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永遠の魂  作者: シャイン
4/4

鍵と。

戸日部とかべ あるか


年齢:19

職業:大学生

誕生日:7月23日(スポーツの日)

性別:女/ビクティマー

主人:九十九 彰臣

身長:164cm

体重:52kg

趣味:ランニング

好きな物:運動、アクエリアス、風鈴

嫌いな物:読書、煎餅、海



1-4


「11番くん、11番くん? …調子が悪そうだ、今日はここまでにしておこう。楽なら横になっておきなさい、今天野先生を呼んできてあげるから。まとめられるのなら荷物をまとめておいて。歩けるかい?無理そうなら車を出してくるから言ってくれるかな」


その事に気がついた瞬間、ヒュっと喉が鳴った。当然教室の一番前__先生の目の前に座っていたわけだから、彼がその事に気が付かないわけがなく。気がつけば目の前に広がる水色に我に返る。


「あ、いえ…すみません、大丈夫です」

「そんな訳ないだろう。顔が真っ青だ、無理は禁物だよ」

「本当に…大丈夫です。続けて頂けますか」


せっかく先生の貴重…ではないけど、暇ではないはずの先生が付き合ってくれているんだ、無駄にする訳には行かない。加賀の曲げられないであろう強い意志を理解したのか、九十九ははあ、とため息をつく。


「………分かったよ。でも無理ならすぐに言うこと、具合悪いままやっても無駄な時間を過ごすだけなのだからね」

「はい、すみません。ありがとうございます」

「それじゃ、さっきの続きから。__1度誰か…『キラー』に殺された人間は『ビクティマー』に入れられる。ビクティマーとなった人間の精神は夢牢に入れられて、殺人を犯すことは不可能となる。ここまでは良いね?」

「は、はい。ただ…精神を閉じ込めるっていうのがよくわかんないんですけど」


兎にも角にも、今は情報の再確認が最優先だ。未だ産声を上げている心の口に手を当てて、情報の簡潔化を求める。

キラー、ビクティマー、そして夢牢。その3つの関係性は理解していれど、脳が受け入れることを拒否している。そこの食い違いを正すためにも、加賀は今ここで声をあげなければならない。たとえ、その情報が 彼がその『関係者』であることを裏付ける証拠になる、と分かっていても。


「承った。ではここで、ビクティマーとキラーを繋ぐものを説明しておくよ」


黒板に描かれた、2人の某人間。左はナイフを持っているが、もう片方は何も持っていない。キラーとビクティマーを表しているのだろう。


「まず、この2人は1度は人を殺してる。それは分かってるね?」

「ああ、確か…殺人者しかいない世界だから、ですか?」

「そうそう、さっき言ったこと。それはつまり、置換が可能と言うこと」

「痴漢?」

「置換」


殺人者しかいない世界と、何の罪も犯していない人のみが住む世界。

それは、つまり。


「…罪のない世界で殺人を犯したら、どうなるんですか?」

「そう。つまりそういうこと。その時点で、殺人世界に転送されてしまうんだ。もちろんそういった転校生さんだけで構成されてるわけじゃない」


1度チョークを置き、近くにあった椅子に腰を下ろす九十九。空いていた窓の外から風が入り込み、彼の茶髪を揺らす。


「罪と言っても色々あるだろう?自殺関与罪、過失致死罪、スタンダードに暴行罪とかいじめとか。そういったものを、禁忌が起こる前から犯していた人間。そういう人達が集っているんだよ」


どくんっ、と心臓が鳴った。

だって、それは、つまり。


「…それ、例外とか…無いんですか」

「さあ。ただ、この世界の住民はね」


恐る恐るだした震え声。それは自分が罪を犯していないかを確認する、あまりにも傲慢な自愛行為。精神世界で言われた、蜘蛛の糸よりも細い希望に縋る。

何故かそこでわざとらしく言葉を切った九十九から視線をそらすことも出来ず、ただ次に紡がれる言葉を待つ。

だがそれは、加賀にとって最も最悪な形で彼を傷つけることとなる。


「直接であろうが間接であろうが__少なくとも、人を1人は殺してるよ。無論、僕も含めてね」



* * *



「はるき、陽輝?大丈夫?」

「あ…っ、わりい。大丈夫」


机に突っ伏していた加賀の周りを右往左往しながら、おずおずと新妻が彼に声をかけた。


朝から気分が悪そうに眉を顰めていたこの友人は、これから国語の授業が始まるというのに教科書すら出ていない。隣の席に座っているもうひとりの幼馴染も何も言わずとも、珍しく授業に出ている。恐らく、やけに友達思いな加賀の心労を少しでも減らすためだ。


