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10 再出発

ブラウンサラマンダーの討伐を終え、村に戻ると、村長さんの提案のもと宴会を開くことになった。


すぐに村の人は準備に取り掛かり、楽しそうに準備をしている。


俺も手伝おうと思ったのだが、「村の恩人に手伝わせるわけにはいかんよ。」と言われてしまい、椅子に座って準備の光景を眺めている。


つまり、とても暇ということである。


そんな絶賛暇を持て余している俺に、一人の女性が近づいてきた。


「こんばんわ、お兄さん。ちょっとお話でもどうかしら?」


綺麗な女性が優しく微笑みながら、話しかけてきた。


急な出来事だったので、少し戸惑ってしまう。


「えっと......」


「あっ! 自己紹介しなきゃね、ごめんなさい。私はアンっていうの。村長の娘で、あそこで動き回っている男、ルードの妻よ。よろしくね」


そう言って、女性は手を差し出してきた。


村長さんの娘さんか。

それに、あそこで動き回ってるのって......やっぱりさっき一緒に戦って、頭を撫でてきた男性だ。

ルードさんっていうのか。


「はい! 僕はフィオっていいます。よろしくお願いします、アンさん」


俺も元気よく返事を返しながら、手を取って握手をした。


「うちの夫が随分と感謝してたわ。この村の代表者の娘として、そして一人の住人として言わせてももらうわ。本当にこの村のためにありがとうね」


アンさんはそう言いながら、深々と頭を下げてきた。


正直、そこまで大したことはしていないので焦ってしまう。


「い、いえ。大したことは...本当に大したことはしてないので、頭を上げてください」


焦りが混ざって、若干早口になってしまった。


するとアンさんは顔を上げて、俺の顔を見て口を開いた。


「優しいのね。まったく、その優しさを私の息子にも分けてもらいたいぐらいだわ」


アンさんは微笑みながら、冗談交じりに言った。


「へぇ~。アンさんには息子さんがいらっしゃるんですね。少しお話を聞いてみたいかもです」


俺もその冗談に乗っかるように、笑いながら言った。


「ふふっ、そう? じゃあ聞いてもらおうかしら。本当に困った息子でね......今日だってこの村唯一の守り人なのに『敵情視察だっ』って言って、隣町まで行っちゃったんだから」


あ~、この村唯一の守り人ってアンさんとルードさんの息子さんだったんだ......


もしかして、だから二人ともより一層感謝してきたのか?

守り人が不在だったという状況に、守り人の親として責任を感じて。


なんだか腑に落ちてしまって、少し笑ってしまう。


「そうだったんですね。じゃあ、帰ってきたらお説教しないといけませんね」


俺は冗談っぽく、アンさんにそう言った。


すると、アンさんも口元に手を当ててクスクス笑いながら、口を開いた。


「そうね! おしりを百回は叩かないと気が済まないわ!」


アンさんは拳をグっと握って、言った。


そう。

拳をパーではなく、グーにしてそう言ったのだ。


おしりを叩くと言ったのに。


もしかしたら息子さん酷いことになるんじゃないかなぁと内心で息子さんに少し同情してしまう。


「やり過ぎないようにしてくださいね......」


息子さんには是非とも頑張ってもらいたいものだ。


その後も軽い雑談をしていると、遠くから低い笛の音が聞こえてきた。


「あら、そろそろ始まるみたいね。それじゃあ、行きましょうか。フィオ君」

「そうですね。行きましょう」


笛の音は宴会開始の合図だったようで、アンさんと一緒に向かうことにする。


笛の音を聞いて、続々と宴会の場に人が集まっていく。


大きな鍋からとてもいい匂いがして、食欲がそそられる。


今日は一日中歩いた後に、魔獣と戦うというなかなかにハードな一日だったから、いくらでも食べられる気がする。


会場に人がある程度集まってきたところで、村長さんが前の壇上にあがって、声を出した。


「それではそろそろよいかな、皆の衆。今日は唐突なハプニングによく対応してくれた。今回はその祝勝会じゃ。楽しんでおくれ。それとな今日は珍しく客人が来てくれておる。フィオ君といってな、そこの彼じゃ。今日の魔獣退治にも協力してくれたんじゃ。だから今日は彼の歓迎会も兼ねておる。是非とも彼を盛大にもてなしてくれ。それでは......乾杯っ!!」


