5 別れと旅立ち
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公爵家追放が決定した俺は失意のどん底にいながら、声を振り絞る。
「......わ、分かりました。出発の準備ができ次第、この家を出ます。今後一切、公爵家の名を語りません......今までお世話になりました......」
追放を受け入れた旨を伝える。
俺が今から突然の追放に対して文句を言っても、誰も聞く耳など持たない。
追放は決定したのだから。
それを理解した俺は、この決定を受け入れることしかできなかった。
「そうか。納得したようで何よりだ。だが、一つ間違いがあるな? 我は、『この時をもって』と言ったであろう? 何を勘違いしているか知らんが、今すぐに出て行ってもらう。一秒たりとも無能を置いておきたくないのでな。もう一部の使用人たちに貴様の最低限の荷物は準備させているから安心しろ」
「ッ!?」
これで、今日の異変すべての理由が明らかになった。
今日、廊下が少し騒がしかったのは俺の荷物の準備をしていたのだ。
「さ、流石にそれは酷です、お父様! 今すぐなんて流石に......そ、それに! もう今日は遅いです! 冬季に入った今の環境の中、夜に追い出すなんて、凍えてしまいます! せ、せめて明日にしても......」
俺が衝撃を受けていると、リエラが代わりに反論した。
今は、季節にして冬真っ只中。
最近では、たまに雪も降っている。
そんな中追い出されてしまっては、流石に凍え死んでしまうかもしれない。
それを懸念して、優しいリエラが反論してくれた。
「ならん! これは現当主たる我が決めた決定事項だ。どんなことがあろうとこの決定を覆すことは絶対にしない!」
父上が、強く言い放つ。
もしかしたらと一瞬期待したが、やはり決定を変えることはなかった。
本当に俺を一秒たりともこの家にいさせたくはないらしい。
「父上、僕もそれでいいと思います! 一刻も早く無能を追い出すべきです! 無能はここにいるべきではない。それに凍えるくらいなら、今までこの公爵家に泥を塗ってきた罰として丁度いいでしょう! 当然の報いです!」
ギース兄さんはよほどうれしいようで、元気よく父上の決定を支持する。
「そうですわね。無能はここに置いておくべきではありませんわ。すぐに出て行っていただきましょう」
母上も父上の決定を支持する。
これで,人数比的にも完全に追い込まれた。
決定は絶対だ。
そこにあるのは、俺が今すぐ出ていくという事実だけ。
どんなにあがこうが、もう無理だった。
「......わかりました。荷物を受け取り、この公爵家去ります。これまでご迷惑をおかけしました」
そう言って、俺は立ち上がる。
そのまま扉に向かった。
もうここにはいたくなかった。
ここにいるだけで俺の心は絶望に蝕まれていくのだから。
「ふん! 去らばだ愚息よ。もうオルデリンではないお前との間につながりはない。さっさと立ち去るがいい」
「じゃあな、無能! これで、汚点がいなくなると思うと清々するな!ハハッ」
「......さようなら」
三者三葉、様々に返答してくる。
リエラは口をパクパクさせているが、結局口をつぐんでしまった。
「......失礼します」
そう最後に言って俺は、食堂を出る。
結局、リエラ以外の家族全員が最後まで俺に罵詈雑言を浴びせ続けた。
もう俺は一杯一杯だった。
廊下に出るとすぐ、近くに立っていたメイド長が近寄ってきた。
「フィオ様。こちらが荷物となります。中には、旦那様からのご指示通りに荷物と金銭が入っておりますが、最低限しか入っておりませんのでお気を付けくださいませ。では、失礼します」
荷物の入ったバッグを渡し、大事なことだけを端的に言ってメイド長は去っていく。
バッグを持ってみると
ーー軽い。
本当に必要最低限のものしか入っていないようだ。
俺はを開け、中身を確認してみる。
衣類が上下一着ずつと、小袋が1つ入っているだけだった。
この小袋が、さっき言っていた金銭なのだろう。
小袋を開けてみると、銅貨が10枚入っているだけだった。
銅貨10枚といったら、一日分の食事と宿代ですべてを使い切ってしまう金額だ。
手に職もない俺にとって、たったこれだけで追い出されては、これから生きていけるのか心配になってしまう。
