浅い
「は?」
夜崩は、フェンスに引っかけてあった鎖つき鉄球を掴む。
そう、トマト髑髏を首吊りにしたあと、ここのフェンスに引っかけておいたのだ。
草木が生い茂っているせいで、巧妙に隠されたそれは、まんまとおびき出されたトマト髑髏の頭に振り下ろされる。
爆発のエフェクトが激しく巻き起こり、トマトの果肉を吹き飛ばして頭蓋骨を床面に叩きつけた。
「ごぱぁ!?」
「思考が浅い。悪意が浅い。歴史が浅い」
頭蓋骨が粉砕し、破片が舞い散る。
その右目から、小さなトマトが飛び出した!
「歴史を……言うなァ!!」
それは現代人の意識より生まれたv人の、痛いところだったらしい。
夜崩はそれを見抜き、冷静さを奪い取ったのだ。
「覚えておけ! 悪意は暴君の専売特許よピーマン野郎!!」
夜崩が再びポケットから抜き撃ったチャクラムが、そのトマトを両断した。
「く、そ……」
ぼとりと落ちたトマトには、無念さが激しく滲み出た顔、いわばデスマスクが残っていた。
これが本体だったんだろう。
おそるべき上位存在だったが、夜崩の敵ではなかった。
なんてやつだ、なんて……
「ん、どうした? そんな王を讃える目をして。いいぞ。もっと見るがよい」
こんな絵にかいたような調子の乗り方をしなければいいのに。
「そ、それよりふわりちゃんが心配だ」
「気を失っているのに捕まっているのは不可解だな」
「そうなんだよな……」
倒れたふわりちゃんに巻き付いたツタを引きはがしていく。
「おそらく、これ物質というか……普通に植物だよな?」
「だろう。おそらく植物を操ることで、気絶しても確保できるようにしたのだ。ということは、自信の知覚だけで人間をv域に連れて行けるのかもしれん」
「なんてことだ……」
v域を人間が知覚するからこそ、存在が確定し、そこに行くことができるようになる。
逆に言えば、知覚できない状態なら干渉できないわけだが、v獣と違い、v人はその知性からv域への認識能力・理解力が高いため、自身でv域を確定できるわけか……。
それでも植物を介すあたり、確保だけしてあとでv獣に運ばせるつもりだったのかもしれない。
つまり、EGGでの緊急避難が役に立たないということになる。
ということは夜襲もあり得る……