3 ハプニング発生
何か、感想やアドバイスがあれば、どんどんお願いします。
そうして時は経ち......
剣術の修業に入って今まで約半年、俺は休まず特訓を続けた。
正眼の構えはマスターできていないが、だんだん体が慣れてきて、最初の頃よりは良くなっている気がする。
今となっては、正眼の構えだけではなく、唐竹・袈裟切り・一文字切りなどの様々な剣の基礎的な動作を教えてもらっていたりもする。
ちょうど今日の特訓が終わったところで、グラン爺が俺を労いながら言ってくる。
「ふむ。随分と立派な型になってまいりましたな。思った通り、坊ちゃんは飲み込みが早い。このままいけば予想よりも早く流派剣術を教えられそうですな」
剣士にはそれぞれ流派というものが存在しており、流派によって動き方が変わっている。
防御姿勢をとりながら立ち回り、一瞬の隙を突く流派もあれば、超攻撃的に動き回って、相手に一切の行動をさせない流派もある。
「そういえば、グラン爺の流派ってどんなの?」
今まで聞いて来なかったが、よくよく考えれば、グラン爺の流派は身体強化を使わずとも魔法と渡り合えるという常軌を逸した剣術だ。
魔法が使えない俺にとって都合の良すぎる、夢のような剣術なので、想像するだけでワクワクしてきた。
でも、そんな凄い剣術が全く世の中に広がっていないということは、何か事情のある流派なのだろうか?
「......我流ですよ。人間に出来うる最大限の身のこなしを最小限の力で効率的に行う剣術です」
少し寂しそうな笑顔でグラン爺は教えてくれた。
俺と目を合わせた後、グラン爺ははるか遠くの空を見つめてしまった。
(それにしても、我流か......それなら世の中に広がっていないのには納得するけど。グラン爺はたった一人で、魔法と渡り合える剣術を編み出したのか? 凄いな)
俺がそのように考えている端で、グラン爺はまだ空を見上げていた。
「......グラン爺......どうかした?」
「......あっ。いえいえ、大丈夫でございますよ。申し訳ございません。昔のことを少々思い出しておりました」
正直に言うと、グラン爺の過去の話を聞いてみたくなった。
もしかしたら、我流剣術が誕生するまでの話とか聞けるかもしれないし。
だが、今のグラン爺は、これ以上聞いてくれるなと言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
人間誰しも踏み入ってほしくない領域というものが存在している。
グラン爺の場合が、この先の領域なのだろう。
それを理解した俺の口から思い至った質問が出ることはなかった。
すると、我に返ったグラン爺が話の流れを変えようと、口を開いた。
「と、ところで、坊ちゃん。明日は坊ちゃんの誕生日でしたな」
「......あっ!そういえばそうだった。すっかり忘れてた!」
グラン爺の唐突な発言で全身に電流が走ったように思い出した。
そうだ。
特訓に追われていたからすっかり忘れていたけど、明日俺の誕生日じゃんか......
時間経つの早いな。
「今年も私とマーク、そしてプリエラ様が盛大にお祝いさせていただきますよ」
俺の誕生日はギース兄さんのように家を挙げてのパーティーでお祝いされることはない。
俺がまだ幼く、天才だと言われていた時期は盛大にパーティーが開かれて祝ってもらっていたが、俺が無能と蔑まれるようになってからはグラン爺とマーク料理長、プリエラを除いて一度も祝いの言葉をかけてもらったことはないのだ。
使用人はもちろん、父と母からさえも。
そんな俺の誕生日だが、毎年、夕食後に食堂を貸し切ってプチパーティーを開いてもらっている。
グラン爺がセッティングし、マーク料理長が手によりをかけたケーキを作ってくれる。
そして、我が可愛い妹君、プリエラも毎年プレゼントをくれるのだ!うれしくないはずがない。
だから自分の誕生日を悲しく思ったことはなかった。
3人のおかげで毎年、十分すぎる誕生日になっているのだ。
「明日の特訓は少し早めに終わらせましょうか。疲れてパーティーに参加できないとあれば、一大事ですからな。私がプリエラ様に殺されてしまいますよ」
ホッホッホッと笑いながら言っているものの、グラン爺の目は結構ガチだった。
本当に殺されると思っているのだろう。
昔、一度だけグラン爺がプリエラの地雷を踏んで、ガチギレさせるという事件があった。