「…なあ、雷」

「! 何、どうかしたの?」

「龍牙」

「…何だ?」


むく、と状態を起こして2人の方を向く加賀。立っていた新妻を見上げても、その顔は逆光で 拝むことは出来ない。唯一左耳に付いたおびただしい量のピアスだけが、光を反射してチカチカと光る。


「2人は、人を__殺した事はあるの?」










「昨日はびっくりさせてしまったね。だが、それは皆自覚しているものと思っていたのだけれど。君には記憶は無いのかな」

「…分かりません。でも、殺していないという可能性自体はある、ということは言われました」


昨日はあまりの衝撃で全く気づかなかったけれど、確かにサクはそう述べていた。

夢牢がある場所__精神世界の中に存在はしていたが、牢屋の中には居なかった。そのような事態は今まで起こったことは無いと言っていたが、それでもそこに希望を見出そうとする少年の姿勢を誰が責められようか。

しかし、そのことばに傾聴していた九十九がひとつの疑問を抱くのも、ごく当然のことではあった。


「言われた、と言うのは…誰にだい?」

「えっと…『夢牢』に居たこどもです」

「…こども?」


そこで初めて、九十九が疑問を口にした。

一瞬目を見開いていたものの、すぐさまいつもの眠たげな瞳に戻る。水色の奥に浮かんで消えた険しさは、一体何に向けられたものだったのだろう。当然それに気がついた様子もなく、加賀は続ける。


「ええ。白い肩までくらいの髪に、濃い紫色の目の。左目は隠れてましたね。あ、あと隈がめっちゃ濃い」

「白髪に、紫の目…と、濃い隈ねえ…」


何かを考え込むように顎に手を当て、九十九はそれきり言葉を切った。


「…なるほどね。きみは…すでに1度死んでいるんだ」

「…What?」


1度その子供のことを考えるのは辞めにしたのか、九十九は加賀のその体験に基づいた見解を述べた。当然、話を変えられ 更にいきなり自分の核心に迫る事を断言された加賀はただ パチリと目を瞬かせる。


「良いかい、よく聞くんだ。夢牢というのは、死んだその瞬間にしか行くことは出来ない」

「え、は?どういう事ですか」

「だからね。そもそも、夢牢っていうのはさ。ビクティマーの魂が閉じ込められる所だろう。ならば、殺されたその瞬間に 魂だけ精神に転送される。なら、肉体は?」


もういちど、最初から。丁寧に、丁寧に。あまりにも丁寧すぎるその作業は、じわじわと加賀の思考を狭めていく。


「そのとき…意識は、どこへ…?」

「そう。死んだその場にある。魂は別の場へ__つまりね、その肉体は暫く放置されているはずなんだ。まずこれを前提として分かっておいて。では、ここから本題だ」


ぴ、と人差し指を立てて 九十九は相変わらずの気だるげな瞳で淡々と言葉を続ける。

まるで死刑を待っている囚人のように、加賀はごくりと喉を鳴らす。


「さっきも言ったね?夢牢には、死んだその瞬間にしか入る事は不可能だ。つまり、君がその子供と話していようがいまいが、その世界にいることが 1度君が死んだことを証明している。そして僕自身、僕の死因も いつこっちに来たのかも…誰をどうやって殺したのかも、はっきり分かっている。じゃあ、君は?」

「…………俺に…死んだ記憶はありません。なんなら、こっちの世界がそうだったなんて、昨日まで気づいてなかった」


『政府は、殺人者しかいない世界と、なんの罪もない人の世界に区分した』


そこで感じた、ひどく心を揺さぶる違和感。

なぜ今まで疑問を抱かなかったのか、それすら考えもつかなかった。


なぜ自分は、"ここ"が犯罪のない世界だと勘違いしていたのだろう。


殺人者が当然のような顔で街を歩いている時点で答えは明白だったと言うのに、一体何故。


「…ふむ。殺人の記憶も、死んだ記憶もない、と」

「は、はい…」

「殺人者の僕が言えることでもないけれど、人を殺したというのに記憶が無いというのは随分と傲慢な事だね。それとも無自覚なだけかな。0と1の羅列に色をつけて公表する事だって、今では5秒あれば簡単な事だ。それとも君は、本当に__自分が誰も間接的に殺していない、と そう言うつもりかい」


