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13 覚醒Ⅰ

覚醒の回が長くなってしまったので、二つに分けて投稿します。


申し訳ございません<(_ _)>

*???*

「バファァァ......」


漆黒の毛を生やした絶望が涎を垂らしながら、私に近づいてくる。

その表情は喜びに満ちていた。


私という獲物を完全に追い詰め、食事にありつける瞬間を思い浮かべているのだろう。


私の恐怖感を煽るように少しずつ歩みを進めていた。


「ごめんっ......ごめんなさいっ......みんな......」


堪えきれなくなった涙を流しながら、私は自分の死期を悟る。


心の中が申し訳なさでいっぱいになり、ひたすら謝罪の言葉を並べ続ける。


謝っても謝っても足りないほどに私は......私という存在は悪だった。


悪ゆえに何もかもを失った私の業は、来世でも償いきれないのかもしれない。


いや......そもそもこんな私には来世なんていうものはないのかもしれない。


地獄よりも深い深い地の底で、私は私の業を永遠に償っていくべきなのだ。


散々周りを巻き込んで、多くの人を犠牲にして、その家族にも涙を流させて。


私は......悪だ、邪悪だ。

本当にどうしようもない存在、それが私なんだ。


だから、だからっ!

私はこの罪を背負って、深い深い地の底へ落ちるべきなんだ。


そう......そうに決まっている。



............はずなのに。なんでっ......どうしてっ!


「まだ生きたいって......思っちゃうのぉ......」


それは決して抱いてはいけない感情。


なのに胸の奥から沸々と湧き上がってくる。


(やめて......やめてっ......お願いだからっ!)


流れる涙とともに、生きたいという思いが私を苦しめ続ける。


湧き上がるこの感情は留まるところを知らなかった。


自分はなんて愚かな存在なのだろう。


自分が死ぬべきだと分かっているのに、生きたいと思っている?


笑い話だ。

あまりにも身勝手で......あまりにも滑稽な笑い話。


こんな身勝手な願望のせいで、ここまでの事態になってしまったというのに、それを捨てきれずにただ生にしがみつくなんて。


そんな自分に嫌気がさす。


私自身、死ぬべき存在であることは痛いほどよく理解している。


生きているだけで、周りに害を及ぼす存在だということは分かりきっている。


でも、それでも。


期待してしまっている.......いや、願ってしまっている。

自分の生を、未来を。


願い。

それは昔、お母様から教わった大切な感情。


この感情があったからこそ、私は今までどんな場面でも諦めずに戦ってこれた。


私なんかを守ろうとし、多くの人が散っていったとしても。

死なせてしまった罪悪感とその人たちの家族への申し訳なさに押しつぶされそうになっても。


私はただ希望があることを願って、私を活かしてくれた皆のためにも、走り続けてきた。


だけど,,,,,,もう。


気がつけば、目の前で飢えた獣が万遍の笑みで、涎を垂らしながら牙を覗かせていた。


「ごめんね......皆。皆が生かしてくれたこの命なのに、結局私は駄目みたい......」


届くかは分からないけど、私は俯きながら今まで私を守り続けてきてくれた皆に語り掛ける。


「せっかく皆が必死に,,,,,,必死に,,,,,,必死にっ! 守ってきてくれたのにっ!」


駄目だ。

後悔と申し訳なさで、感情が抑えられない。


「どうして生きたいなんて思っちゃったんだろうね? 本当になんでだろ? 私なんか皆に害しか及ぼさない存在なのにっ」


涙が溢れて止まらない。

視界がグシャグシャだ。


「苦しい......苦しいよっ! 生きたいなんて思いたくないのに、生きたいって、死にたくないって、今も心の中で身勝手に思い続けてるっ!」


ついに獣が私の目と鼻の先にたどり着いた。

その見下す目が、まるで私を非難しているように見えて、ひたすら恐ろしい。


「どうか、どうかこんな愚かな私を許してください。もうこんな願い抱かないから。今度は身勝手な思いじゃなく、皆のために願うから......だからっ!」


獣の前足が高く振り上げられる。

死へのカウントダウンはゼロになりかかっていた。


涙でグシャグシャになった私は、もはや懺悔しかできない。


そんな様子を見て、獣は楽しんでいるようだった。


「だから、どうか神様。いるのでしたら彼ら彼女らに幸福を。私はもういいんです。これ以上私のために犠牲になる人を見たくありませんっ。私の身勝手な思いに周りを巻き込みたくありませんっ。地の底で彼らの幸福を祈らせてください。お願いします......」


涙が頬を伝るのを感じながら、私は薄暗い空を見上げる。


(死んだら、生きたいとか思わなくなって少しは楽になれるかな?)


