8 旅路
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ケルンを出発してから、だいぶ時間が経った。
見渡す限り、町や村の一つとしてない殺風景。
あるのは、山脈と雪が少し積もった荒野、所々に生えている木のみ。
「ふぅ~。だいぶ歩いた気がするぞ。でもなぁ......徒歩で向かっているせいで、距離はかせげていないんだろうなぁ」
近くにあった木の下で少し休憩することにした俺は、一人ため息を吐く。
時間が経ち随分と歩いた気がしても、結局は徒歩なのだ。
馬車と違って、スピードもないし体力も使う。
それに、今の季節は冬。
殺風景な荒野の外気は、とても冷え切っていて、何もしていなくても体力が奪われてしまう。
体力を持続させながらここまで歩いてきたので、経過した時間の割には普通に歩くよりも距離的には進んでいないはずだ。
「日が落ちる前には、どこかの町や村に着きたいところではあるけど......今どこにいるのかも分かんないしなぁ」
こんな目印の一つもない荒野では、地図があっても役に立たない。
探す基点がなければ、現在地なんて分かるはずもないのだ。
探知をしようにも、魔法が使えない俺は当然、探知なんてできるなずもなく......
一応野営の準備はしてあるが、非常食にも限度があるため、本当に緊急の時以外は使わずに行きたい。
今は昼頃。
あと四~五時間ぐらいには、町か村を見つけたいところだ。
「......ゴクリ。よし、早く寝泊りできるところを見つけないとな」
水を一杯飲んで、俺は立ち上がり歩き出す。
手先は冷えているし、体力も万全ではない。
もう少し休憩していたいところではあるが、仕方がない。
俺は再び、冷え切った荒野を歩き出したーー
今はもう日が落ちかけていて、空はオレンジ色に染まっている。
休憩を終えてから、五時間ほど歩きつづけた俺は少し大きな農村にたどり着いた。
家の数自体は平均的なのだが、家畜小屋を見る限り牛や羊などの放牧が行われているようで、その分村としての大きさは大きくなっていた。
少し雪を被ってしまっている畑を横目で見ながら、村に入る。
すると、入ってすぐのところで軒下に座っている白髪のお爺さんを発見した。
「どちら様かのぉ」
俺と目が合ったお爺さんが尋ねてくる。
「すみません、お爺さん。僕はしがない旅人なのですが......」
「ほぉ~、旅人さんかえ。珍しいのぉ~。こんな辺鄙な村に来るお客さんは滅多にいないからのぉ」
「へぇ~。そうなんですか」
確かに俺以外にこの村に立ち寄っている人はいないように思えた。
「少しだけ北の方に往くと、新しくできた町があってのぉ。町が開かれるようになってからは、皆そちらの方に往くようになってしもうてな」
「なるほど......」
杖をつきながら、少し寂しそうにお爺さんは教えてくれた。
そういえば、聞いたことがある。
10年程前に伯爵へ一気に昇格した男爵家があった。
その際、新たに領地が与えられると同時に町を一つ作ったらしいのだ。
そのぐらいのことは、無能扱いされてあまり外に行っていなかった俺でも知っていた。
(まぁ......グラン爺に聞いただけなんだけどね......)
心の中で己の情報網の無さを実感し、肩を落とす。
え~と、確か、昇格した理由は......
『その家の長子が今まで誰も解明したことのなかった魔法理論を明らかにしたから』......だっけ?
その人がメギアだってことは知ってるけど、その他は知らないな。
一応は貴族だったのに、ホントに情報が少ないな俺は!!
そんな風に自虐していると、お爺さんが口を開いた。
「でも、あの町は誠に良い町ですな。こんな村でも商業的にあの町とは良好な関係を築かせてもらっていますからの~」
「そうなんですか。それは良かったです」
先ほどの寂しそうな表情からは一転して、お爺さんはにこやかに言ってくる。
この村とあの町が良好な関係を築けていて、本当に良かったと思う。
貴族社会はドロドロの闇社会だから、村の一つや二つ気にしない貴族が多い。
もしそんな貴族があの町を開いていたら、この村は客の減少のこともあって困窮してしまっていたかもしれない。
あの町の貴族は、きっといい人なんだろう。
今度一度行ってみるのもいいかもしれない。
「おっと。長話を聞かせてしまったの。申し訳ない」
ハッと気が付いたお爺さんは謝罪を述べてくる。
「いえいえ。こちらも勉強になることがありましたので、お話を聞けてむしろ良かったですよ」
「そうですかな? ホッホッ。でも、そういえば旅人さんはこの村に何か用があって寄ったのではないのかのぉ?」
「あっ。そうなんですよ。今夜この村で寝泊まりさせていただけないかと思いまして」
そう言って、この村に立ち寄った旨を説明する。
先ほど言っていた新しい町に行ってもいいのだが、今から行っては再び体力を消耗することになる。
それに最大の理由として、この村に宿泊させてもらった方が圧倒的にムーランに近いのだ。
町の方に行ってしまうと、一度北に行くことになるので遠回りになって、さらに時間がかかってしまうからな。
「ふむ......」
お爺さんは、目を瞑って考え始めた。
周りでは、住民だと思われる女性3人が笑いあって話している。
実に楽しそうだ。
耳をすませば、遠くから牛の鳴き声が聞こえる。
夜ごはんの時間なのだろうか。
そんな他愛もない観察をしていると、お爺さんが再び口を開いた。
「申し訳ないことに、この村には宿泊所がなくてのぉ」
「そうですか......」
残念だが、こればっかりは仕方がない。
この村にご迷惑をかけるわけには行かないから。
(また歩くことにはなるが、あっちの町に行くしかないか......)
