2 剣の修業
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翌朝、起きるといつもよりも遅い時間に起きたことに気が付いた。
昨日、夜遅くまで本を読んでいたからだろう。
とりあえず、俺は朝食を食べるべく準備をすることにした。
普通の貴族の子息であれば着替えを手伝ってもらったりするのだろうが、俺の場合は家での対応があれなので、手伝われるのも気まずくて自分で支度をするようにしていた。
準備が終わり、自室の扉を開けて食堂へ向かう。
相変わらず、すれ違う使用人たちの態度は冷たい。
俺をいないかのように扱う人や廊下の端でコソコソと話をしている人など様々だった。
気にしても仕方がないので、気にせず食堂に足を進める。
その途中で
「よぉ、フィオ。今日も無能そうな顔が際立ってるな」
そう言って笑っているこの人は、ギース・オルデリン。
俺の兄にしてオルデリン公爵家の長男である。
「おはよう兄さん。兄さんも今から朝食?」
嫌味を言われてももはや言われ慣れているので、嫌味は無視する。
「ちっ。澄ました顔しやがって。まぁいい、俺は今から魔法の特訓だ。お前と違って俺は忙しいのでな。じゃあな」
そういい捨ててギース兄さんは去っていく。
忙しいなら話しかけなければいいのにとも思うが、よほど嫌味を言いたかったのだろうと理解しておく。
ギース兄さんは俺とは違い、魔法の特訓に励んでいる。
ギース兄さんには固有魔法こそないが、魔法に対して高い適性を持っていた。
そういえば、ギース兄さんは来年から王立の魔法学園に通う予定らしい。
しかも、その魔法学園は入学試験がとても難しく、とても狭き門であることが知られている。
毎年、多く者が校門の前で悔し涙を流しているというのは、有名な話だ。
だから、ギース兄さんが忙しいのは当然といえば当然であった。
ギース兄さんはあんな奴だが、一応家族なので、泣くようなことにならないように心の中で少しだけ応援しておく。
「......それにしても、魔法学園か」
小さく誰にも聞こえないような声で一人つぶやく。
魔法学園はあらゆる分野の知識が集まる場所だ。
多くのイベントが開催され、そこで結果を残せば、己の望みすら叶えられるとも言われている。
特に、毎年、ゼーレス王国が国を挙げて魔法学園同士が学園の威信をかけてしのぎを削りあう”大魔星天祭”が大きな盛り上がりを見せる。
そして、その褒賞が凄い。
過去には、宮廷魔法士団長や近衛騎士団長、宰相などのポストや稀有な財宝、魔道具の獲得、そして......閲覧禁止指定の書物の閲覧権限などが与えられている。
「魔法学園に行けば、いくらでも情報は集められるんだろうけど。俺は行けないしな......」
俺の謎の感覚の正体に近づく道が分かってはいるのに、どうしてもそこに行けないと分かると何かもどかしい気分になる。
そんなことを考えている内にもう食堂の扉の間に到着していた。
「まぁ。自分なりの方法で解決するしかないな」
そう自分に言い聞かせながら、食堂の扉を開いた。
食堂に着くと、すぐに色とりどりな料理がでてきた。
特にスープからとても美味しそうな香りがしてきて、食欲がそそられる。
さすがに貴族としてのマナーは身についているので、落ち着いて食事を始める。
(美味しい!!はぁ~、この食事が俺の支えだな)
こんな食事を毎日食べているうちに、いつの間にか食事は人生における数少ない娯楽の1つになり、俺はここの料理の虜になってしまった。
そうして、一通り食べた俺は最後にあのいい匂いのスープに手をつける。
楽しみは最後にとっておく派なのだ。
ゆっくりとスープを口に運ぶ。
口に入った瞬間、体に衝撃が走った。
(よく煮込まれた玉ねぎと人参の酸味と甘みがすごい旨味を生み出している。そして!特にすごいのが、このコンソメの味だ!絶妙な裁量で水とコンソメがマッチしていて美味すぎる!!)
