14 覚醒Ⅱ
フィオの覚醒の時です!!
二つに分けてしまい申し訳ございませんでしたm(_ _)m
「なんだよ、あのパワーと身体能力。不意打ちだぞ......」
分かりたくなかったが、今の攻防だけで思い知らされた。
アイツと俺とではレベルが違い過ぎる。
今の俺を構成する全能力において、俺はアイツに劣っているだろう。
でも......それでもっ!
......それでも勝ち目を見出さなきゃ......俺はあの子を守れない!!
そこでふと違和感を感じた。
(なんで俺、あの子を守る前提なんだ? 会ったことも見たこともないはずのあの子を)
ただの同情や正義感と言ってしまえばそれまでだが......違う、そうじゃない。
前に村でブラウンサラマンダーと戦った時は、何というか......あったのだ正義感? みたいな感覚が。
人のために戦っている、誇らしい感覚。
だが、今回は違う。
言い表すのなら......
そこでスッと考えが体の中に入って気がした。
そう、使命感だ!!
あの子を守れ。
あの子を守らなくてはいけない。
そんな使命感が今の俺を突き動かしている。
胸の奥から訴えかけてくるこの使命感は、俺が答えを探し求めてきた感覚そのもの。
なぜ、俺がこんな正体不明の使命感を抱いているかは甚だ疑問だが......
「とか、考えている暇もないよな......」
ウルフの魔獣がこちらを向いて唸りながら、威嚇の態勢をとっている。
認めたくはないが、先ほどのパワーから考えてもあの魔獣は魔獣の中でも上位存在であるパンクウルフと考えて間違いないだろう。
ここからは不意打ちも効かない。
この魔獣を前に、逃げて生き延びることなんてできるはずもない。
まさに一対一の生死をかけた時間だ。
終わりの合図はどちらかが相手の息の根を止めた瞬間。
「少し休もうと思った先で、こんなことになるなんてな」
魔獣に襲われている少女。
たまたま森に入った俺。
少女に反応する俺の謎の感覚。
これを偶然と片づけるには、あまりに無理が過ぎた。
だが、仕組まれたことだと決定づけることも俺には出来ない。
だから今の俺にできることは一つだけ。
ーー生き延びて、あの子を守り抜く。
たったそれだけで充分だ。
「さぁいくそ......ウルフ野郎っ!!」
正眼の構えをとり、俺は駆け出した。
**
駆け出した俺は、さっそく仕掛ける。
パンクウルフの攻撃がギリギリ届かない距離で、勢いよく地面を切り上げる。
目標は言わずもがな、パンクウルフの目!
「バフォォォォ!!」
眼前が砂まみれになり、その一部が目の中に入ったことでパンクウルフは吠えながら暴れまわる。
その暴走に巻き込まれない距離から回り込み、俺は切りかかった。
「もらっ......ッ!?」
急にパンクウルフの強烈な足蹴りが俺を襲う。
必死に庇うが直撃を回避することが出来ず、そのまま蹴り飛ばされる。
「がはっ!!」
先にあった巨木に背中を強く打ち付け、体中のすべてが吐き出たような感覚に陥る。
正直、今の衝撃で意識が持っていかれそうになったが、そこは堪えることが出来た。
「うっ......はぁはぁ......感覚がない。骨が折れた......か......くっ、”回帰”!!」
俺の固有魔法”回帰”を発動。
今の衝撃で負傷した部分をすべて治していく。
感覚も戻り、骨も元に戻ったようだ。
だが............
