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第二十二話 装蹄師トール

 また時が経った。


 その間、メイランドとハルバス間に戦は起こらず、小康状態を保っていた。しかし、両国間が険悪なのは依然として変わらない。


 シロが生まれて一年が経とうとしていた。


「どうしたもんかなあ……」


 厩舎内でシロの世話をしながら一人悩んでいるファルスの様子が見える。


「お前の足には普通の蹄鉄じゃ効かないみたいだな……。これじゃちゃんと走れない」


 シロは一年で、黄金色のリンゴをよく食べさせた効果もあり、立派な若駒に成長していた。ただ、シロの蹄は他の馬よりデリケートで、普通の蹄鉄では十分な踏み込みで走れないようである。このことはハワード他、シロに関わる牧場の従業員全員の悩みの種だった。


 ファルスが一人悩みながら厩舎で仕事をしていると、ジンがなぜかいい笑顔でファルスを呼びに来た。


「ファルス! 朗報だ!」

「朗報って……なんですか?」


 ファルスはきょとんとしていたが、朗報という言葉に期待して、ジンの次の言葉を待った。


「シロの蹄鉄がなんとかなりそうなんだ、一緒にハワードさんの所へ行こう」

「本当ですか!」


 ファルスはそう言うやいなや、ハワードの部屋まで走って行った。


「ちょっと待てよ! 元気なやつだな……」




 部屋ではハワードが窓辺に立ち、外の景色を見ながら待っていた。景色はまた、冬から春に移り変わろうとしている。


「二人とも来たか、まあかけてくれ」


 ジンとファルスの二人は、ハワードの椅子の近くに用意されていた、二つの椅子にそれぞれ腰掛けた。


「この間、ここの蹄鉄を作ってくれているトール爺さんから便りがあってな」


 トール爺さんとは、メイランド王国随一の装蹄師で、この人が作ったり調整した蹄鉄を履かせると、どんな馬も自分の走力を、ほぼ百パーセント出せると言われている。


「トール爺さんも、シロのことを随分気にしてくれていたようで、色々書いてあったんだ」


 ハワードは言葉を続けながら、窓辺から自分の椅子に腰をかけつつ、言葉を続けた。


「その中でな、シロの蹄鉄に使える、素晴らしい金属があるということが便りにあったんだ」


 ジンとファルスの二人は、まず驚いた。


「そんなものがあるんですか!」

「ああ、希少な金属らしいが、確かにあるらしい。ただ、手紙には入手するために、牧場のイキが良い若いのを二人ほど貸して欲しいとある」


 それを聞いて二人は即答した。


「俺達が行きます!」


 ハワードはニコリと笑い。


「遠いぞ、支度はしっかりするんだぞ」


 と、二人の頭を軽くポンと叩きつつ、優しく言った。




 翌日、ジンとファルスの二人は、装蹄師トール爺さんがいるカラジ村へ旅立った。


 ハワードは遠いと言ったが、カラジ村はメイランド城下町からそれ程離れた距離にはない。馬を使えば半日もかからず着くことができる漁村である。


「久しぶりにここに来ましたね」

「ああ、相変わらず潮風が気持ちいい、いい所だな」


 ジンとファルスは以前にもハワードの使いで、カラジ村に来たことが何度かある。二人とも、この村の澄んだ青い海と、気さくな村人達に好感を持っていた。


「じゃあトール爺さんの所へ行ってみましょう」

「そうだな、工房は少し村外れだったな」


 二人はその後、村にある馬の駅に馬を預けて、村外れのトール爺さんの工房へ向かった。




 工房は小ぢんまりとしているが、無駄のない作りである。


 戸の前に立ったファルスは、トール爺さんの名前を呼び、戸が内側から開くのを待った。


 少し間があり、工房の規模にしては大きな開き戸が開いた。色々な荷が来ることを想定した大きさなのだろう。


「おう、若いのが来おったか。イキの良さはどうかの?」

「とれたて新鮮ですよ、ピンピンしてます」


 ファルスがそう答えると、トールは顔をくしゃくしゃにして笑いながら、ファルスとジンの肩をやや強く、職人らしいごつい手のひらで叩いた。二人もいい顔で笑っている。


「よう来た、まあ入れ」


 二人は、蹄鉄工房の中に上がらせてもらった。トールの手に長年馴染み、手入れの行き届いた作成道具が並べられてあるのが、中に入ると見てとれた。


「シロは元気か? 大分、大きゅうなったろう?」


 カラジ村はメイランド城下町から近いこともあり、トールは作った蹄鉄をハワードの牧場へ納めに行く時、ペガサスのシロの様子も何回か見て帰っている。


「元気そのものですよ、黄金色のリンゴをよく食べるし、体の大きさは大人馬ほどになりました」


 そう答えたジンを見て、トールは嬉しい表情の中に、やや曇りがある顔を隠せないでいた。


「そうか……、そんなに大きゅうなったか。それは、早う蹄鉄を何とかしてやらんとな」

「はい、そのシロの蹄鉄に使える金属が見つかったと訊いて来たんですが」


 ファルスは、トールの口から蹄鉄という言葉を聞いたので、本題に入ろうと、手紙にあった希少な金属について訊ねた。


「うん、お茶でも飲みながら話すか。ちょうど休憩じゃ」


 そう言ったと同時にトールは奥で、やかんに水を汲み、湯を沸かし始めた。ジンとファルスの二人も、茶の用意をめいめい手伝った。

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