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ファンタジックホース  作者: チャラン


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第二十七話 ハルバス王との謁見

 数日経ち、ハワードはファルスとジンを供にして、シロをハルバスまで移送するために出発した。供と言えるのはファルスとジンの二人だが、非常に重要な移送であるので、護衛としてジオルグと、その部下、クーゲルとパイクを筆頭に十人の手練の兵士がついて来ている。


「アッティラの言うことに偽りがあるとは思えんが、何かがあってからでは遅いからな。我々にできる最大限の護衛はするぞ」


 早馬でハルバスに連絡を取っているとはいえ、敵対国の領土に入ろうとしているジオルグと部下達の表情は、尋常なものではない。


「いよいよハルバスに入りますね」


 国境に近づくと、普段からのんきなジンも、さすがに表情が緊張したものになってきた。


 ハルバス領は、緯度的にはメイランドとあまり変わりはなく、気候もほぼ同じである。ただ、メイランドに比べ、山がちな地形が多く、そのためか農耕に比べ、畜産が盛んに行われている。


「思った以上にのどかな国ですね」


 ハルバス領に入り、街道をしばらく一行は歩いていたが、周りに見える牛などが草を食む風景の広がりにより、一行の緊張感はやや緩和されていった。


「私もハルバス領内のこんな所まで入るのは初めてだが、落ち着いた国だな」


 クーゲルも周りを見渡しながら、思った感想を言った。


 さらに街道を進んで行くと、民家や周辺施設の建物が増え、それに伴い人影も徐々に多くなってきた。当然、ペガサスを連れて来ている一行の様子は目立つものになる。ハルバスの民からの興味と驚愕の視線が人が多くなるにつれ、濃くなってきた。


「城下町の前まで来ましたね、立派な門だ」


 やや、山に近い所にハルバス城はあり、その付近一帯の盆地に城下町が広がっている。一行は、その城下町内に入る大きな門の前まで来ていた。その門は石造りで人の背丈の三倍の高さがある扉がついている。


 一行の姿を見とめた門番が、先頭にいるジオルグに問いかけてきた。


「早馬で連絡があった、メイランドから天馬を連れてきた一行か?」

「そうだ、私はメイランドの将、ジオルグ。天馬の移送の護衛として参った。通していただきたい」


 ジオルグの堂々とした態度に門番は敬服した様子で、


「承った、通られよ」


 と、一行を門へ通した。




 城下町の中をシロと共に一行が進むと、当然ながら、多くのハルバスの民から視線を受けることになった。


 遠巻きの視線を感じつつも、城下町を進み、無事ハルバス城に入ることができた。


 城内の十分な広さがある馬場で、しばらく一行は待っていると、ジオルグがハルバス内で親交が唯一ある人物が現れた。


「よく来てくれた、遠路ありがとう」


 アッティラである。


「うむ、道中何事も無く到着できた。お主の言葉を信じてよかった」


 ジオルグとアッティラは信頼の笑みを交わした。


「そうか、良かった。で、早速で悪いが、天馬を連れて我が王に会っていただきたい。その御仁が天馬の所有者か?」


 アッティラは、シロの隣に居るハワードの方を見て、そう訊ねた。


「はい、私が天馬ホワイトウイングの所有者、ハワードです」


 アッティラはうなずいた。


「天馬と供回りを連れて通られたい。ついて来られよ」


 そう言うと、アッティラは王と天馬を謁見させることができる広場まで案内を始めた。




 通された広場は、兵士がおよそ五十人は入れる広さがあり、階段の上にある、王の玉座から様子を直接見渡せるようになっている。


 そして、その玉座にはハルバス王が座っていた。天馬を待ちかねていた様子で、シロの姿を見とめると、王は玉座から立ち上がった。


 案内をしていたアッティラは、ハルバス王の側に行き何かを伝え、その後、王の側にそのまま残った。


「遠路ご苦労であった、まず、天馬を城まで移送してくれた礼を言う」


 ハルバス王がハワード達に言葉をかけ始めた。その鋭い眼差しは、じっとシロに注がれている。


「ふむ……聞きしに勝る美しさだな。汚れのない純白の翼か」


 王はいつの間にか玉座の前にある階段を降りて、シロに近づき、まじまじと見ていた。アッティラを含めた王の側近達も、王を守るためについてきている。


「お主が天馬の所有者なのだな」


 王は敬服していたハワードを見て話しかけた。


「はい、私が天馬を生産し、育成を行いました。天馬の生産は私の念願で、様々な紆余曲折の後、成功し今に至ります」


 王はうなずいた。


「さもあろう。天馬を作り出すのは並大抵ではなかったはず。余もこの目で見るまでは半信半疑であった」


 シロは自分の顔を見ているハルバス王の目を、澄んだ瞳でじっと見ている。


「ハルバス王、私はメイランドのジオルグです。少し話をさせて頂いていいでしょうか?」


 王を見ながら、その人物を推し量っていたジオルグが口を開いた。振る舞いから、賢王と見なしたようだ。


「お主がジオルグか。歴戦の将らしい、良い面構えだ。聞かせてもらおう」


 ハルバス王は鋭い目でジオルグを見て、威厳がある声で話を促した。


「ご存知の通り、私はそこにいるアッティラから、ハルバス王の親書を受け取り、メイランド王にそれを閲覧して頂きました。親書の内容もおおよそ把握しております」


 ハルバス王は黙って聞いている。


「単刀直入に訊きます。我が国とのいがみ合いをやめ、国交を正常に戻したいという考えに傾いているというのは本当でしょうか? ハルバス王?」


 問いかけにハルバス王は、少しの間、黙っていたが、やがて問いに答え始めた。


「お主の王とは、合わぬ所が多くあるのは知っていると思う」

「存じております」

「うむ……事あるごとにお互いが合わず、いつしか、国を巻き込んだ戦争にまで発展させてしまった。それを最近まで当たり前の事だと考えていたが、その考えを改めさせてくれたきっかけがあった」


 ジオルグの他、ハワードを始めとする一行も、全員黙って、ハルバス王の話を聞いている。


「その天馬の噂だ。敵国のメイランド内の話は、我が国には入りにくいが、この噂はハッキリと余の耳にまで伝わってきた」


 そう言いながら、王はシロのたてがみに手を伸ばし撫でた。シロは相手が悪い人間ではないのが分かっているのか、王をじっと見ながら撫でられている。


「どうしてもひと目、見たいと思った。だが、メイランドは敵国で険悪な関係でもあり、天馬に会うのは難しい」

「……」


 アッティラを筆頭とする側近達も、ハルバス王の言葉を黙って聞いている。


「そこで、メイランドとなぜ険悪でなければならないか、考えてみたのだ。考えてみると、余とメイランド王のいがみ合い以外、理由が見つからぬことに気づいた」

「それではやはり……」


 そこまで聞いていたジオルグが口を開くと、ハルバス王はうなずき、


「親書の通りだ、そういう考えに傾いている。この天馬を見ることができて、一層その考えは強まった」


 王の言葉に、アッティラ達、側近から「おお!」という感嘆の声があがった。


「ともかく遠路、ご苦労であった。酒肴を用意している。今日はこの城でくつろがれよ」


 ハルバス王は、側近に目配せをして、侍従を呼び、城内の宴会場へ一行を案内させた。

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