「はぁはぁ......いてぇ。やっぱり、ダメージまでは消せないか」
俺の固有魔法では、傷の修復が限界。
ダメージや疲労までは回復が不可能であった。
だから、今でも体中は猛烈に痛いし、少しでも気を抜いたら倒れてしまいそうだ。
フラフラとした意識の中で、俺は懸命に意識を保つ。
立ち上がってウルフに向きなおり、剣を握りしめながら正眼の構えをとる。
パンクウルフの顔をみると、先ほどの砂は対処しきったようで、鋭い眼光をこちらに向けていた。
お互いに睨み合い、何もしない時間が続く。
圧倒的な力量さ。
考えていた通り、俺には勝機がないらしい。
無謀な挑戦。
無謀な戦い。
誰がどう見ても今のこの戦いはパンクウルフに軍配があがる。
「でも、負けるわけにはいかないんだよ!!」
胸の奥の使命感が俺を突き動かす。
守った先に何があるのかなんて考える余裕すら与えない。
ただただ”彼女を守れ”と訴えかけてくる。
無謀な挑戦、無謀な戦いだったとしても、この感覚がある限り俺は絶対に負けるわけにはいかないのだ。
ーーしかし、そんな俺の思いはすぐに崩れ去ることになる。
「バフォォォォォ!!」
パンクウルフが吠えながら、物凄い脚力で一気に間を詰めてくる。
気づけば目の前にパンクウルフがいた。
「くっ......!!」
必死に防御するが......遅い。
次は前足で殴り飛ばされ、またしても巨木にたたきつけられる。
「あがっ......! くっそぉ......"回帰”!!」
先ほどと同様に、ダメージはそのままで負傷した部位だけが治されていく。
意識が飛ばないように、懸命に繋ぎ止めながら、俺は立ち上がる。
正眼の構えをとり、次こそはと準備した。
だが......もう俺の攻撃する暇などなかった。
パンクウルフは、俺が立ち上がり剣を構えなおす度に、一瞬で間合いを詰めて攻撃をしてきた。
殴られ蹴られ、殴られ蹴られの繰り返し。
防御をしようにもあまりの攻撃の速さに体が追い付かず、結局吹き飛ばされる。
そのたびに俺は”回帰”を発動し、負傷部位だけを治していく。
魔力が減り、ダメージだけが蓄積されていくだけの戦い。
......いや、これはもう戦いではない。
蹂躙だ。
強者による弱者への蹂躙そのもの。
成すすべもなく吹き飛ばされ、木に体を打ち続ける。
意識はなんとか繋ぎ止めているが、それだけ。
体中にダメージが蓄積されて、攻撃なんて芸当はもはや出来ない状態になっていた。
「そ、れ、でも......ま、守らないと......いけないんだよ!!」
俺は自分を奮い立たせるかのように、言い放つ。
普段の俺ならここで倒れていただろうが、この使命感はどこまでも俺を立ち上がらせる。
俺をここまで奮い立たせる彼女が自分にとって、どんな存在であるのかは分からない。
分からないが......分からないからこそ、この感覚は不思議なのだ。
だから、この謎の感覚を理解するためにも俺は......
「勝って、生き延びなきゃいけ......ッ!?」
そう言った瞬間、高速で詰めてきたパンクウルフの強烈な蹴りが俺に直撃。
俺は吹き飛ばさて地面を転がり、やがて物凄い鈍痛が襲われた。
「あっ......やばい......意識が......」
こればっかりはどうにもならなかった。
思った以上に俺の体も心も限界を迎えていたようで、意識が遠のいていくのを感じた。
自分の意志ではもうどうにもこうにも出来なかったのだ。
「あ......く、そ......」
そう呟いて、俺の意識は深い底に落ちていったーー
**
いつの間にか日は沈んでいた。
しかし、二つの月が光を放ち、夜の森とは思えない明るさであった。
そんな森にいるのは、木の陰に身を隠している少女と魔獣の中でも上位存在であるパンクウルフ、そして......今しがた気を失い倒れたフィオという少年であった。
そこには静寂が流れていた。
罪悪感に苛まれる少女。
勝利はしたものの戦闘による疲れが少し残っているパンクウルフ。
気を失っているフィオ。
この静寂が意味するのはパンクウルフの勝利。
今からパンクウルフは少年と少女の二人を殺し、完全勝利を迎えるのだ。
そうして、その時は訪れる。
パンクウルフは気絶しているフィオに近づき、足を振り上げる。
ちょうどその時二つの月に雲がかかり、先ほどまでの明るさが嘘かのように急に森は明るさを失った。
その場にあった静寂に「パシュッ」という音が響き渡る。
少年ーーフィオの体がパンクウルフによって切り裂かれる音。
そう......そのはずだった。
月を覆い隠す雲がなくなり、再び森が明るさを取り戻す。
そこにあったのは............
首が地面に転がった魔獣と折れた剣を片手に立つフィオの姿であった。
何が起きた!?となると思いますが、フィオは覚醒しています!!
※面白そう!と思ったら、下の☆を押してくれると嬉しいです!!