そう思い、それを告げようとした時。
「そこで、もしよろしければ、村長であるこの私の家にお泊りになりませんかのぉ?」
「え。そ、村長さんでしたか......で、でもよろしいのですか?」
目の前のお爺さんが村長さんだったことには驚いたが、それ以上に願ってもないことを提案してくれたことに驚いた。
「ご迷惑では......」
「ホッホッ。迷惑なんてそんな。むしろお珍しい客人をもてなしたいところでのぉ~」
そう言って俺を歓迎してくれる。
これを断るメリットなんてないし。
こちらから土下座してでもお願いしたいところだ。
(よし。お願いしよう)
ぜひお願いしたいと伝えようとした瞬間。
「で、ではお言葉に甘えさせてーーーー」
「モォ~」「メェ~メェ~」「コケッ! コケッ!」
様々な動物たちの鳴き声が聞こえてきた。
「ぬ?」
村長さんが瞬時に表情を変えて、反応する。
これは......威嚇?
先ほど聞いた鳴き声とは、違う鳴き方のように思えた。
周囲の家や周りを歩いていた人たちが一斉に駆け寄ってくる。
男性から女性まで多くの人たちが集まってきた。
その中の一人の男性が言った。
「そ、村長。アルがいない今、これってまずくねぇか」
「そうじゃな......」
周りの人たちが深刻そうな面持ちで、話し合っている。
何が起きたのか、さっぱりわからない俺は村長に尋ねる。
「どうかしたんですか?」
「うむ。動物たちが鳴き出したということは、魔獣が近くに来たことの合図での」
「え!?」
「魔獣と言ってもこの辺は強い魔獣も出ないから普段は大丈夫なんじゃが......この村唯一の守り人が今、外に出はらってての......最近は全然現れないから、安心してたんだがのぉ」
魔獣が出たのは、一大事だ。
すぐに対応する必要があるが......
唯一の攻撃役がいないという今の状況は、相当にまずい気がする。
「ふむ......よし。今いる村の男手を全員集めよ! 武器になりそうなものはすべて持って向かうぞ。女、子供は皆、いつでも避難できるように村の奥まで非難させよ!」
「「「よっしゃぁぁぁぁ。行くぞぉぉぉぉぉ!!」」」
村長のお爺さんの一声で、周りの男がやる気を漲らせ、各々の家に急いで戻っていく。
この村の人たちは、お互いを大切に思っていることがヒシヒシと伝わってきた。
この村のために、全員が一丸となって戦おうとしているのだ。
村長の指示通りに、女性や子供は次々と村の後方に移動していき、男たちは桑や斧などの武器になりそうなものを持ってきて、次々と集まってくる。
そんな姿を見ていたら、俺も何かをせずにはいられなかった。
「村長さん。俺も手伝いますよ! いや、手伝わせてください! 一緒に戦います!」
俺は腰に下げている鋼の剣を握りながら、そう言って協力を申し出る。
剣の修業も中途半端で、まだ全然剣を扱えない。
そんな俺なんかが戦力になれるとは思っていないが、少しでもこの人達に協力したくなったのだ。
村長さんは目を見開いて、少し驚いた表情を向けてくる。
「協力してくれるか! そうかそうか。うれしいことを言ってくれるのぉ。是非とも頼みたい。この村のために力を貸しておくれ」
「はい! もちろんです!」
周りのやる気に充てられて、俺もやる気に満ち溢れてきた。
丁度村の男の人たちが集結し終わり、皆の準備が完了していた。
皆、真剣な表情で凄まじいやる気だ。
こんな形で、魔獣と初対戦するとは思わなかったな。
魔獣と対戦したことがなく、剣もまだまだな俺だが、この村の人たちのために全力を尽くそう。
これが、俺の旅の第一歩だ。
「みな揃ったな。では、往くぞ!!」
「「「おう!!」」」
そうして、村長さんの掛け声を大きな声で返し、俺たちは魔獣のもとへ向かった。
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