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v人

「僕もまだここで粘るつもりです。危険を感じたら引き返してください。ハイ」

「ありがとう!」

 校舎に向かって進み、邪魔なv獣を打ち倒していく。

 おはぎくんとの訓練が、驚くほど効果を上げていた。

 あの巨体と敏捷さを併せ持つようなv獣はいない。

 つまり、おはぎくんに勝てるなら、1対1で負ける道理はないのだ。

 ふわりちゃんの風のエフェクトは乱戦に有効だ。

 巻き起こる風で、ヌリカベやカッパをズタズタにする。

 唯一、おはぎくんより動きが早く、厄介なテングは遠間から矢で射貫くしかない。

 素早い敵は近づかれたら後手に回ってしまうが、幸いテングの数は多くない。目につく限りに始末しておけば後が楽だ。

 息を整え、いつものように、糸を矢の先からテングの額を繋ぐのをイメージし、放つ。

 矢はあやまたず、テングの額をぶち抜いた。一匹、二匹、三匹と射貫いていく。

「よし、これで校舎への道が出来た」

 さて行こう、というその時、近くで戦っていた2年の先輩が、声をかけてきた。

 弓道部の恰好をした、汗だくの男子だった。

「おい、中に行くつもりならこれ使ってくれ」

 渡されたのは矢筒だった。

「あ、ありがとうございます!」

 これは助かる。この乱戦の中では使った矢を回収しているヒマはない。

 正直、心もとなかったのだ。

「体力的についていけそうにないが、これくらいはさせてくれ」

 なんていい先輩なんだ。

「女子二人だけで行かせるのも心苦しいしな」

「女子じゃないです」

 こんな時までこんなオチか。

 だがモメてる場合じゃない。

 先輩と別れて校舎に向かう。

 校舎に近づくにつれ、侵食している【森】の解像度が上がっていく。

 まるでプレイステーションが1から2に、2から3になっていくように、どんどん葉っぱが滑らかになっていく。

 そして鬱蒼と生い茂ってきて先が見通せなくなっていく。

 ナイフで切り払いながら進むさまは、ベトナム戦争の映画を思わせる。

「くそっ、玄関はどこだ」

「あの、ツタを登ったほうが早いかもしれません」

「え?」

 ふわりちゃんが指さしたのは天空の裂け目から垂れたツタ、そのうち、校舎の壁に沿っているものだった。

「そうか、あれを使えば!」

 ヌリカベがあれを使って降りてきたくらいだから、強度は問題ないだろう。

 v獣たちの降下はもう止まっているようだし、あれは使えそうだ。

「よし、じゃあ、俺が」

「ダメです」

「え?」

「遠距離攻撃が出来るアキラちゃんは援護に回るべきです。私が行きます」

 それは道理かもしれないが、危険すぎる。

「ダメだ! 女の子にそんな危ないことをさせられない!」

「あらあら、昭和みたいですね。でも私の方が大きいんですから、問題ないです」

 昭和はたまに言われる。

 男らしさを求める俺は古い人間なんだろうか。

 でも、自分が求めてやまないものは、それなのだ。

 時代が変わったと言われても、幼女めいた体型から逃れられるわけじゃない。

 俺は、男として見て欲しい――

 と、余計なことを考えている間に、ふわりちゃんは壁のツタに飛びついてしまった。

「……」

 こうなったら頭を切り替えるしかない。

 実際、弓使いが残るのは理に適っているのだ。

 まずは周囲のヌリカベやカッパを撃ち抜く。ゆらゆらしていたキョウコツも頭蓋をぶち抜く。こいつは油断するとかんぴょうみたいな触手を伸ばしてくるので危険なのだ。

 こうして安全を確保したうえで、ふわりちゃんの方に向き直る。

 元水泳部、流石に体力がある。どんどん登っていく。

「……」

 先日にあの訓練を受けていてよかった。

 下からだと思いっきりスカートの中が見えてしまっているからね……。

 無心。無心になるんだ。

 真っ赤なレースの、想像以上にド派手な下着が見えているとしても、心を無にしろ。

 しかし心配していたv獣の妨害はない。屋上のフェンスもツタで覆われていて登るのに全く障害はなさそうだ。

 消防士を思わせる見事な動きで、あっという間に登り切ってしまった。

 屋上から手を振るふわりちゃん。

「夜崩はいるかーい?」

「ええと……」

 きょろきょろとふわりちゃんが辺りを見渡した、直後、ふわりちゃんの背後に真っ赤な影が現れた。

 夜崩かと思ったが、シルエットが違う。

 頭が大きく見えて、本能的に寒気が走り、矢を引き絞ったが間に合わない。

 悲鳴を上げる間もなく、ふわりちゃんの姿が引き込まれるように消えた。

「!?」

 まずい。EGGの甲高い発動音は聞こえない。

 緊急回避もできていないということだ。

 遮二無二、ツタに飛びついて登る。一刻の猶予もない。

 そんなときに限って、足を掴まれる。カッパだ。

「くそおっ!」

 カッパの頭を蹴りつけるが離れない。

 矢筒から矢を左手で掴んでそのままカッパの目に突き刺す。

「ギョエッ」

 カッパが手を放した隙に一気に駆け上っていく。

 ふわりちゃんがどんどん登れた理由がわかる。校舎にツタが巻き付いていることで、足の置き場があって見た目以上に登りやすい。

 下からカッパたちがわらわらと登ってこようとするので、素手で矢を投げつける。効果なんか考えている場合じゃない。

 幸い、蹴落とした一匹が他を巻き込んでまとめて下に落ちて行った。

 その隙にがむしゃらに登り、屋上へ辿り着く。

「!」

 そこに居たのは、トマトの化け物だった。

 真っ赤な全身タイツを着た成人男性ようにも見えるが、頭が明らかにトマトだ。

 そしてそのトマトに、髑髏が浮き出している。体もよく見れば骨格が浮き出ているようにも見え、骨格標本がトマトの皮を被っているような、生理的に寒気が走る。

 その足元に、トマトの葉や茎でがんじがらめにされたふわりちゃんが倒れていた。夜崩の姿はやはりない。

 問題なのは、ふわりちゃんの意識がないように見えること。

 おかしいんだ。v域で意識がなくなれば双方向のチャンネルの片側が閉じてしまうため、v獣は干渉できないはずだ。

 だのになぜ、ふわりちゃんを植物で拘束出来てるんだ?

「お前は、誰だ」

「かいわ、ためす、か。ただしい。かしこい」

「!?」

 喋った。

 どこかたどたどしいが、明らかに言語を解している。

 明確な知性が、ある。

「喋るv獣だと……」

「ヴぃーすと、ちがう」

「なに?」

「わたし、は、ヴィじん」

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