それ以来、グラン爺はプリエラに対して引け目になっている。
プリエラは何故か無能な俺のことを見捨てず、強く慕ってくれている。
彼女は稀有な固有魔法の影響でいつもは家にいないが、大事な日になると必ず帰ってくる。
なので、俺の誕生日に帰ってくるということは彼女自身が大事な日と決めているということであり、そんな日に俺を疲労困憊にさせて動けなくさせたとあっては、それはもう一大事になりかねない。
「ゴホンッ。とにかく、明日は盛大にお祝いいたしますので、楽しみにしていてくだされ」
グラン爺は咳ばらいをして、気を取り直して言ってくる。
「ありがとう。楽しみにしてる」
うん。本当に楽しみだ。
年に一度しかない俺の誕生日。
(毎年おまかせにしているケーキ、今年は何ケーキかな)
(プリエラは今年、何をくれるんだろう)
などと明日の誕生日のことをいろいろ想像し、心を躍らせながら、俺は屋敷に戻った。
**
翌日。
昨日の予告通りに特訓を早めに終わらせた俺は、汗を流すために風呂に入っていた。
いつもは、あまり家族とは鉢合わせになりたくないから、夜遅めの時間に入るようにしていた。
特訓を開始してからは、特訓後に部屋でシャワーだけ浴びて、夜遅めの時間に入ることにしていた。
いつもと違ってこの時間に風呂に入っているのは、年に一度の俺の誕生日だから、せっかくならサッパリして気持ちよくお祝いしてもらおうと思ったからだった。
体を洗い終え、湯船に浸かる。
公爵家の大浴場なだけあって、アンティークな朱色柄のタイルが微調整されて、綺麗に設計されている。
湯船に浸かっている間も今日の夜のことしか考えられなくなっていた。
つい昨日までど忘れしていて現金な奴だと自分でも思うが、楽しみなものは楽しみなのだから仕方がない。
そして、とうとう楽しみすぎて体温が上がってきてしまった。
「のぼせる前に上がるかな。っと」
本番前にのぼせて動けないとなっては、特訓を早く切り上げた意味がなくなってしまう。
立ち上がって、さっさと上がってしまうことにする。
湯船から上がり、脱衣所へ向かう。
そして、脱衣所への扉を開けると
「まぁ、のぼせたらプリエラになに言われるか分かったもんじゃ.......ッ!?」
衝撃の光景が広がっていた。
綺麗な桃色の髪をセミロングで伸ばしている綺麗な少女ーー我が妹、プリエラが白い下着姿で服を脱いでいたのだ。
きめ細かそうな白い肌が目に入る。
そして、プリエラと目が合う。
「......ッ!?」
「すんませんしたっ!」
謝罪をしながら、速攻で扉を閉めた。
思考停止しかけたが...危なかった。
ギリギリのところで耐えた。
しかし、プリエラは上着を脱ごうとしていたので、しっかり布と布の擦れる音を聞いてしまった。
しかも、俺と妹は1歳しか離れていないので、2人とも絶賛思春期突入中である。
てゆうか、いつの間に帰ってきたんだ?
どうしたものかと考えていると、扉が開いた。
「......兄さん。お話がありますので、ちょっと出てきてもらっていいですか?」
白のワンピース姿になったプリエラが姿を覗かせた。
それにしても......
ーーすごい。
今まで物語でしか読んだことがなかったけど、プリエラの背後からゴゴゴゴゴゴゴって凍てつく氷山が顔を出しているような気がする。
氷山の近くまで行ったことないけど......
気のせいか、少し悪寒も感じた。
「......は、はい。ご命令の通りに」
もはや顔を引きつらせることしかできない。
「私は廊下で待っていますので」
ピシャンと扉を閉め、去っていく。
プリエラが廊下に出ていったことを確認して、脱衣所に移る。
「ど、どうしてこうなった! 俺は今から死ぬのか? い、いや流石に死にはしないか......でも......も、もしかしたら......」
脳内がパニックになって、もはや碌に考えることも出来なくなってしまっていた。
1秒1秒が重い。
時間が経つたびに、先ほどのプリエラのオーラを思い出し、自分の死期が近づいているかもしれないことを実感する。
そうして、呆然と服に腕を通しているうちに遂に着替え終わってしまった。
こうなったら覚悟を決めよう。
誠心誠意誤れば、心優しいプリエラのことだ、きっと許してくれる。
そう自分に言い聞かせながらプリエラのもとへと向かった。
扉を開けるとすぐにプリエラがいた。
「......」
「......」
お互いに沈黙。
気まずい...気まず過ぎる!