そんな食レポまがいのものを心の中でして、感動していると
「フィオ様は本当に美味しそうな顔で食べてくれますな!」
明るく声をかけてきたのは、この公爵家の料理長であるマーク料理長だ。
グラン爺と一緒で、俺に普通に接してくれる人の一人。
いつも明るく元気な人で、俺はこの人がネガティブになっているところを見たことがない。
もともとは町でレストランを営んでいたらしいのだが、20年程前にお爺様が立ち寄ったときに絶賛してスカウトされたらしい。
「いやだって、本当に美味しいから思わず顔に出ちゃうんだ!」
しっかりと食事が美味しいことを訴える。
本当に美味しいのだから仕方がない。
「そう言ってもらえると、こちらとしても作り甲斐があるってものですよ!ガハハ」
そう言って、マーク料理長は大きな声で笑う。
「いつも美味しい食事をありがとう」
「いやいや、美味しく食べていただければ、こちらとしてもうれしい限りですぞ!」
マーク料理長は本当に明るくて、いい人だ。
この人には剣の修業を始めることを報告しておいた方がいいだろう。
「俺さ、今日から剣術を習うことにしたんだよ」
「へぇ~。そうですかい。でも書庫に籠りっきりだったフィオ様がどうして急に剣術を?」
正直、謎の感覚の話はあまり言いふらすものでもないので、少しためらうが、この人なら大丈夫だろう。
話すことにする。
そうして、俺はグラン爺に説明したことをマーク料理長にも同じように説明していく。
「......そうですか。ということは、フィオ様はいずれ一度外に出ていかれるということですかい?」
「そうだね。まだ先の話だろうけど、そういうことになるかな」
「......」
マーク料理長は黙り込んでしまった。
少ししてから、また口を開いた。
「......月日は流れるのが早いものですな。この間まで小さかったフィオ様がもう旅立ちを考えられる歳になろうとは......」
マーク料理長は昔を懐かしむような顔をしながら、そう言った。
マーク料理長は20年ほど前からこの家で働いているので、当然俺の生い立ちを知っている。
俺の生い立ちを思い出しながら、俺の成長を喜んでくれているのだろうか?
そうだとしたら、うれしいな。
「ま! とにかく、まだ先の話のようですし! 俺に今できることは、フィオ様が頑張れるようにもっと美味しい食事を用意しておくことだけですな!応援してるんで頑張ってください!」
マーク料理長は再び大きな声を出して、俺を応援してくれる。
「うん!ありがとう。よろしく」
俺は感謝を伝えてから、立ち上がって食堂を出る。
朝食を終えた俺はさっそく剣術を習うべくグラン爺のもとへ向かった。
「グラン先生、よろしくお願いします」
「ホッホッホッ。礼儀なんぞ不要ですぞ。特訓は苦難の連続。それでもやりますかな?」
「やる。今のままじゃ何も変わらない。このどうしようもない謎の感覚を解決するためには、外に行くしかないんだ。そのためならいくらでもやってやる」
自分の覚悟に揺らぎがないことをはっきり伝える。
「ホッホッホッ。そうですか。では、やりましょうか。まず初めに基礎体力から鍛えますぞ」
そうして基礎体力を養うことから俺の特訓は始まった・・・・・・・・・・・・・・・・・・
**
その日の夜。風呂に入り終わった後。
「ーーーーーきっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!これは本気でやばいな」
俺はベットにうつ伏せで飛び込み、叫んだ。
確かに覚悟はしていた。
あぁ十分にしていた。
でも、でもだ。
さすがに想像できていなかった。
あれはーー
(「まずは腕立て1000回!」
「坊ちゃん、休む暇などないですぞ。往復のダッシュを20回を10セット!」
「終わったら、腹筋1000回や!」
「いけぇぇぇ!走れぇぇぇ!根性見せろやぁぁぁ!」
etc..... )
あれを毎回やるんだよな。
てか、途中からグラン爺の口調がなんか若返ってたし...。