「「「「乾杯っ!!」」」」


俺の紹介も入れながら、村長さんは宴会の挨拶をした。


少し気恥ずかしかったが、それ以上に歓迎会でもあると言われてとても嬉しくなった。


この村は本当にいい村だ。


村長にしてもアンさんにしてもルードさんにしても、この村にはいい人ばかりが暮らしているようだし。


俺はこの村に寄ってよかったと心の底から思った。


「よう、お客人! 一緒に飲もうぜ!!」


突然、男性に後ろから肩を組まれて、声をかけられる。


今は宴会だ。

変に感動ばかりしてないで、楽しむとしよう。


「はい! もちろんです!」


俺は返事をして、多くの人たちがいる輪の中へと入っていく。


そうして、楽しい夜は更けていく。


まがいなりにも昨日まで公爵家の次男だったはずの俺はマナーや礼儀など完全に忘れて、お開きになるまで村の人たちと盛り上がっていったのだったーー




**

宴会がお開きになった後、俺は村長さんの家に泊めてもらった。


昨日騒ぎすぎたせいでまだ疲労感はあるが、俺は無理やり体を起こして布団から出た。


「おはようございます、村長さん」


外で掃き掃除をしていた村長さんに朝の挨拶をするべく、声をかける。


「ん? おー、おはようフィオ君。よく眠れたかの?」


俺の声に気づいて、こちらに振り返った村長さんが挨拶を返してくれた。


「はい、ばっちりです。お布団を貸していただいてありがとうございました」


村長さんの問いかけに泊めていただいた感謝とともに答える。


すると、村長さんは満足そうにして口を開いた。


「そうかそうか、それは良かった。朝ごはんは座敷の台の上に置いておるから、ゆっくり食べておいで」

「何から何までありがとうございます」


至れり尽くせりで、もう感謝しかない。


本当にありがたい限りだ。


俺は村長さんに感謝を伝えてから、朝ごはんを食べに向かったーー



朝ごはんを食べて食器を洗い終えた俺は、座敷でゆっくりしていた。


そこに、戸を開けて村長さんが入ってきた。


「朝ごはん、ありがとうございました。美味しかったです」

「満足してもらえたようで何よりじゃ。でも、そのご飯はワシの娘が作ったものだから、礼は娘に言っておいてくれ」


明るく村長さんは、そう言った。


(そっか、アンさんが作ってくれてたのか。後でお礼を言いに行こう)


そんな風に考えていると、村長さんに話しかけられた。


「ところで、フィオ君。今日はどうするつもりなのかの?」


ん~、元々は一泊だけさせてもらって、ムーランに向かう予定だった。

なるべく早くムーランに着きたいっていうのもあるし。


迷いはあるが、行くしかないだろう。


それにただ飯食って、お世話になり続けるわけにもいかない。


「何分、目的のある旅でして.....お世話になった方に挨拶をしてから、なるべく早く村から出発しようと思っています」

「そうか......それは残念じゃのぉ」


村長さんは目を細めて本当に寂しそうに、俺の出発を惜しんでくれた。


俺としてもすぐに村から出ていくのは、とても名残惜しい。


だが、目的がある以上それを曖昧にしてはいけない気がする。


ここでブレてしまったら、今後も何かと理由をつけてブレてしまうかもしれないから。


人間いつ変わってしまうかわからないから、こういうのはしっかりやっていく必要がある。


「すみません、村長さん......」

「気にせんでおくれ。むしろ申し訳ないのぉ。フィオ君にも都合があるのに変に気を使わせてしまって......」

「いえいえ、そんな......」


空気がしんみりしてしまった。


こんな空気にする気は全くなかったのだが、それほど村長さんが別れを惜しんでくれているのだろう。


俺は、素直に嬉しくなった。


「まぁ、来たいときはいつでも訪ねてきなさい。いつでも歓迎するからの!」


場の空気を変えるように村長さんが明るく言ってくる。


「は、はい! もちろんです! いつかまた伺わせていただきます!」


俺は村長さんの言葉に再び嬉しさを覚えながら、返事をする。


それにしても.......


たった一日しかいなかったというのに、ここまで受け入れてくれるものなのだろうか。


(いや、普通はこんなことにはならないんだろうな)


どれもこれも、この村の方たちの優しさ、温かさゆえに決まっている。


俺の中でここに留まりたいという思いが沸々とこみ上げてくるのを感じる。


まずい。非常にまずい。


意思が完全に揺らぐ前に行動しなくては。


「それじゃあ、村長さん。僕は皆さんにお礼の挨拶をしてきますね」


俺は自分の中に沸き上がりつつある感情を無視しながら、立ち上がる。


「そうかそうか、いってらっしゃい」


村長さんは笑顔でそう言ってくれた。


「はい。行ってきます!」


俺も村長さんの笑顔に答えるように元気に言って、家を出た。




**

朝食を作ってくれたアンさんをはじめ、ルードさんなどお世話になった村の人たちに挨拶を済ませた俺は再びブラウンサラマンダーの外套に身を包み、村長さんの家を出ようとしていた。


挨拶に行くたびに、村の人たち全員が「また来いよ」と言ってくれて、心がジーンとしたのは秘密だ。


俺は目の前にいる村長さんに改めてお礼を言う。


「本当にお世話になりました。また伺わせていただきますので、その時はよろしくお願いします」

「ん! ()()()()来るんじゃぞ。()()()()大歓迎じゃからな」


村長さんは、”いつでも”を強調して言ってきた。


クスクスと笑いながら、「はい!」とだけ言って、俺は村長さんに背を向けて歩き出した。


本当にお世話になった。

一日で一年分の友情を築いた気分だ。


(目的を果たしたら、また来よう)


また一つやるべきことが増えた俺は、心を新たに村を出る。


今、村を出れば次の宿泊地までは、日が落ちる前にたどり着けるだろう。

さっき村長さんにこの村近辺の情報を教えてもらったのだ。


「よし、再出発だっ」


自分に喝を入れるように言いながら、俺はムーランに再出発した。

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