そんな心配をしていると、後ろで食堂の扉が開く音がした。
扉のほうを見ると、リエラが出てきていた。
リエラがこちらに向かってきて、抱き着いてくる。
「......兄さん。すみません。私は......何もできませんでした......あんなの馬鹿げていると分かっているのに! すみません、すみません、兄さん。わ、私が......力......及ばない......ばかりに~~」
そう言って、堪えられなくなったのかリエラは俺に抱きつきながら、泣き出した。
リエラは本当に優しい。
こんな無能で出来の悪い俺なんかのために泣いてくれるのだ。
そんな姿を見ていると、胸が熱くなってくる。
「リエラは悪くないよ。ごめんな? 俺のせいで辛い思いさせて。俺は大丈夫だからさ。別に今生の別れってわけではないんだ。生きていればいつかまた会えるから。な?」
実際リエラは、周り全員が俺の追放を支持する中で、一人反論し続けてくれた。
今思うと、本当に感謝しかない。
だからこそ俺のせいで泣かせてしまっていることが申し訳ない。
リエラがもう泣かないようにと、必死に言葉を尽くす。
「うぅ~。兄さぁ~ん。......グスッ」
リエラはまだ泣いてしまっている。
だが、「すぐに立ち去れ」と言われている以上、ここに居続けるわけにもいかないので、リエラに一言かける。
「本当にごめんな。リエラ。もう少しここに居たいけど、もう行かないといけないんだ......」
俺は謝りながら、ゆっくりとリエラから離れる。
「さっきも言ったけど、また会えるから。絶対に。......だから、今はさよならだ」
生きていれば、いつか絶対に再会できるのだ。
偶然どこかで会う可能性もゼロではないのだから。
あっ。生活が安定したら、俺が実際にダスクに会いに行くのもありかもしれないな。
俺は再会を約束し、しばしの別れを告げる。
「......グスッ。そうですね。分かりました。......とりあえず、玄関まで付いていきます」
俺の説得にリエラは同意し、答えてくれた。
「ありがとう」
そして、俺とリエラは玄関へと向かった。
**
玄関に到着した。
いざ内と外を隔てる扉を前にすると、改めて自分が追放されたことを実感する。
ここを出ればもう、一人で生きていくしかない。
衣食住を何もかも一人でやっていかなければならないのだ。
リエラには見栄を張ったが、俺にはもう明日を見据える余裕すらない。
実際、今の手持ちは銅貨10枚だけだ。
ーーそれに、俺の胸の奥にある謎の感覚の件もある。
余裕がなくなった今の状況ですら、俺に謎の使命感を与え続けているのだ。
いくら急に追放されたにしても、この謎の感覚の解決すると決めた覚悟に変わりはない。
とにかく、俺は生きていかなければならないのだ。
リエラと再会するためにも。
この謎の感覚の正体を突き止めるためにも。
そんな風に考えていると、後ろから駆け足で迫る足音がした。
グラン爺だ。
「ぼ、坊ちゃん。遅くなり申し訳ありません。準備に手間取っておりましたゆえ」
駆け寄ってきて、グラン爺はそう言った。
「準備って?」
俺の荷物の準備のことを言っているのだろうか。
でも、父上から俺の荷物は最低限にしろと命令が下っているはずだ。
公爵家の執事たるグラン爺がその命令を率先して破るわけにはいかない。
するとグラン爺が近くに来て、耳元で言った。
「坊ちゃんの旅支度を。と思ったのですが、あいにく私も監視されておりましてな。持ち出せませんでした。でも、聞くところによると坊ちゃんの手持ちは銅貨10枚らしいではないですか」
破る気満々だったらしい。
うれしいような呆れたような複雑な心境でいると
「え!? そうなんですか!?」
リエラが驚きのあまり声を張り上げる。
慌てて口元を抑えたリエラが、ヒソヒソと言ってくる。
「ど、どうゆうことですか! 何も聞いてませんよ!」
リエラがやや興奮気味に訴えかけてくる。
心配をかけたくないから、言ってなかったんだけど......逆効果だったようだ。
「ここまでしますか! 実の息子に! 本当に救いようがない人たちですね......」
「そうですな。あの方々はそういう人たちです」
リエラの怒りにグラン爺も同意する。
この世界は絶対魔法主義。
ましてここは一国の公爵家。
実の息子だろうと魔法が使えない無能であれば、平気でこんなことをするのだ。あの人たちは。
