2・超v値JKと日本一のv値
今日は特別な日だ。
イベントというわけではなくて、実戦授業の特別プログラムが急遽決まったのだ。
というのも、先日のv獣襲撃事件の影響が大きい。
理論上、若者がある程度まとまっているところには、v域の発生の可能性がある。
脳が発達途中の幼児にはv域は知覚できず、おおむね10代半ばから感知できるようになる。
複数人いればそれだけv域にチャンネルが合う可能性が増えるということだ。
中学や高校というのはまさに若者と複数人という、2つの条件を満たしている空間だ。
いつv獣が発生してもおかしくはないし、全国でも出現事例の報告は数多い。
それでも、設立以来初の、複数匹、それもテングのような危険性の高い個体まで出現したことには衝撃が走った。
自衛手段を教える意味合いの強いv学において、生徒の戦闘能力の強化が急務となったのだ。
そこで、特別講師制がスタートした。
具体的にはVTTから現役の隊員を招き、より実践的な訓練を行う計画だ。
VTTは全国5大都市に支部があり、本部は東京にある。
その本部の最高責任者が来るというのだから本気を感じる。
そんなわけで、俺たちは校庭に集められていた。
高校の生徒全員、3クラス×3学年。1クラス約30人だからだいたい270人が並んでいることになる。v獣出現の可能性を考慮し、基本的には全校生徒を集めず、入学式すら行わないこの学校では非常に珍しい光景だ。
校章バッジのついた制服姿の男女がこれだけ揃うと壮観ですらある。
訓練のときと同じ、ジャージ姿ではなく、制服姿で来いということだったが、今日は、座学ということだろうか。
しかし、それだと校庭より体育館のほうが向いているだろう。どういう意図だろうか。あるいは――
考えていると、バラバラバラという音がだんだん近づいてきた。みんなが次々に騒ぎ出す。
軍用ヘリがv学に接近していた。機体にはVTTのペイントが見える。
おいおい。そんな漫画みたいな演出で登場するの?
誰しもそう思ったに違いない、現実には見かけないタイプのベタさなど気にすることもなく、ホバリングするヘリコプターから降りてきたのは、軍服めいたVTTの制服に身を包んだ、銀色の髪の美女だった。
軍服にも似たタイトなVTT制服の上に、白衣をかけているが、ヘリの風でも飛ばないのでスナップボタンか何かで留めてるんだろう。
ヘリは彼女だけを残し、上空へ飛んでいった。
「ふふん! 妾こそVTT長官にしてVTT東京本部長。超有名人にして大天才・棘抜紗々璃じゃ!」
夜崩が暴君なら、彼女は女帝だった。妾て。
不遜な言い回しに聞こえるが、彼女にはそう言う資格がある。
何しろ、v域やv獣などのv理論を完成させたのは彼女なのだ。
僅か10歳でv獣を知覚できたほど早熟な脳を持ち、いち早くv獣災害の危険性を知った彼女が、それからの8年でやったことは神がかっている。
海外に渡り、大学を飛び級で卒業し、卒論でv理論を提唱。v獣災害の危険性を世界に訴えたのは12歳。
世界中で起こり始めていた怪奇現象、誘拐事件を説明できる斬新な理論は、一大センセーションを巻き起こした。
何しろ大人には知覚できず、機器で検出もできないために、陰謀論やトンデモ論だと叩かれたが、その理論でしか説明できないことが起こりすぎていた。
ヒートアップする議論の終結を待たず、日本に帰国。
半ば強引にVTTとv学設立を主導した。
折しも日本では政府高官の娘が【神隠し】に遭ったり、修学旅行中の大量失踪事件が起こったりして大問題になっていた頃だ。
特に東京ドームでライブ中の大人気アイドルグループがv獣に襲われ、それを颯爽と現れた刺抜女史が撃退したインパクトは絶大だった。
あまりも大量の目撃者がいたので、陰謀論者より生の声の多さが勝ったのだ。
それから6年。
弱冠18歳でVTTの全権を執り仕切るだけでなく、最強の戦闘隊長としても名高いという超主人公体質の女性こそがこの棘抜紗々璃長官なのだ。
「とげぬき」なのに「ささり」ってとは思うが、俺も旭命人で「あきらめ」入りの名前だからよくわかる。名字と名前のバランスを見ないタイプの親はいる。
俺の場合は母が男の子の名前を結婚前から決め打ちしていたので、こういうことになった。ある意味、寮長の小金丸丸子さんとも事情は近いかもしれない。
キラキラネームはv学にも非常に多いし、そんなに珍しくも……いや、そんなことはどうでもいい。
そんな超重要人物が来たことには大きな意味がある。
「今日は講師として来ておるのでな、気安く紗々璃ちゃんと呼ぶがよい」
ある意味、首相よりも重要人物とまで言われる人間を、そこまで気安く呼べる奴がどこにいるんだ。
「わかったぞ! 紗々璃ちゃん!」
俺の隣にいた暴君はそうでもないらしい。
だが、妾とか言う人との相性は良さそうには思えないのでヒヤヒヤする……
「良し!」
セーフ。ご満足いただけたようだ。
「素直なのは良いことじゃ。それだけ生存確率が上がるからの」
生存確率という言葉に、生徒一同に微かに緊張が走る。
危険を伴う学校を選んだ自覚は誰しもあるだろう。
しかし、生き死にに関わるという意識は欠けていたかもしれない。
「ふふん、ピリついたの。そう今回の目的はそれじゃ」
なるほど、わざとそういう言葉を使ったわけだ。
あっという間にこの場は『紗々璃ちゃん』の空気だ。
「本来は、妾が来るのはもっと先の予定じゃった。しかし、v獣の大量出現があったとなってはそうも言ってはおられん。今日は実戦で行くでの」
言うや否や、棘抜長官は制服の胸元を一気に開いた。
ボタンがはじけ飛び、下着に包まれた胸がまろび出る。
「!?」
生徒全員、いや教員たちすら驚愕する。
「紗々璃ちゃんよ! なぜ胸を見せるのか?」
みんなが固まる中、空気を読まない暴君が、みんなの気持ちを代弁してくれた。
「実戦だと言ったじゃろ。なぜ訓練なのに体操着でなく制服で集めさせたのかを考えよ」
胸が丸出しなのに、一切の恥じらいを見せずに長官が言う。
と、次の瞬間、俺の頭が何かに捕まれてぐるっと体ごと回転させられた。
「ぐえっ」
体が向いたのは夜崩の方である。
無論、犯人は暴君だ。
「な、なんだよ」
「紗々璃ちゃんの意図は理解できる。だが、目を奪われるなら暴君であるべきだ」
言って今度は夜崩が制服の上着を引き破った。
慎ましやかな胸と縞々の下着があらわになる。
「何やってんだお前!?」
「妾の意図を理解できている者もおるようじゃな!」
長官は夜崩を見て笑みを浮かべる。
どういうことだと思った次の瞬間、また背後から頭を掴まれて回転させられた。
「わっ」
「み、見ちゃダメですっ」
犯人はふわりちゃんらしい。
らしいというのは俺の目が指でふさがれているためだ。
それと引き寄せられて抱きしめられているせいで背中の感触がどえらいことになっているので、ふわりちゃんに違いない。
「もうっ! 何をやっているんですか先生! 小さい子もいるんですよ!」
ふわりちゃんが声を荒げる。
それは理解できるけど、俺は小さい子ではない。
「阿呆! ふざけてやっていると思うたか! v獣襲撃が起こったのじゃぞ! もっと真剣に考えぬか!!」