跳びを思わせる華麗な動きだ。天井すら蹴って跳ぶのは、尋常なボディバランスと空間認識能力じゃない。

「うわ……すご」

 ヴァイスは振り下ろされる鎌をバナナの葉で受けながら――延焼したら切り離し――頭から引き抜いたバナナの皮を回転ノコギリのように投げつけていく。

 俺もそれをぼーっと見ているわけではない。

 矢で援護しようとしているのだが、この下駄箱の狭さでは、夜崩に当たるおそれがあって、下手に撃てない。

 そこで、回り込むことにする。廊下の窓から外に出れば、挟み撃ちに出来るからだ。

 v域侵食でジャングル状態の校庭に飛び出す。

「な……」

 ジャングルはもう解像度的には実物と大差がない。驚くほど侵食が進んでいる。

 ベンゾー君たちがどこにいるかもわからない。

 だが、今はそれより夜崩の援護だ。ヴァイスの方へ矢を構える。

 そして我が目を疑った。

「ぐ、ぐ……」

「お持ち帰りにするね……」

 回り込むためにほんの数秒視線を切っただけだ。

 だというのに、夜崩が五線譜でぐるぐる巻きにされていた。

「夜崩!!」

「射よ!!」

 逡巡がその声で消える。逃げられない相手。人質は殺さない相手。

 それらの理屈は、後から来る。

 俺はもう矢を番え、いつもの糸を結ぶイメージのルーティンに入っていた。

 上手く五線譜の影に隠れ、相手の視界外に回り込んだ。これならかわせない。

 が。

「あぶあぶっ……!」

 ヴァイスの額に糸を繋ごうとしたその瞬間、信じられない超反応でヴァイスが射線から飛びのいた。

「……何てことするの……意地が悪いよ……」

 ヒヤリとしたのはこっちだ。

 なんだあの反応の速さは。殺気なんてものはフィクションの存在だ。

 なのになぜあんな超反応が出来たんだ。

 人間の思考が読める?

 いや、やつらは集合的v識から生まれたが、人間の個々の意識に接続しているわけじゃないはずだ。

 いや、そもそも人間ではない相手だ。目以外のセンサーを持っていてなんら不思議はない。

 どこかにカラクリはあるはずだ。が、考えている暇はない。

 射るしかない。

「くそっ」

 ヴァイスは五線譜を盾にして、間合いを取っている。

 ヘッドショットはとても出来ない。

「自分なんかが油断したら……笑えないもんね……」

 躊躇した間に音符が四方八方から押し寄せて来る。展開された大量の五線譜が、視界を埋め尽くす。

 夜崩がやってみせたように、五線譜の途中を射て逆流させるしかない。

 近いところから順に射るが手が足りない。

 こうなったら腹をくくるしかない。

 雨霰と降り注ぐ音符の群れの、可能な限り密度の薄いところに突っ込んで、インファイトだ。

 最悪でも夜崩を解放する。してみせる。

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