【非公認組織、怪異二課の野郎共】
箸休めに書いていた短編ができたので、せっかくなので読んでもらおうと思いました!
それでは、お楽しみください!
『口裂け女』『テケテケ』『トイレの花子さん』。
いずれの都市伝説も有名な物だろう。
中には無害な者もいるが、その多くは人に害を成す者が多い。
害とは言っても大小様々で、可愛い物だと靴紐を解く程度だが、中には人の命を脅かそうとする者も居る。
人類には為す術無しと思うだろうか?
──答えは『否』だ。
人間に悪意を持った怪異に対抗する組織が存在する。
それが政府非公認組織、通称『怪異課』だ。
────◇────◇────◇────
時は令和、20✕✕年、東京は首都高速道路の真っ只中。
「だからね、ばあちゃん! 首都高でそんなスピード出して走んじゃねぇよ!
いや、分かるよ? 俺もサーキットで単車走らせるの好きだからさぁ!
でも、それとこれは別!!」
「なんじゃ若者ん!! 年寄りの娯楽を奪うなぁ!」
黒いスーツに身を包んだオールバックの青年が、腰の曲がったお婆さんを叱りつけている。
怪異課ではよく見る光景だ。
そう、ターボババァの取り締まりである。
ここでターボババァについて補足しておこう。
主に高速道路等を走っていると遭遇する怪異で、スピードを出している車に並走して驚かしてくる。
並走すると言っても車ではなく、その自慢の健脚で走って並走して来るから驚くのだ。
交通の便が良くなった令和の現在、ターボババァによる事故は決して少なくはない。
「そういう訳だからね、ばあちゃん。
切符、切らせてもらうよ! 次に違法な速度で走ってるの見かけたら首都高禁止にするからね!」
「ふん! とろとろ走っとる奴らが悪いんじゃろうて!」
「あと、最後にもう1つ!
……絶対に追い抜かすんじゃねぇぞ?」
「それは……分かっとるわい。
それをしてしまえば、儂らもタダじゃすまん……」
ターボババァのもう1つの噂をご存知だろうか?
それは、『追い抜かされると死ぬ』という物だ。
そうなれば怪異課は、そのターボババァを速やかに処分しなければならなくなる。
ターボババァを見送ると、スーツの青年は路側帯に停めてある車の助手席に乗り込む。
「先輩終わったっすよ〜っと」
「たかがタボ婆の取り締まりに何分掛けてんだてめぇ……
折角の花金くらい定時で帰りてぇんだよ」
「しょうが無ぇでしょうよ! あの婆さんしぶとかったんだから!」
「ってか今日だけで何人目だ? 全国のタボ婆が集まってきてんのかってくれぇ居るじゃねぇか……」
「そりゃぁ、あれっしょ、老人会的な?」
「ゲートボールでもしとけよ!