「でも、やるしかないんだ。今でも残るこの謎の感覚を解決するには。乗り越えて、俺はこの謎の感覚の正体を突き止める!絶対に!」
さらに覚悟を決める。
自分の目的を果たすためには、これしかないから。
「明日も特訓だし。早く寝ないと」
明日も地獄のようなきついトレーニングが行われるのだ。
早く寝るに越したことはない。
そうして俺は深い眠りについた。
**
それからというもの俺は筋肉痛などとも戦いながら特訓を続けた。
マーク料理長の料理のおかげもあってか、なんとか毎日の特訓を乗り越えていった。
そんなある日
「坊ちゃん、よくぞ厳しい基礎体力トレーニングを耐え抜きました。ここからは剣術の指導に入りましょう」
「ホントに!? やった~~!」
ついに俺はやり切ったのだ。
あの苦しいトレーニングの数々を。
終わったことを実感してみると、確かに始める前よりも遥かに体の動きが良くなったと思う。
「では、まずは基礎の部分からですな。正眼の構えからお教えいたしましょう。正眼の構えは相手と対峙した時に一切の隙を与えないための構えなのです。剣先を喉元にもってきて構えるのですよ」
「うん。本でも見た」
書庫から持ち出した剣術の本で予習済みだ。
「ホッホッホッ。坊ちゃんは勉強熱心ですな。正眼の構えをマスターできれば戦いにおいて主導権を握ることができますぞ」
それは本には書いていなかったから驚きだ。
本には姿勢や持ち方しか書いていなかったからな。
「へぇ~。じゃあまずは正眼の構えのマスターからか......やってみるよ!」
本で見た正眼の構えをイメージしながらやってみる。
すると
「ほぉ~。初めてでこんなに綺麗な型がとれるとは。坊ちゃんには剣術の才があるのかもしれませんな」
「そう?本で見たのをイメージしてやってみたんだけど」
「坊ちゃんは純粋なのですよ。人間誰しも癖というものがありますからな。癖が邪魔をするのですよ」
「へぇ~。なるほど......」
無能扱いされているせいで長い間、褒められるという経験がなかったからか、いざ褒められると照れくさくなってしまう。
なるべく表に出ないように表情を堪え、ごまかした。
気を取り直して、正眼の構えを続ける。
時間がある程度経つとグラン爺が
「はい、今日はもう正眼の構えは終わりにしますぞ。次に剣の素振りをしましょうか」
「はい!」
「では、お手本を見せるので見ていてくだされ」
そう言ってグラン爺は素振りを始めた。
グラン爺の素振りは素人の俺から見てもとても綺麗だった。
剣がブレることなく一直線で、体の軸がまっすぐ整っていた。
その光景を見て、思わず尋ねた。
「グラン爺って昔、相当な実力者だったり?」
「......いえいえ。私なんぞいくらでもいる一般的な剣士でしたよ」
「ふ~ん。それほど綺麗な型なのに。世界って広いな」
「そう...ですな。世界には多くの実力者がいますからな」
なんだかグラン爺のかみ合いが良くなかった気がするけど......
まぁいいや、それよりも集中してお手本を見ないと。
(体の軸はブラさない。剣は一直線。剣先はさっきの正眼の構えのように。目線は常に前を向く......)
「お手本はどうでしたかな。イメージは膨らみましたかな?」
お手本を終えたグラン爺が話しかけてくる。
「うん。イメージは大丈夫。でもあんなに綺麗には出来そうにないかも」
「ホッホッホッ。それはそうでしょう。綺麗な型というのは長い時間をかけて取得していくものですからな」
「そうだね。とりあえず、やってみる」
そうして、さっきイメージしたことを意識しながら取り掛かる。
やはり難しい。
意識したことを一遍にやろうとすると必ず抜けてしまうところが出てきてしまう。
その抜けた部分を直そうとすれば、また別の部分が抜けてしまう。
「やっぱり難しい。相当練習しないとできそうにないや」
「そうですな。練習あるのみです。遅くなってきましたので、今日のところはあと100回で終わりにしましょうか」
「はい」
その後、俺は残りの100回を終え、今日は終わりになった。