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ファンタジックホース  作者: チャラン


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第二十八話 飛翔と難題

 宴会で歓迎を受けた翌日。


 ハワード達、一行は、シロを連れて、城下町の外れにある、広い草原に来ていた。ハルバス王に、シロが空を飛ぶところを見せるためであり、ハルバス王も側近のみを連れて、来ている。


「こんなにワクワクしたことは近年無い、少年の頃に戻った気がする」


 王は、目の前で起こるであろう、天馬の飛翔に期待で胸を膨らませていた。


「では飛ばせてみます。シロ、いつものように飛んでおいで」


 シロの手綱を引いていたファルスは、手綱をシロから外し、自由にさせた。見慣れぬ草原の中で、シロは少したじろいでいたが、側にいるファルスの、いつもと変わらない優しさに安心したのか、飛翔の前の疾走を始めた。


「速い!」


 王の供として来ていたアッティラは、思わず声をあげた。その速さは、アッティラが今まで見てきた馬と、比較にならないものであった。


 疾走の速度が最高に達した次の瞬間、シロは翼をはためかせ、空に浮いた。その高さはみるみるうちに上がっていき、小高い丘を越える程になった。


「……」


 ハルバス王を始め、ハルバス側の者達は空を自由に駆ける天馬を、本当に目の当たりにして、しばし呆然としている。


「天馬を見て、本当に飛ぶ姿をひと目見ることができればいいと思っていたが……」


 王は天馬が飛ぶ姿を眺めながら、つぶやくように言った。


「ハワード、お主の言い値でよい、どんな金額でも払うゆえ、この天馬を譲ってくれぬか?」


 王の目は真剣そのものである。だが、ハワードの言葉は既に決まっていた。


「それだけは出来ません。どんな大金を頂こうとも、ホワイトウイングを譲ることはありません」

「ううむ……」


 頑として態度を決めているハワードの、考えを変えることは不可能と思ったハルバス王は、困惑のうなりをあげ、しばらく考えた。


「では、この天馬をハルバスとメイランド、両国間の友好関係改善の象徴とするのはどうか?」

「? ……と言いますと?」


 ハワードは王が言うことの意が汲めなかった。


「うむ、この天馬ホワイトウイングを、両国の間で定期的に飛ばせて、それを両国民に見せよう。そして、ハルバスとメイランド双方が、いがみ合いを止めた平和の象徴だと、国民に喧伝するのだ」

「……なるほど」


 王の意を汲めたハワードだったが、まだ難しい顔を続けている。


「メイランドからハルバスに来るには、地形的な難所も少なく、あっても少し小高い丘や森がある程度なのは知っています。天馬をハルバスまで飛ばすことも、理論上は可能だと思います。ただ……」

「ただ?」


 ハルバス王はハワードの言葉を待った。


「天馬が何もない空で、両国間の城を、ちゃんと往復できるか、ということに自信を持つことが出来ません」


 周りにいる王の側近やメイランドの一行も、その通りだろうという顔をしている。


「ううむ……この案もダメか……」


 ハルバス王は肩を落としている。苦肉の案であることは、王にも分かっていたようでもある。


「いや、ダメとは申しておりません。私どもでそれが可能かどうか、色々試してみようと思います。天馬を飛ばすことで、両国間の平和が得られるなら、それは素晴らしいことですからな」


 それを聞いたハルバス王は、落としていた肩を戻し、


「やってくれるか!?」


 と、興奮気味にハワードに言った。


「はい、国に戻り試行錯誤してみます」


 ハワードの顔に、頼もしく見える笑顔が現れている。




 ハルバス王からの提案を実行するため、ハワード達、一行は、シロと共にメイランドへ帰った。


 提案は難題である。


 シロは自由に空を飛べるが、本当に「自由に」飛んでいる。決まった二点間を往復する、などということは今までなく、飛び終わった後、帰るところはハワード調教牧場に決まっている。


