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15 戦いの後

*少女視点*


「あぁ......なんで......どうしてよっ......」


取り留めもなく私の瞳から流れる涙。

それを必死に拭いながら、顔を上げて正面を見る。


そこには、先ほどまで私を襲おうとしていた魔獣と奴に立ち向かう少年の姿。


少年の背丈は私とそれほど変わらなそうなので、おそらく同年代だ。


そんな彼は殺されそうになっていた私の前に突如として現れ、魔獣の攻撃を阻止した。


そのおかげで、私は滑稽にも生き長らえている。


「......ッ!!」


私の中で過去の光景がフラッシュバッグされ、少し眩暈がした。


私を守ろうとし、敵に立ち向かった今は亡き勇敢な者たちの背中。

私が死に追いやってしまった最高の家臣たち。


彼らのあの背中が、さっきの少年の背中に重なった気がした。


「駄目......駄目だよ......逃げてっ......」


手を伸ばしながら、震える声で必死に声を出す。


しかし、その手は空を切り、その声が彼に届くこともなかった。


「私は......私はっ!!」


自分で自分が嫌になる。


呪われた私は、あまりに無力であまりに有害。


生きる価値のないどうしようもない存在だ。


「でも......それでも......彼は関係ない」


私に全く関係のない人を巻き込んだ時点で私の愚かさは極まっているけど、もし彼を死なせてしまっらと考えるだけでゾッとする。


彼は私の家族でもなければ家臣でもない。

私の抱えているものだって知らないだろうし、関わるべきでもない。


私が逃げた先に彼がいたというだけのこと。


彼には彼なりの未来がある。


それを私なんかが奪う資格はない!


ーーそう考えていた時、異変が生じた。


「え? 嘘、なんで......魔力の流れが止まらないっ!!」


突如として訪れた異変。


あまりにもタイミング悪く起きたこれは......魔法の暴走。


私の固有魔法が私の制御を離れ、暴走しているのだ。


「な、なんて間の悪い......なんで......なんで、今なの!」


あふれ出る魔力を必死に抑え込みながら、私はパニックに陥る。


それを煽るように、抑え込み切れない魔力が次々と魔法を形作ろうとしていた。


「ま、待って。待ってってばっ!!」


完全に制御を離れた魔力は周囲を侵食していき、黒く染まっていく。


冷静さを失った私は、もはや焦りの声を上げることしかできない。


「お願い。止まって止まって止まって止まってっ!!」


制御しきれない力に、ひたすら懇願する。


このまま暴走が続けば、魔獣も助けに来てくれた彼も、ムーランの町さえも滅びかねない。


私に与えられたのは、そういう力だから使わないようにしていたのに!!


