4・v7来臨
v7?
ニュースでよく聞く国の――いや、そんな違うのが明白なことに思考を使うな。集中しろ。
「追いつめたつもりだったのに、がっかりだよ~」
喋る。そりゃ喋るよな。
震える脚とは裏腹に、思考が冷えていく。
一方、夜崩は鉄球をぶんぶんと振り回していた。
古賀先生は、そんな俺たちを手で制す。
「逃げて」
「暴君は逃げん。王は後ろを見せぬもの」
「お願いじゃない! 逃げろ!」
いつになく、はっきりと通った声で先生が言った。
それで理解出来ない奴は大馬鹿だ。
俺は両足を自分ではたき、何とか動かそうと気合を入れる。
「逃がすと……怒られるから……逃がさないよ……」
その声は、バナナのような見た目に反し、妙に陰気だった。
「え?」
面食らったその一瞬で、バナナ女は全身の葉を開いた。
体を包む大きなバナナの葉が、四方に展開した。
煽情的に肌が露出したことも含め、サンバダンサーを思わせるが、そんな平和なもののはずがない。
陰鬱な表情とあばらが浮かぶほどのスレンダーな体型と、南米の祭りめいた派手な姿が、全く合っていないが――
「先手必勝!!」
夜崩が鉄球を放つ。俺の横をかすめて鉄球が飛んでいく。
先生のあの制止を聞かないなんて何を考えてるんだ。
面倒くさそうに顔を歪めたバナナ女は、平然と鉄球を見ていた。
「ラ♪」
「ダメ!!」
古賀先生が叫ぶがもう遅い。
バナナ女は広げた葉を振動させた。
次の瞬間――
「は?」
その声を漏らしたのは、俺か、夜崩か。それとも両方か。
五線譜が空中に出現した。
それはリュウグウノツカイか何かのようにうねうねと空中を泳ぎ、その背に乗って音符が飛んで来る。ひっくり返った帽子のような形は、たしか全休符だ。
そして音符が鉄球と正面衝突。
鉄球の生み出す爆発のエフェクトは、その音符によって受け止められた。
爆発が、音符から出た水面のような波に押しとどめられているのが見える。
「自己紹介もまだなのに……どうせ自分なんて……」
「ならば貴様はなんなのだ」
「自分は……ヴァイス・ヴォイス……。v7の一人だけど――」
「ああああああ!!」
相手が言い切るのを待たず、古賀先生が突っ込む。
穂先が折れたハルバードはただの槍だが、エフェクトが三角錐の槍を思わせる放電を起こす。
その雷の槍を全休符が押しとどめた。
「くっ」
「話の途中で攻撃しちゃうんだ……そうだよね……こんな陰気臭いのが、こんな派手派手で……生きててごめんなさい……」
ほとんどビキニほどの面積となった葉の衣装が覆う体を、恥ずかし気に隠しながらも、どんどん四分音符を放っていく。
それは爆弾の群れ。
爆発規模だけなら、夜崩の鉄球の方が大きいだろう。
しかし、続けざまに起こる爆発は、先生が押し込む力を簡単に圧倒、吹き飛ばす。
「きゃああっ!?」
吹っ飛ぶ先生にも次々音符が着弾。
俺と夜崩を超えて、そのまま壁に叩きつけられた。