 ハワードは自室で提案をどうすれば実行できるか、深く考えていた。


「どうすればできる……?」


 ハワードがこの牧場を運営してきた中で、一番の難題である。ペガサスを作ることより難しいと言えよう。


 考えが浮かばないながらも考え続けていると、不意に自室の扉をノックする音が聞こえた。


「ハワードさん、ファルスです。入っていいですか?」

「ファルスか。入ってかけなさい」


 扉が開き、ファルスが部屋の中に入って来た。ファルスは、少しハワードの様子を見た後、近くにあった椅子に腰掛けた。


「悩んでおるよ」


 一言、ハワードは言った。それだけで、ファルスには何のことかすべて通じた。


「僕もシロのことばかり考えています。どうやったらハルバスまで飛ばすことができるか……」


 ファルスも難しい顔をしている。


「お前も考えが浮かばないようだな。どうしたものか……」


 ハワードがまた沈みこみそうになる前に、ファルスは顔を上げて、


「考えではないんですが、思い出したことがあります」


 と、表情をやや戻して、返した。


「なんだろうな?」


 どんなことでもいいから、きっかけが欲しいハワードは、ファルスの次の言葉に期待した。


「シロの母馬のヴィクトリアを捕獲した時に使った、ザバさんの赤い水晶球のことです。あれを使って、人に慣れていないヴィクトリアを連れて帰ることができましたよね?」

「うむ、そうだったな」

「あの時は、ザバさんに助けてもらったんですが、今回もザバさんに相談すれば、何か解決の糸口が見えてくるような気がするんです」

「……」


 ハワードは少しの間、黙っていたが、


「お前はここに来た頃に比べて、本当に成長したな」


 笑顔を浮かべて、そうファルスに言った。


「よし、ザバさんの所に行ってみてくれ。それで何かがつかめたら儲けものだ。頼むぞ」

「はい、行ってきます」


 部屋を出ようと後ろを向いたファルスの背中は、頼もしかった。




 ハワードと話した翌日、ファルスはザバの家がある、メイランドの郊外へ向かった。


 ザバの家に到着すると、ザバは元気に畑仕事をしていた。老人ながら、背筋も曲がっておらず、仕事をする動きも無駄がない。


(さすが宮廷魔術師だっただけはあるな……)


 その様子を見ながら、ファルスは感心しているようだった。


 しばらくザバが畑仕事をテキパキとやる様子を見ていたが、仕事に没頭していた、ザバの方がファルスの姿に気づいた。


「おお、ファルス君か。ここに来るのは久しぶりじゃのう。連れの墓の一件以来じゃったか。いや……前に来てくれたの。わっはっは! わしも齢を取ったもんじゃ!」

「ふふふ、牧場では何回も会っていますが、ここに僕が来るのは久しぶりですね」


 あらかた畑仕事を終えたザバは、仕事道具を小さな納屋に片付け始めている。


「まあ折角来たんだ、上がってお茶を飲んで行きなさい。茶菓子もいくらかある」

「ありがとうございます、上がらせて頂きます」


 ザバとファルスは家の戸を開けて、中に入った。




 ザバの家に上がり、ダイニングの小さな円卓の席に座って待っていると、程なくザバが茶菓子のクッキーと紅茶を持って来た。どちらからも良い香りがする。


 メイランド郊外ということもあり、相変わらず、小鳥の歌や虫の音色がよく聞こえる、風情がある家である。


「サザンライナーも元気にしとるよ。わしが魔法をかけてから随分経ち、その効果もなくなったが、以前のようにうるさい所もない。人に自然と慣れたんじゃろうな」


 以前ハワード調教牧場で購入した、サザンライナーのことをザバは話に出した。癖のある馬だったが、それも今では改善されたようである。


「時間をかければ、気性が激しい馬でも、少しずつ大人しくなってきますからね、サザンライナーもそうなってよかった」


 ファルスの返しに、ザバは「うんうん」と二回うなずいた。


「ところで、わしの所に来たのは何か用があってのことかの?」


 ザバの方から用件を聞き出してくれた。


「はい、シロをハルバスへ飛ばす方法について、ザバさんに相談したら、何か妙案があるのではと思い、ここに来ました」

「ふむ……やはりそのことか」


 ザバは人づてにシロとハルバス王のことについて既に聞き知っている。老翁は腕組みをして考え始めた。会話に間がしばらくあり、林の方から小鳥の歌がよく聴こえている。


「そうじゃな、試せる手はあるぞ」


 間が終わり、ザバが口を開いた。その言葉を聞いたファルスは身を乗り出した。


「本当ですか!?」

「ああ、じゃが、少し準備が要る。ある場所へ出かけんといかんから、支度をせんといかん。今日は無理だろう」


 そう言うと、ザバは温かい紅茶に手を伸ばし、少し飲んだ。よい香りが部屋に広がっている。


「今日はうちでゆっくりして、後日また来なさい。一緒にその場所へ行こう」


 ファルスはザバの言葉に従い、その日は談笑や、畑の手伝いなどをして、ザバの家でゆっくり過ごし、牧場へ帰った。

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