かひゅ、と喉が鳴った。


明らかに、加賀の心を傷つけるためだけに発せられたその言葉。今までならばまだその長文の中に怒っていない、という本人からのお墨付きが刻まれていた。しかし、これは違う。加賀陽輝という存在そのものに、酷い嫌悪感を抱いている。加賀は俯いた顔を上げることが出来ず、ただぎゅっと拳を握った。


「………万が一、君が人を殺していないとしても。ラインを見ればすぐに分かるさ」


黙りこくってしまった加賀を冷たい目で見下ろしながら、九十九はため息をついてそう告げる。


「…ライン?」


初めて聞いたその単語に、ぱっと顔を上げる。

予想外の反応だったのか、九十九は少しだけ目を見開く。まさか、この少年は 本当にその単語を知らないとでも言うのだろうか。


「…まさか、知らないのかい」


ただ純粋な驚きだけを含めたその声は、加賀が萎縮しないのには十分すぎるもので。こちらも畏怖を感じた様子もなく、こくんと首肯する。


「…本当の…様、だね。分かった、説明しよう。」


そこに嘘など全く含まれていない事が確認できたのか、九十九はぱちりと目を閉じ 再び気だるげな真顔に戻る。それからいきなり長い白衣を脱ぎ、近くにあった机に綺麗に畳んで置く。

いきなり脱ぎ出した担任教師に目を白黒させながらも、加賀は彼の体に釘付けになる。だって、彼がハイネックの襟を手で下げた 隠された首元には、


「これが、一般的に"ライン"と呼ばれているものだ。君の体にも、あると思うのだけれど」


絞首刑でも受けたかのような、ぐるりと首元を一周するような線。ただ、その色は締め付けられたような朱色ではなく、淡く光る蒼色だ。LEDライトの色がいちばん近いだろうか。


「…見覚えは…無いですね」

「…効用は?ウェポンキーの事も分からない?」

「うえぽんきー」

「ウェポンキー」


乱れた襟を正し、九十九は白衣に手を通す。それから軽く汚れを払った。当然、彼の首を中心に淡く光っていた蒼い光はしまわれてしまう。神秘的にも見えたその美しさが途切れてしまったことに 少しだけ肩を落としながら、加賀は再び出てきた『ウェポンキー』とやらの説明を待つ。


「ウェポンキーというのは…そうだな、絵で理解してもらった方が早いかな。見ててね」


白い粉を削りながら、黒板にひとりの棒人間が描かれる。そこから青いチョークに持ち替え、腰の辺りに一本 線を引いた。


「まず、ひとりのキラーがいます。この人は…ヨウ君とでも呼ぼう。ヨウ君はこちらの世界の住人、つまり…既に1人の人間を殺してます。でも、住民となってからまだ1人も殺してません。まあ、状態で言うのなら君と同じだね」

「…俺は誰も殺してないです」


ばつが悪そうに唇を尖らせてそう言う加賀。先程言われたことも相まって、九十九と目を合わせることもできずそう言葉が漏れた。少しだけその細い眉を顰め、九十九は何かを言おうとして辞めた。


「…ある日、ヨウ君はひとりの女の子を殺してしまいました。当然、その女の子もこの世界の住民だね。そうすると、この女の子はどうなると思う?」


通常のように異常な授業を進める九十九に、加賀も当然生徒として応える。脳内で今まで習った、体験した出来事や事実を確実に組み合わせていく。


まず、この女の子は 殺されたキラーであるからして、ビクティマーと化す。そして殺されたその瞬間、女の子の魂は夢牢へ行く。夢牢に一度囚われたビクティマーはその魂を牢の中に入れられ、自由に動くことは出来ない。しかし、現実世界での行動は可能。


