上位
「そう思いつめるな。悪いことばかりではない。もし植物を使うなら、大人やカメラでも視認できるということだからな」
「なるほど。v人自体も存在強度が上がれば、カメラに映るかもな……」
「ともかく、首謀者は処したのだ。あとは雑魚を始末すればよかろう」
「そうだな」
ふわりちゃんは目を覚まさないので、担いでいくことにした。
夜崩が。
……俺の体格ではどうあっても、担げないからね……。
せめてもの手助けに、鉄球だの大鎌だのは俺が運んでいるが。
「ニャハハハ。背中に乳が当たってよい感触だわ」
男らしく女の子を持ち上げるもできない俺に比べて、夜崩のほうがよっぽど男らしい。
問題は言動がセクハラおやじのそれなことだが。
流石にツルを降りていくわけにはいかないので、階段から下へ。
意外にも中までv域の侵食は進んでいなかった。
おそらく、観測者の大半が外から見ていたためだろう。
そもそも休日だし、学校の中にほとんど人はいないから、そういう意味では安全性は高い。
寮が真っ先に襲われたのも、生徒はみんなそちらにいるから、観測がそこで起こったためだろう。
「これなら、ふわりちゃんは保健室で寝かせとくほうが安全そうだ」
「そうしよう。君主ともあろうものが、下々の者をずっと担いでいるというのも体裁が悪い気がしてきた」
体裁を気にするなら暴君なんかするなよ、と言いたいが、コイツが気にしているのは、暴君としての体裁なのでスルーしておいた。
ともあれ驚くほど順調に1階まで降りることができ、ふわりちゃんも保健室に寝かせることが出来た。寝息も立てているしこれで安心だろう。
「よし、では残る敵どもを処していくとしよう。と、その前に、外に出ているがよい」
「え?」
わけがわからないが、保健室から追い出された。
数分して、出てきた夜崩は制服だった。
「お、お前、それ……」
「うむ。ふわりより租借した」
「拝借みたいに言うな」
「パジャマでは恰好がつかんからな」
「何を考えて生きてるんだ……」
寝てるふわりちゃんからひっぺがしてきたってことだろう。もうセクハラおやじなんて域は超えている。暴君としか言いようがない。
しかし緊急事態なのも事実。
うちの制服は戦闘を想定して生地も丈夫だし、武装を搭載しやすい構造だ。武装だらけの夜崩は、制服が大事と言える。
「ニャハハ。女子高生とかけて、暴君ととく」
「……その心は?」
「どちらも「せいふく」が大事よ」
言うと思った。
そして、お前はなんてドヤ顔が似合うんだ。ドヤ顔選手権なんてものがあったなら殿堂入り確定だろう。
とまぁ、その時まではそんなバカ話もできたのだ。
その空気が一変したのは、下駄箱の先、玄関で古賀先生と鉢合わせたときだった。
先生はズダボロで、あちこち血を流し、肩で息をしながら現れた。ハルバードは半ばで折れ、ただの槍になっている。
「先生!」
「きみ、たち、なんで」
息切れが激しく、まともに会話も困難な先生。
「にげて」
しかし、その瞳には強い意志の色があった。プロフェッショナルだけが持つ色が。
「心配ない教官殿。ピーマン野郎は暴君が始末した」
煽りすぎてピーマン抜けてないぞ。
「あ、いや、トマト人間みたいなヤツでv人を自称してたんですが、夜崩が倒しました。噂の上位存在です」
「ち、違う」
「え?」
「む?」
「v人より、もっと強い」
そしてそれは現れた。玄関の向こう。広がった森の奥から。
金髪に褐色の肌、緑のスーツを着た、異様な風体のスレンダーな女性。
しかし、よくよく見れば、それは髪ではなくバナナであり、服に見えるのもバナナの葉の集合体だった。胸にはカカオ豆のような色と形のバナナの花が咲いている。
そんなシュールな見た目なのに、視界に入った瞬間に総毛立つ。
肉食獣の檻に放り込まれたような、感覚。
震え。足。
なに、これ。
「来た……! v7(ヴィセブン)!」