と、とにかく誤らないとっ
「ぷ、プリエ......」
「兄さん。とりあえず、私の部屋に行きましょうか」
遮られてしまった。
でも、ついていくしかないので返事をする。
「......はい。行きましょう」
兄とは何なのだろうか。
威厳も何もあったもんじゃない。
今ほど、このことを実感したことはない。
そうして2階に上がり、廊下のつきあたりに来たところで、到着する。
「どうぞ。入ってください」
中に通される。
いつもはあまり家にいないため、中は可愛いぬいぐるみが2つ3つ置いてあるぐらいで、普通の私室となんら変わりはなかった。
「......さて。兄さん、どうしてお風呂に入っていたんですか」
椅子に座り、少し声を低くしたプリエラが質問してきた。
「そ、そりゃ~、入りたかったからに決まっているでしょう?」
自分の立場が今は下だということは分かっているので、強く出ることは絶対にしない。
出たら、死んでしまうかもしれない。
「なんで疑問形なんですか......まぁいいです。今の時間帯は私がお風呂に入ることになっていたはずですが?」
「ん?何を言って......あっ!?」
いつも夜遅くに入っていたので、すっかり忘れていた。
この家では基本空いていれば、自由に入っていいことになっているが、時には時間帯を指定して、その時間帯に風呂を開けておくことが出来るのだ。
つまり、家ルールってやつだ。
いつも夜遅くに入り、そんなルールを気にすることもなかったため、すっかり忘れてしまっていた。
「ごめん、リエラ。すっかり忘れてた」
「......」
プリエラは黙ってしまった。
これは家ルールを忘れていた俺が完全に悪いのだからしっかり謝らないと駄目だな。
「本当にごめん、リエラ。次からは絶対にないようにするよ」
頭を下げて、心の底から誠心誠意謝罪した。
ちなみに俺はプリエラのことをリエラと呼んでいる。
これは小さいころにリエラに「親しい感じを出したい!」とせがまれて、考え出した呼び名だ。
「......ど、どこまでーーーーか?」
小さな声で何か言っているが聞き取れない。
「ん?なんて言って......」
俺が何を言っているのか聞き直そうと思ったその時。
「だ、だから! どこまで見たかって聞いているんです!」
「!?」
急に大きな声で言ってくるからびっくりした。
それにしても......どこまで見たかか......
正直、見えてはいけないところは見えていなかったが、あの白い下着姿は俺の脳内に焼き付いてしまっている。
どういえば、正解なのだろうか。
俺は悩んだ末、決断した。
「......風呂から出たばっかりだったから、湯気で隠れてほんのちょ~とだけしか見えなかった。あと、のぼせていたのもあって、視界が不安定だったのもあるから......」
渾身の嘘をついた。
正直に言っても良いことはないと思ったから。
下着姿をしっかり見られていたなんて知ったら、リエラだって気分悪くするだろうし。
今回の件は、俺が先ほどの光景を脳内から抹消すればいいだけの話だ。
「......本当ですか?」
リエラが、疑いの目を向けてくる。
「ほ、本当だとも!」
俺は頭をコクコクと必死に動かし、訴える。
「......」
リエラは黙り込み、しばらくの沈黙の後、口を開いた。
「......はぁ。仕方がないですね。よく反省しているようですし許してあげます。ただし!あそこで見たことは忘れること!いいですね?」
頬を赤く染めながら、リエラは強く言ってくる。
優しい。
我が妹は本当に心優しい少女なのだ。
今も「良いですか?兄さん。そもそも女の子の体というのはですねーー」と俺に女の子のなんたるかを教えてくれている。
だが...
(こんな子が戦場に行ってるんだもんな)
リエラは俺と同じメギアであった。
そして能力は俺なんかとは比べ物にならないほど有能。
”聖女”
それが、彼女の持つ固有魔法だ。
能力は、”あらゆる状態異常から救い、条件さえ整えば、魔力の回復すらも可能”というものだ。
ヒーラーとして高い性能を持つだけではなく、この世界でほぼ不可能だと言われている魔力の回復さえも条件を満たせば、可能なのだ。
だから、ヒーラーとして強力なリエラはいつも王国北部に位置している要塞都市ダスクで魔獣と戦う兵士たちを癒し続けている。
要塞都市ダスクは魔獣の森ーー通称、妖魔の森に面しているため、昔から魔族と戦い続けるための砦となっており、怪我人は多く出る。
その人達をリエラは癒し続けているわけで......
我が妹ながらとても誇りに思う。
俺の妹とは思えないほどだ。
「ところで、兄さん。なにかやり始めたんですか? なんだか体つきが少し変わったような......」
「分かるか? まぁ、その辺のことは夕食後のパーティーで話すよ」
「フフッ。そうですね。今晩は大事なパーティーですからね。話楽しみにしていますよ」
微笑みながら、リエラは賛同してくれた。
その後、夕食時になるまで、
どんなパーティーになるのか。
ケーキはなんなのか。
など他愛もない話をリエラと話し、時間は経っていった。
ここで、妹が登場です!
登場がド派手に決まり過ぎましたね......
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