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第四話 頼もしき護衛たち

 徒歩なので、帰りは四日半ほどかかる。


 一日目は何事もなく馬小屋付きの宿屋まで無事着くことができ、ぐっすり眠って道中は二日目になった。


 一行は帰路をコツコツと歩いていたが、厄介な場所に差し掛かっていた。そこは道幅もやや狭く辺りが林に囲まれている山道だった。


「行きは馬に乗っていたから駆け抜けることができましたが……」

「今は歩きだから、そういうわけにもいきませんね」


 護衛のクーゲルとパイクはそれぞれ懸念しているようだった。この山道は賊が出没することも多く、ここを通るのを嫌い、回り道をとる者も多い。しかし、回り道を使うとこの山道の三倍程の距離を歩くことになってしまう。


「危険だが、旅が長くなるとハイソニックの体調が悪くなるかもしれんからな。ここを通らざるを得んよ。お二方、いざという時は頼みます」


 ハワードは護衛の二人にそう言って頼むと、立ち止まっていた足を山道の方へ運び始めた。


「無論そのつもりですが……」

「嫌な予感がするな」


 護衛の二人も一行の前後を守るように、歩を再び進め始めた。前方にはクーゲル、後方にはパイクがいる。


 山道の中ほどから少し進んだ所まで一行が来た時、林の中から複数の人影が現れた。


「出て来たか」


 気配を察知していたクーゲルとパイクは身につけていた長剣を既に抜いていた。


「何だ、もう抜いてやがるか」


 賊の中で一番屈強そうな男が、一行に聞こえる程度の声で舌打ちしながら言った。賊の数は四人、少数ではあるがいずれも場馴れしていそうな動きを見せている。四人の賊は、前方と後方に分かれて二人ずつの賊がクーゲルとパイクと対峙していた。


「護衛を雇っているようだがこっちは四人だ。そこの親父とガキは数に入らんだろう。大人しく荷と馬を置いていけば命は取らんぞ」


 賊も蛮刀を抜いて脅すように言ってきたが、


「お前らこそ山に戻るのなら斬って捨てはせんぞ」


 とクーゲルが落ち着いて返した。


「そうか、それなら仕方がない」


 一番屈強そうな賊は蛮刀を構えて、


「おい! やるぞ!」


 と、周りの三人の賊に大声で合図した。


「ふんっ!」


 後方のパイクと対峙していた賊が二人同時に蛮刀をパイクに振りおろしたが、パイクは一方をかわし、もう一方を長剣で払うと返す刀で賊の一人を斬った。


「うあああっ!」


 剣は急所を的確に捉え、賊の一人は戦闘不能になった。それを見た賊の内二人はひるんだが、屈強そうな賊は落ち着いていた。


「ひるむな! いくぞ!」


 クーゲルと対峙していた、屈強そうな賊ともう一人の賊が同時に攻撃して来た。屈強そうな賊の刃風は凄まじかったが、クーゲルはかろうじでそれをかわし、もう一人の賊の刃も長剣で受けながら擦り上げ、その賊の急所を突いた。


「がはっ!」


 急所を突かれた賊も戦闘不能になった。


 形勢は二対二になった。ハワードとファルスも護身用の小剣を構えてはいるが、やはり戦いの人数には入らない。クーゲルとパイクの鮮やかな手並みを受けた屈強な賊は流石に後ずさった。


「やりやがるな……」


 屈強な賊はそう言った後、構えを解き、


「おい! 退くぞ!」


 パイクと対峙している賊にそう言ってその場から走って逃げた。


「ま、待って下せえ!」


 一人残された賊も慌てて逃げ出した。


「賊は賊だな」

「仲間を放っておいて逃げるのが賊らしい」


 クーゲルとパイクは構えを解き、長剣を収めた。賊を追うと、ハワードとファルスから離れることになるため追わなかったようだ。


「……」


 ファルスは緊張感が解けたのと、護衛の二人の強さを見て呆然としたような表情をしている。




「お前ら喋れるか?」


 パイクが先程倒した賊に尋問している。倒した賊は深手を受けていたが、話すことは何とかできるようだった。


「た、助けてくれ……」

「ああ、これから訊くことに答えたら手当をして逃がしてやる。だから嘘をつかずちゃんと答えろ」


 パイクの言葉は静かだが凄味を含んでいた。


「な、なんでも話す……」

「よし、じゃあ訊く。お前らのアジトはどこだ?」


 そう訊かれ、賊たちは一瞬顔を引きつらせたが、


「ここから林を東に抜けた山裾に少しだけ開けた場所がある。走ればそう遠い所じゃない」


 と仕方なさそうに答えた。


 パイクは凄味のある目で尋問している賊達を見た。


「嘘じゃないな?」

「う、嘘じゃねえ!」


 パイクはクーゲルを見た。クーゲルはうなずいている。


「じゃあもう一つ訊く。そのアジトにいるお前らの仲間は何人くらい居る?」


 今度は賊もすぐに答えた。


「五、六十人程だ。幾つかの建屋に分かれて寝泊まりしている」

「五、六十人か……。よしいいだろう。命は助けてやろう」


 そう言うとパイクとクーゲルは自分達の荷物から傷薬と包帯を取り出し、深手を負わせた賊二人の手当をテキパキとしてやった。




「先程は助かりました。やはりあなた方はお強い」


 戦闘があった山道から少し進んだ所でハワードが二人に礼を言った。


「剣に少しばかり自信があるのもありますが、賊が相手ですからあのくらいは雑作もないことです」


 クーゲルは歩を進めながら、表情を変えず礼に返した。


「さっき、倒した賊に尋問していたようですが、どうするつもりなんですか?」


 ハイソニックを引いている、ファルスがそう訊いた。さっき手当した賊達は、あの山道に置き去りにしている。賊のアジトから仲間が来て、連れて帰るだろうと思ったからだ。


「あれはな、俺達が城に帰ってからあいつらを討伐するための隊を動かすために訊いておいたんだ」


 パイクがあくびをしながらそう答えた。さっき尋問していた時とは、打って変わった表情をしている。


「そうでしたか、なるほど」


 ファルスは合点がいったようだった。


「メイランドにはまだまだ賊が多くいるからな。賊の討伐や町のならず者達から住民を守るのも俺達の重要な役目さ」

「……」


 パイクがやや自負を持って話すのをファルスは黙って聞いていたが、


「戦争に出て国を守る他にも色々な役目があるんですね」


 と少し気が晴れたような顔をして言った。


「それはそうさ。戦争ばっかりしてると思ってたのか?」


 生真面目なクーゲルが笑いながら言った。ファルスの言ったことに可笑し味を感じたのだろう。


「そう思ってた節はありました。でも誤解だったようです」


 クーゲルとパイクはそれを聞いて哄笑した。


「……」


 ハワードは髭を撫でながら、笑顔で黙って歩を進めている。

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