うちの猫は私の命を狙っている
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私のうちの猫に私は命を狙われている。
題名と副題で1ビットも情報量は増えていないが、私の家の猫、とは、私個人として飼っているわけではない猫だが、所属は当家であり、私の上位者である家族が管理者として責任を負っている猫のことだ。
余談だが、その管理者にとって、猫と私は管理し監督する義務を持つ存在としては同等であると言える。猫はそこら辺も敏感に感じ取っているのかもしれない。
その猫に命を狙われている。
比喩ではない。
最近の研究(ブリストル大学人間動物関係学研究所所長ジョン・ブラッドショー)に依れば、犬と違い、猫は人間を大きく不器用な同族と見做しているらしい。
なればこそ、真剣にじゃれたり戦いを挑んだり甘えたり無視したり脅したりする訳だ。
しかしながらその理屈で言えば「こいつ獲ったろ」とは思わない筈で、獲ったろ、と思われているらしい私のレゾンデートルとは⋯⋯と考えたりするのだが、そもそもヒト科ヒト属ヒトという時点で猫より上位(何を以てして上位かはここでは論じない)の筈なのでアイデンティティを失う前にとりあえず自我を補強しておく。
さて、命を狙われている根拠はもちろん猫の行動にある。
何かに飛び乗るとき踏み台にされる。
通りすがりに叩いて行く。
物陰から飛びかかってくる。
視界外から突然猫が降ってくる。
にゃーんと可愛く近寄ってきてがぶりと噛んで去って行く。
これらは別に狙われているわけでも何でもない。
身近にいる親しい友人の肩を「よう!」と軽く叩くようなものだ。
それこそ親愛の印だと言っていい。
私が言いたいのは、そんな下僕自慢、自虐風惚気ではない。
寝ているとき、ふと目覚めると猫が机の上から首を伸ばして無表情にじっと覗き込んでいる。
声をかけてもまったく聞こえなかったように静かに消える。
暗闇で真顔で意味なく見つめられて果たして怖さや不気味さを感じないでいられるだろうか?
眠っているときに限って顔をまさぐられる。
まぶたとか鼻の穴とか耳の穴とか。
「まさぐる」の語義をご存じだろうか?
・手先であちこち探す。指先でいじる。もてあそぶ。
である。
古語では接頭語「ま」+動詞ら行四段活用「探る」でもある。
接頭語「ま」の意味は≒「本当に」だ。
「さぐる」は手や足でさわって確かめる、だ。
ねえちょっと待って。
なにを本当にさわって確かめてるの?
生きてるかどうか?
それともここ塞げば死んじゃうんだよなーってこと?!
生きていく上で大きなダメージを受ける弱点の確認?
未必の故意?!
しまいには、寝ていてぽっかり開いた口の中に手を!もう一度言います。手を!突っ込まれたからね!
喉が詰まって目が覚めましたよ⋯⋯。
つまり、そこまでされて尚猫のお茶目で済ませるには無理があるだろうと思う。
極め付きとして、私が外に出たとき帰ってくるとき、高い窓の内から私を見た猫が「カカカッ」という、あの猫特有の獲物を狙うときの声を出す事が度々ある。
家族が面白がって何回も動画を撮ってくれたので確かだ。
日常的にも対猫間の距離が遠いなと感じてはいたが、お前のトイレを掃除しているのは誰だと詰め寄りたい。
うんこを拾って!しっこで崩れたペレットを篩い!いつも快適なトイレを維持してやっているのは誰だと!
⋯取り乱しました。続けます。
(あ、ちなみに猫トイレに使った木質ペレットを決して薪ストーブで燃やしてはなりません。においがとんでもないことに! おお!おお!おお! 倒れ伏す人間どもはさだめしかわゆいキットンたちに攻撃されたかのようでした)
そして、私が小さく丸まって作業をしているとき、どこかから弾丸のように飛び掛かられ爪と牙を立てられる事がある。
喰らいついてきてこう、クロコダイルが喰らいついたときのようにされたらびっくりしてこっちも暴れるのは当然である。
すると、グゥみたいなヴゥみたいな、無念⋯て丸出しの唸りで素早く逃げて行く。
そして大抵どこかに穴が開く。
⋯⋯書いていてちょっと悲しくなった。
それでも稀に可愛く生クリームや温泉玉子や甘栗やカシューナッツをねだって来るので、運良く狩れたらいいけど狩れなくてもまた今度くらいに存在は許容されていると思う。(期待度高め)
いつか一緒に寝るんだ⋯⋯。