「これじゃ......町の人まで......」


最悪の結果を想像し、背筋が凍る。


しかし、浸食の域は拡大し続け、全く止まる気配がない。


今でこそ私の周囲にしか影響はないが、これ以上暴走が続けば、最悪の結果になるまでにそう時間はかからない。


魔法の域が拡大していくのとともに、私の焦りも大きくなり、息の仕方も忘れるほどに思考がまとまらなかった。


「はぁはぁはぁ.......どうしようどうしようどうしよう」


大粒の汗と涙が頬をながれ、私は絶望の表情を浮かべる。


”自殺”。


その言葉が頭をよぎる。


しかし、今それをしてしまえば目の前の少年の命も善意も全てを無責任に捨て去ることになる。


今の私にその選択肢をとることは、とても出来ない。

無責任に彼を放っておくことなんて出来ないんだ。


私がそのように葛藤していたその時。


「ーーッ!?」


首筋に急に何かが刺さった気がした。


その感覚につられて首筋をさすってみるが、実際は何もなかった。


ただの勘違い。

「こんな状況で変な勘違いをするなんて......」と己の愚かさを再認識する............が。


「あ、あれ? 視界が......」


いきなり視界がぼやけ始め、次第に体も重くなっていった。


「な、な、に、こ、れ......」


一気に意識が奪われていき、必死に抗うが体がいうことをきかない。


途絶えていく意識に抗いながら、私は木にもたれて、今もなお戦い続けている少年を見据える。


「ご、ごめんな、さ、い..........」


そこで、私の意識は途切れてしまった。




ーー次に目を覚ました時には、多くの家臣と光に囲まれ、あの少年も魔獣も夜の森からは綺麗さっぱり消えてしまっていた。





*???*


「まったく......どういうことやら......」


月の光が差し込む夜の森で、私は一人つぶやく。


折れた剣を片手に気絶した少年、私が眠らせた少女、そして魔物の遺体。


上位魔獣と戦った後としては、十分すぎるほどの光景がそこには広がっていた。


私は魔獣に近づき、状態を確認する。


「素晴らしいほど、切断面に無駄がない。こんな子供のなりでよくここまで出来るものね」


倒れこんでいる少年に近づき、魔法で出現させた水によって、血のりをふき取っていく。


実際、私は戦いの全てを初めから見ていた。


少年の攻撃はまったくと言っていいほど魔獣にはきいておらず、最初から最後まであの魔獣があの戦いを制していたと言っていい。


にもかかわらず、彼は何度も何度も立ち上がり、その度にまた目の前の敵へと立ち向かっていった。


本人も勝算があるなんて考えられなかっただろうに、何度も切りかかろうとしていた。


そんな姿を見ていたら、助けになんて入れなかった。


彼の戦う姿をもっと見てみたい、と我ながら鬼畜な性格をしているとは思うが......そう思ってしまった。


しかし、相手は上位魔獣であるパンクウルフ。

本当に危なくなったら助けに入ろうと、そう思って準備はしていた。


「まさか最後の最後であんなことになるなんてね」


私は少年の頬を優しくなでる。


最後の雲がかかったあの瞬間。


パンクウルフが勝敗を決めにいったあの強烈な一撃。


それを............彼の神速の一閃が上回った。


彼が完全に地面に倒れ、流石に私も助けに入ろうと魔法を発動させようと思った矢先、少年は立ち上がり、あの一閃を放ったのだ。


まさに一瞬の出来事で、パンクウルフは攻撃の目標を見失い、そのまま倒れていった。


それを追うかのように少年も倒れてしまったわけだが......


「フィオ......やっぱり貴方は......」


温かい気持ちになり、少年の顔を見ながら優しく微笑む。


()()()から話は聞いていたが、聞くのと見るのとでは全然違った。


フィオに希望やら何やら抱く段階でないのはよく分かっているが、もはや期待をせずにはいられない。


そしてそれ以上に......何よりも、彼の存在が私の心を救ってくれているのは紛れもない事実。


私の心の中は幸せでいっぱいだった。


「っと、やることやらないとね」


目線を魔獣の遺体に移し、炎を出現させる。


面倒なことにならないように魔獣の遺体を燃やして、戦闘の後が残らないようにした。


あとこの場に残ったのは私と、フィオ.......そして、彼女。


「フィオだけでも驚きなのに......まさか貴方までなんてね......」


木にもたれかかる少女の顔を見据え、胸が熱くなった。


少し潤んだ瞳をこすって、少女に近づく。


「本当は貴方と言葉を交わしたかった......けれど、もう時間がないみたい」


森の奥から多くの光と名前を呼ぶ声が聞こえる。


彼女の家臣たちの様で、その光は次第に大きくなっていた。


「大丈夫、大丈夫よ......今はこれしか言えないけれど......絶望に屈しないで」


少女の頬を撫で、前髪をいじりながら優しく語り掛ける。


本当なら彼女も連れ去りたいけれど、今の社会がそれを許さない。


だから............


「今はさようなら。また会いましょう」


撫でていた手をゆっくりと離し、立ち上がった。


熱くなる思いを胸で感じながら、私は再びフィオの元へと戻る。


風を発現させると、フィオの体がフワリと浮上。


木元の彼女を放っておくわけにもいかないので、光の魔法で周囲を照らした。


すると、奥の方で「こっちのほうで光ったぞ!」と大きな声が上がり、彼女の家臣たちがこちらに進んでくる。


彼女が見つかるまでここにいるわけにはいかないが、この分だとここを離れても数分で見つけてもらえるだろう。


「さてと。それじゃあね」


フィオを浮上させながら、私はその場を後にする。


「いたぞ!!」という声を後ろで聞きながら、私は自分の家へと戻った。

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