スーパー暴君タイム
「よし命人! 次はどっちだ!」
「ええと、苦戦してそうなのは……」
この暴君は自分がカッコよく登場できる場所をいつも探している。
視線を巡らせてみると、パニック状態の生徒たちの中、戦っている九介の姿を見つけた。
九介の得物は剣であり、エフェクトは火だ。
「バーニング斬!!」
別に技名は叫ぶ必要はないが、エフェクトをイメージしやすいので、叫ぶ者はいる。
九介に夜崩ほどの火力はないが、周りの生徒たちの先頭に立って戦っていた。
「やバーニング……!」
しかし、剣の間合いよりおはぎくんのリーチが上で、かなり苦戦の色が見える。
他の生徒たちは怯えて有効に攻撃できてない。まずい。
「夜崩、あっちだ! 九介が苦戦してる!!」
「我が君と言えと言っているだろうが! だが、わかった! 任せよ!!」
ぷんすこしながらも、夜崩が突進する。
俺は追うより先に矢を放つ。
矢は糸を引いたように、九介が戦うおはぎくんの振りかぶった腕に命中。体勢を崩す。
「おお!?」
その一撃で俺に気づいた九介が振り返る。
「援護する!」
「おっぱい!!」
九介の馬鹿野郎は俺ではなく、胸丸出しで突進して来ていた夜崩にくぎ付けだった。
「たわばっ!?」
そして案の定、おはぎくんのパンチをまともに食らって吹っ飛ばされていった。
あれだけ注意されてたのに……
後で大説教もくらうだろな……。
最大まで厳しくやって頂きたいところだ。
「ニャハリャオラアッ!!」
一方、暴君は気にしたそぶりも無く、笑いと掛け声が混ざったわけのわからない声を叫びながら、おはぎくんに襲い掛かる。
いつの間に持ち替えたのか、大ばさみを持っている。
そんな武器を使っているのはコイツくらいだ。
なお、逆に剣や槍を使うと間合いや攻撃のタイミングが上手くとれず、逆に弱くなるとかいうビックリ人間だったりする。
笑顔でジャキンジャキンと大ばさみでおはぎくんを切り裂いていく夜崩。
彼女の大ばさみは重力のエフェクトを発生させるため、攻撃の度におはぎくんの動きが鈍くなる。
そうなるともう一方的な展開だ。
「ニャハハハハ!! 目だ! 耳だ!!」
援護の必要がないほどのスーパー暴君タイム。
本来、重力に色などないが、ブラックホールからの連想なのか黒いエフェクトが禍々しい。
恐ろしくもあるが頼もしくもある。
近くの生徒たちも羨望の目で夜崩を見ていた。
しかし、視界の端で長官の梅干しでも食べているのかという渋い顔が見えた。
「ふんむ……強いのはいいことじゃが、これでは意味がないの」
長官が一気に駆け出した。まだ俺の目には直立姿勢の残像が残っていて、あまりのスピードに脳が混乱する。
長官は走りながら日本刀型のv器を抜いていた。
意図をはかりかねている間に、長官が急接近。
夜崩に斬りかかった。
「なんとォ!?」
咄嗟に大ばさみで受ける夜崩も凄い。
「何をしてるんですか長官!!」
俺の非難の声にも、長官は涼しい顔。
「こやつはおはぎくんでは手に余る。それでは誰の訓練にもならぬ。あと紗々璃ちゃんと呼べと言ったはずじゃ」
この人もめんどくさいタイプだなあ! 慣れてるけど!
「その紗々璃ちゃんさんは何で蛇崩を襲ってるんですか!」
「蛇崩と言うのか。覚えておこう。その蛇崩に稽古をつけてやろうというのじゃ!」
「面白い! 暴君の力を示す機宜だ!」
斬撃を次々と繰り出す長官。
虹色のエフェクトは、それ自体がどんな効果なのか読み取れない。
理解不能な攻撃に、防戦一方の夜崩。
「ぬううう!!」
夜崩は大ばさみで打ち合うのは不利と判断、長官に投げつけるように放り出すと、素早く鉄球に持ち替えた。
ぶんぶん振り回すが、長官は軽快にかわしていく。
これは援護がいる。
俺は矢を番えたが――
「そこな幼女! 援護は禁止とする! コイツの訓練にならん!」
「幼女じゃないです!」
男子の制服着てるんですけど!!
だが、言ってることは理解できる。
「夜崩! 頑張れ!」
俺は他の人間を援護することにした。
「この、不忠者―――――!!」
暴君の罵声が飛ぶが、それは聞かないことにした。