「話を戻しましょうか。私、手持ちの有り金全部持ってまいりました。小さいものであれば、隠して持ち出せましたからな。どうぞお役立てください」
グラン爺は誰にも見えないように、そっと小袋を渡してくる。
結構、重かった。
「金額にしておよそ銀貨30枚入っております。フィオ様なら大丈夫だと思いますが、ご利用は計画的にお願いしますぞ」
銀貨30枚といったら、いいとこの給料の一か月分だ。
本来なら遠慮するが、状況が状況なので周りにバレないようにそっと頂く。
「ありがとう、グラン爺。大事に使わせてもらうよ」
俺は、グラン爺に感謝を伝える。
すると横でリエラが小さく唸っていた。
「し、知っていたら私だって金貨の一つや二つお渡するのに......すみません、兄さん。気が回らない妹で」
リエラは食堂で十分俺のために戦ってくれた。
それを考えたら、これ以上施しを受けると兄として立つ立場がなくなってしまう。
「十分だよ、リエラ。すごく助けられた。これ以上されたら恩を返しきれなくなっちゃうから勘弁してくれ」
明るく、冗談交じりにリエラを励ます。
「そ、そうですか? 私の方こそ恩を返したいだけのですが......まぁでもいいです。再会した時のためにとっておきます」
あまり納得がいかないというような表情でリエラは答えた。
だが、しぶしぶ納得してくれたようだ。
俺はどうやらリエラに恩を売っていたらしい。
自覚はないが......
そこを突っ込むと、長い話になりそうなので、俺も再開した時のためにとっておくことにする。
「......坊ちゃん。もう一つ大事なことが。例の謎の感覚にも関わることです」
グラン爺はリエラにすら聞こえないような声で言ってきた。
一気に話の真剣度が増す。
俺のこれからの行動理念そのものの話なのだから当然だ。
「ここから東に向かうと、森に囲まれた辺境の都市ムーランがあります。そこに私の古い友人......というか戦友がおりましてな。そこに行けば、謎の感覚の解明に近づけると思いますので、向かってくだされ。そやつの元にもう伝書鳩は飛ばせておりますので、ご安心を」
「ッ!?」
驚きもあったが、それ以上に感謝の気持ちが大きかった。
根拠もなく、普通は信じてもらえないような話をグラン爺は信じてくれるのだ。
その上で、解決のための道筋まで助けてくれるとあっては、もう頭が上がらない。
「グラン爺、本当に助かるよ。ありがとう。向かってみることにする」
グラン爺には本当に助けられてばかりだ。
(グラン爺にも再会したら恩返しをしないとな。......返しきれるかな?)
そう心の中で誓って、俺は最後の覚悟を決める。
そろそろ行かなければならない。
時間の関係もあるが、これ以上いたらずっとここにいたくなってしまうと思うから。
「......じゃあ、そろそろいくよ。リエラ、グラン爺。今までこんなダメダメな俺と関わってくれてありがとう。俺がこれまで心が折れずにやってこれたのは、2人とマーク料理長のおかげだ。本当はマーク料理長にも挨拶したかったけど、そこは任せるよ。マーク料理長によろしく。いつか再会したらたくさん恩返しするから、いつか絶対また会おう。絶対だ! もう一回言うけど、2人とも本当にありがとう。今までお世話になりました!」
心の底からの感謝と再会を誓った俺は、扉へと向かう。
そして、扉の前で再び振り向く。
「兄さんっ。兄さんっ。いつかまたどこかで! それまでお元気で!」
リエラは涙を流しながら、再会を約束し、声をかけてくれる。
「大きく成長されましたな。坊ちゃん。いえ、フィオ様。私は誇らしいですぞ! 少しの別れです。すぐに再会も出来ましょう。いってらっしゃいませ」
グラン爺も俺の成長を喜びながら、再会を約束し、声をかけてくれる。
俺は恵まれている。
こんなにも優しい人たちに見送ってもらえるのだから。
(いつか絶対にまた会おう)
そう心に再び刻み、俺は最後に元気よく言った。
「いってきます!!」
そうして、俺は公爵家を出た。
今回の話のテーマは”感謝”です。
フィオが絶望せずに過ごせたのは、3人のおかげ。
少しでもフィオの感じてた感謝の思いが伝わってくれたらいいな~と思います。
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