超親征
「……!」
何重もの驚きが、襲って来る。
まずコイツは援軍が来ないことを煽って来た。
つまり、こちらが時間稼ぎを試みることまで読んでいたわけだ。
加えて、そもそもがそれは織り込み済みであり、別動隊をVTTに送り込んでいた。
それは明確にv学を標的としていたということであり、口ぶりからして、学生を選別すらしている。
であれば、先日の校庭へのv獣出現も予行練習だったのではないか。
何より、襲撃に意志があるということは、コイツらは「任意の場所にv域を発生させられる」ということになる。
何もかも、前提がひっくり返る。
おまけに、ぎこちない喋り方をしていたのは油断を誘っていただけで、実際には流暢に喋れるだけの知性があった。
「ふふ、その顔は色々考えているようだね。そういう頭のいい子は素晴らしい」
「くそっ」
俺のドジはもう仕方ない。だが、ふわりちゃんまで巻き込むわけにはいかない。
「心配しなくても二人とも連れて行ってあげるよ」
「きさま……!!」
「そう怖い顔をするなよ。人間とやり合うためには必要だったんだ。人間の悪意を学習することが、ね」
こいつは、いま、ふわりちゃんに向けた視線から、俺の考えを読みやがった。
人間心理を、どれだけ学習してるんだ。
「なんなんだ、きさまら……」
「言ったろう。v人だ。人の集合的v識より生まれ、そしてv域を広げるもの」
人間に近いのも、言葉を喋れるのも、それで説明はつく。
人の意識から生まれた知的生命体か。実際そうなんだろう。
だが、大事なのはそこじゃない。
「俺たちをなぜさらう」
「ふふ、もう君は負けたんだ。いまさら時間稼ぎをしてなんの意味がある?」
この時間稼ぎもバレていた。
だが、俺は笑う。
「おや、その感情はどういう意味かな?」
「時間稼ぎが成功したってことさ」
だっていま、視界の端をかすめたのは――
「ははは。バカな。VTTはまだ――」
笑った髑髏の、その首に鎖が巻き付いた。
「ぷぎっ」
トマトでも喉が潰れれば声が漏れるらしい。
いままでの間抜けな声が演技かはわからないが、少なくとも今度のはそうじゃなさそうだ。
「ざまあみろ」
「ぐ、ぎ……」
鎖の終端にはトゲつき鉄球。勢いのあまりぐるんぐるんとv人の首に巻き付き、そのまま引っ張られてフェンスに激突する。
草木が生い茂っていてすらガシャアと激しい音が鳴り、代わりに赤い影が屋上に飛び上がって来る。ついでに鉄球をフェンスの外側に放り、トマトv人を絞首刑にするのを忘れない。
こんな登場をするのは一人しかいない。
「超・親・征!!」