そんなことを考えながら、獣の足が振り下ろされるのを待つ。


ついに愚かな私の生が終わる。


死ぬ瞬間は痛いかもしれないが、それは罰だ。

散々身勝手に、周りを巻き込んできた罰。


受け入れよう、何もかも。


「バフォォォ!」


獣が大きい声で吠えると同時に、振り上げていた片足を振り下ろす。


ついにカウントダウンがゼロになる。

私は目を閉じ、その時を待ったーー





ーーが、その時はいつまで経っても訪れなかった。


「バフォ?」


その場にあったのは獣の気の抜けた鳴き声だけ。


異変を感じ、私はゆっくりと目を開けた。


すると、そこにあった......いや、いたのは一人の少年。


「危ない......ギリギリ間に合った......けど、ヤバイなこいつ......」


そう言いながら、少年は剣でなんとか獣の足を防いでいた。


そうして、驚いてあっけにとられていた私に彼は続けて言った。


「大丈夫か? 助けに来たぞ」




**

「大丈夫か? 助けに来たぞ」


俺はフードを目深に被った少女? に声をかけるが、返事はない。


正直、俺も魔獣の足を抑えるのに精一杯でそれ以上言葉をかけることは出来なさそうだ。


「バフォォォォォォォォ!!」


魔獣が気をとり直し、薄暗い森の中に怒気の混ざった声が轟かせる。


先ほどまでギリギリで抑えられていた魔獣の足に重さが増した。


「ぐっ............」


あまりの重さに、俺の足がミシミシと嫌な音を出す。


これ以上はマズイと思った俺は、できる限り声を張り上げて後ろの少女に言う。


「君っ! 急いでここから離れて!」

「............」


俺の言葉に少女は反応を示さず、無言のまま動こうとしなかった。


なんで! と一瞬思ったが、思えば当然だ。

こんな状況に追い込まれたうえ、急に声を張り上げられても驚くだけだろう。


だが、今の俺には少女を気にかけてる余裕などなかった。


眼前の魔獣がさらに足に重みを加える。


「うっ............早くっ!!」

「ーーッ!!」


耐えきれん程の重みを感じながら、俺は気力を振り絞り、大きく声を張り上げる。


その声に反応してようやく少女は立ち上がり、俺の後ろから動き出してくれた。


その様子を横目でみながら、俺は必死に魔獣の足を受け止める。。


「ク、ソ、がっ!!」


少女が完全にいなくなったのを確認した俺は懸命に力を振り絞って体をひねり、魔獣の足を剣で滑らせながら、横に飛んだ。


反動で地面に体を打ち付け、地面を転がる。


魔獣も受け流されたことで地面に足を打ち付け、一帯に砂埃が舞った。


砂埃が舞ってお互いが見えない内に態勢を整えようと、近くの木の裏に地面を這いずって、身を隠した。


「いっつぅ......あの大きさであの重さってなんなんだよ......」


魔獣自体はそれほど大きくない。

姿形からみて、ごく平均的なウルフの大きさだ。


しかし......あの重さ、あるいはパワーと言った方がいい。

それが異常だった。


たった一度重さを加えられただけなのに、全身が軋むように痛い。


それでもって、あれが全力ではないとかなったら、次はないかもしれない。


あの大きさでここまでのパワー......思い当たるには思い当たるが......


ここはムーラン近郊の森だ。


低位......いても中位の魔物ぐらいだ。

それにもかかわらず、上位の魔物......パンクウルフなんて、ありえない。


ムーランの森は基本的に安全なことで有名だ。


昼間なら森の奥にさえ行かせなければ、子供たちを遊ばせてもいいぐらいに。


中位の魔物ですら滅多に出ない、この地で上位の魔物なんて......


そんなことを考えている間に、砂埃はすっかりと消え去り、魔獣が唸り声をあげていた。


すっかりお怒りモードである。


次は俺のことを殺しにくるだろう。


「あっ! あの子は......」


先ほどのフードの少女を探し、辺りを見渡す。


時間的に遠くに行かれ過ぎても、また魔獣に襲われるかもしれない......なんて考えていたが、意外と近くの木のそばに佇んでいた。


丁度、少女もこちらを向き目が合った気がしたので、そこから動かないようにと物音を立てずにジェスチャーをする。


相変わらず少女は無反応で、こちらの意思が伝わっているかは分からない。

だが、これ以上は何もできないので、伝わっていることを祈るしかない。


少女の無事を確認した俺は再び、魔獣に意識を向ける。


匂いを辿っているようで、地面に鼻をつけていた。


時間がない。

アイツはおそらく俺の匂いも、彼女の匂いも覚えている。


近くに隠れている俺たちの居場所なんて、すぐに分かるだろう。


少し考える時間が欲しかったが......一秒すらも無駄には出来なくなってしまった。


ずっと隠れて、俺も彼女も殺されてしまっては助けに来た意味がない。


作戦なしでは不安しかないが......仕方ないっ。


俺は飛び出し、全速力で魔獣の背中に回り込む。


「バフゥ?」


俺の存在に気が付き、ウルフの魔獣が顔をこちらに向ける。


体まで完全に振り向かれないうちに、俺は魔獣の背中めがけて切りかかる。


しかし、魔獣は回避行動をせずに迷うことなく後ろ足で鋭い蹴りを放つ。


瞬間的に死を予感した俺はたまらず攻撃を中止し、その蹴りを剣で受け止めるが、威力が強すぎて後方に蹴り飛ばされる。


なんとか俺は態勢を保ちながら、地面に着地した。

次は覚醒回の覚醒の部分なので......是非読んでください!!


※面白そう!と思ったら、下の☆を押してくれると嬉しいです!

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