なんでルーレット族を煽り散らかすんだよあいつら!」
車の中でギャーギャー騒ぐ2人組。
先程ターボババァの取り締まりを行っていた青年は、名を『三角 正義』。
年齢は26歳、独身、少々強面だが根はいい男。
そして相方の名を『郷右近 龍』。
年齢は34歳、言うまでもなく独身、顔は強面などと言ういうレベルではない。
スキンヘッドにサングラス、割といいガタイのせいで、見た目だけで言えばそっち系の人と見間違える事だろう。
こんな見た目をしているが、彼らは立派な『怪異二課』の職員なのだ。
怪異課とは通称で、実際は大きく3つの課に部類されており、『怪異一課』『怪異二課』『祈祷課』に分かれている。
一課は怪異課の中でも花形と言われ、主な業務は『菅原道真』や『玉藻前』といった伝説級の怪異を相手取る。
それに対し二課は、先程の『ターボババァ』や『学校の七不思議』『八尺様』等のご当地怪異が相手だ。
祈祷課に関しては、一課や二課の人間が怪異とのいざこざで生まれた呪いや祟りを清める事が主な業務である。
これらをまとめて『怪異課』と呼ぶ。
「うーっし、帰るぞ! てめぇ、次にタボ婆見つけても無視しろよ!? さっさと飲みに行きてぇんだよ」
「流石にもういねぇっしょ? あと、奢ってくれるなら飲みに着いて行ってあげますよ?」
「かぁ〜っ! 可愛くねぇな! 尊敬する大先輩に奢って欲しいですぅ〜! くらい言えねぇのかアホが!」
そんなやり取りをしていると、車内の無線機からジジッとノイズが走る。
ノイズが走ったと言う事は、無線で何かしら連絡が来ると言うことで──。
「はぁ!? マジ勘弁しろよ! 内容によっちゃ殴り込み案件だかんな!」
『本部より連絡。現在下半身が無い化け物に襲われていると通報が入った。
付近を巡回している職員は至急向かってください。
場所は○○区△△の2番倉庫。
被害者は塾帰りの女子学生。見つけ次第、保護及び怪異の討滅を行ってください。
繰り返します──』
「はぁ〜っ……マサ、行くぞ」
「被害者いるんじゃ、しゃーないっすね……
その怪異は特定しとくんで、かっ飛ばして現地に向かってくだせぇ」
龍はアクセルを踏み抜き、現場へと向かう。
その表情は真剣そのものだ。
「ある程度特定出来ました。
怪異の種類は恐らく『テケテケ』。
噂を聞くと3日以内に現れ、刃物などで下半身を切り取ろうとする怪異です! 弱点は──」
テケテケの特徴や弱点等を事細かに相方に伝える。
怪異に限らず、戦闘は情報を多く持っている者が有利になるからだ。
「よぅし、上出来だ。
そんだけ分かりゃ、何とでもなるわ」
不敵な笑みを浮かべ、目的地まで車を走らせた。
目的地に到着した2人は辺りを探索する。
現場の倉庫まで来たものの、手掛かりが何も無い。
「クッソが……間に合ってくれよ……」
「怪我で済んでればいいんすけどね……
死んでたら洒落んなんないっすよ」
「誰か! 誰か助けて! 嫌ぁぁあ!!!」
助けを求める女性の声が遠方から耳に入る。
「聞こえたなマサぁ! 乗れぇ!」
「うっす!」
急いで車に乗り直し、声が聞こえた方向へ走らせる。
すると、1人の少女が腰を抜かして、後ずさりしているではないか。
相対しているのは正義の予想通り、下半身が無い怪異『テケテケ』だった。
「嬢ちゃん! そのまま伏せてなぁ!」
キィィィイイ! ギャリリリリリリリ!!!!
バギャッッ!!
渾身のドリフトを持ってして、少女に迫るテケテケを車体の側面で轢き飛ばす。
ガチャッ……バタン。
「よく頑張ったな嬢ちゃん。
こっからは俺らに任せとけ!」
「念の為、車内に避難してなよ!
防弾仕様だし、そこにいるよりは安全だから!」
「ヒッ……あ、貴方達は? け、警察?」
「ちと違うがな……まぁ、ああいう奴専門の役人ってとこだよ。
ほら、車に乗っときな。危ねぇぞ?」
襲われていた少女が車内に避難したのを確認すると、2人の行動が始まる。
「おぅおぅおぅ! 誰のシマで暴れてんだゴラァ!?」
『ヴヴヴ……何だお前ら……邪魔を……するな!』
「あ"ぁん? 見て分かんねぇのか!?」
「プ●キュアだバーロー!」
邪魔をされて怒る怪異と、帰れなくなった上に人まで襲った怪異にブチ切れる2人。
尋常ではない殺気がぶつかり合う。
「マサぁ! あれ、試すぞ?」
「いつでもOKっすよ!」
そう言って正義が取り出したのはアルミツールケース。
中を開けると、拳銃が2丁。
いかにもな見た目の上、いかにもなアイテムまで揃ってしまう。
ここまで揃えば、見てくれは完全にそういう人達の抗争である。
「ドタマぶち抜いてやんよぉ!」
「まぁBB弾なんで、ぶち抜く程威力は無いっすけどね!」
いよいよ闘いが始まった。
先に仕掛けたのはテケテケ、その身軽な体躯を活かして死角から攻撃しようと這い回る。
「マサぁ! 背中任せるぜぇ!」
「あいよ! 俺の背中デリケートなんで頼むっすよ!」
「来るぞ!」
パシュ…パシュ…パシュ…パシュ
リアルなのは見た目だけで如何せんモデルガンなので、迫力のある音は鳴らない。
壁や床に弾が当たってもカンッとかパチッと弾かれるだけで終わるが、それが怪異に当たると──。
『ヴォア"ア"ア"!? 何だ、それは……?』
「いや〜、いい威力っすね! 騒音が鳴らねぇし、BB弾もバイオBB弾だから、いずれ土に還る」
「だなぁ! 祈祷課の奴らをおど……頼み込んで弾1発ずつ清めてもらってんだ。威力が違ぇ!」
そんな貴重で真心こもったBB弾を、何の惜しげも無く連射する。
憎悪や怨念の塊の様な怪異であるテケテケには、絶大な効果を持っている。
気付けば、テケテケは既に虫の息。
それに対し、龍と正義の2人は無傷。
『……ヴァ……ァ……』
「お前ぇさん、多分だが生まれたばかりだろ?
近くに仲間が居りゃぁ、怪異課の事も聞けたかもしれねぇってのにな……
次に生まれ変わる時にゃ、優しい怪異になりな」
…………パシュ…………
怪異の眉間に1発。確実に消滅させる。
「マサぁ、火ぃあるか?」
「そらよっと」
「んだよ、着けてくれねぇのかよ……」
放り投げられたライターを受け取り、自分で煙草に火を付ける。
これは龍のルーティンのような行為だ。
派手な戦闘終わりに一服。
「先輩、吸い終わったっすか?」
「まぁ、そう急かすなよ。
予定より遅れたが、今日は俺の奢りなんだろ?
ちょっとくれぇ多目に見ろよ」
「ゴチになま〜す!
それはもう、肺に穴あくまで吸ってくだせぇ!」
「へっ! 調子いい野郎だな全く……」
車の外でうだうだしていると、車内から被害を受けた少女がおずおずと出てくる。
「あの! 助けていただき、ありがとうございました!」
「おぅ、気にすんな! 怪我は無ぇか?」
「はい、私は大丈夫です! それと、貴方達は……」
「ま〜詳しくは言えないんだけどね、さっきみたいな化け物専門の警察だと思ってくれていいっすよ?
そういや君、ケータイは持ってるよね?
親御さんに連絡して迎えに来てもらいな。近くの交番まではこの激怖おじさんが送ってくから」
「あ"? 怖くはねぇだろ!?」
「グラサンの禿げちゃびんなんて俺でもビビるわ!」
「俺だって傷付くんだぞ……まぁ、帰るぞ。
嬢ちゃんは後ろでいいか?
俺のドライビングを横で見てぇなら「後ろで!」」
「ぷぎゃー! 振られてやんの!」
ゴチン!!
龍と保護した少女、そして頭にたんこぶをこさえた正義は車へと向かって歩を進める。
少女の警戒もだいぶ解けてきたようで、時折会話に茶々を入れたりする。
被害者の保護に怪異の討滅、これで怪異二課の仕事が無事に終わった訳だ。
……ジ…ジジッ
まだ誰も居ない車内で虚しく無線の雑音が鳴る。
『本部より連絡。現在首都高にて、とんでもない速度の老婆に煽られていると通報が入った。
付近を巡回している職員は至急向かってください。
場所は──』
彼等はまだまだ帰る事ができないのかもしれない……
読んでいただきありがとうございます!
この作品は続編を書く予定がありませんので、ブックマークや評価は大丈夫です。
ただ、面白いと思ってくれたなら、こっそりいいねとかを押してくれると嬉しいです!
感想も受け付けておりますので是非……