そこで、ひとつの事実に気がついて顔を上げる。目と目があった九十九は、相変わらず気だるげに加賀を見据えている。


「……精神世界で魂を囚われたビクティマーは、何を制限されるんですか」

「うん、よく気がついたね。何を制限されるか、そして何を持ってそれを監視するか。それは共に、先程言った"ウェポンキー"が意味するんだ」


よく出来ました、とでも言いたげに加賀が何となく机の上に広げていた白紙のノートに花丸が書き込まれる。うわフリクションじゃねえ、と心の中で毒を吐く加賀とは対照的に、九十九はどこか楽しげだ。


「ビクティマーが制限されるのは殺し。二度と主人の許可無く、殺人をすることは不可能だ。犯罪だって、二度と出来ない」


その犯罪、というのが何を指すのかは分からない。だが、相当幅広いのは間違いないだろう。その主人、というのは 恐らく殺した張本人___この絵の場合では『ヨウ君』のこと。そして名前すら存在しない女の子がビクティマーだ。うん、理解出来た。


こくりと頷いて、加賀は九十九の顔を見やる。


「先程見せたね?僕の首元にあるこれ。殺されたビクティマーは、この"ライン"が奪われる。と同時に、主人はこの"ライン"を所有することが可能なんだ。"ウェポンキー"として、ね」

「元々全員が持っているのがライン、それが奪われたらウェポンキー。OKです、理解できました」

「よし。それでね、さっき言ったよね。ビクティマーは主人の許可無く殺人は出来ない。なら、逆に言えば?」


外ではもう既に夕日が傾いており、おそらく幼馴染たちも先に帰ったであろう時間。そう言えば今日はあまり喋っていないな、とどこか遠い頭で考えた。集中できていない証を遠くへ追いやり、加賀はその問いについて頭を回転させる。


「許可さえあれば、殺人は可能…?でも、許可なんてどうやって」

「そこで必要になるのがウェポンキー。これを空に挿して回す。そうすれば、なんの原理かはわかんないけど…その場にビクティマーを召喚できるんだ」

「…ポケモンじゃん」

「どっちかと言うとテリワンかな、僕は」


この博識な教師が分からない、というのならばそうなのだろう。またいつか会えた日、サクに聞けば分かるだろうか。

シャーペンを白い紙の上に走らせて、加賀はふと顔を上げた。


「…先生は、その…誰かのウェポンキーを所有してるんですか?」

「…そうだね、実演した方が早いか」


その答えは、はっきりと花芽の問いかけを肯定するもので。こちらの世界が『そう』だと分かったとはいえ、今まで信頼してきていた教師が殺人者であるという はっきりとした実感が湧くのはそんなに良い気分でもない。


「よく見てて」


首元の布を少しだけ下げ、首__正確に言えば首に巻かれている"ライン"だが__から何かに引っ掛けるように、人差し指を軽く曲げる。そこからずるずると同色の鍵が引きずり出され、加賀は目を見開く。いくら事前に説明はあれど、心の準備も無くそれをされてしまうと いくらか心に来るものがある。それを理解した上でやったのならば尚タチが悪い。本人に悪気などは一切無いのだろうが。


その淡く光る青い鍵を空に挿し、そこにドアノブがあるかのように ガチャリと手首をひねる。その見えないドアノブを軽く引いて、扉を開けるような仕草をすれば。


「うわあ!? あ、九十九さん…ってことは…」

「こんにちは、戸日部とかべさん。急に呼び出してごめんね。ただ少しだけ言い訳をさせてもらうと正直君以外に適任はいなかったというか、むしろ暇だろうという信頼があったからこそというか。なんせここにいる生徒にただのヤバい電波教師だと思われるのも癪だしさ。僕のまともさを支持するための礎になってくれたことは単純に感謝してるのだけれど」

「あああああアタシの桜フラぺエエエエエエ」


その場に、左手に黒い長財布を持った女性が突如現れた。しばらく聞いていなかった彼の長文を聞こえていないかのように大声で叫び、それを遮る。咄嗟のことに目を白黒させていると、九十九とその女性は同時に加賀に視線を移す。


「…? 九十九先生、誰?この子」

「僕の教え子だよ。えーと…多田…明くん」

「加賀陽輝です」

「最悪だ、この教師。初めまして、石田直人くん。アタシ、戸日部あるか。ヨロシクね」

「加賀陽輝です」


この教師にしてこのビクティマーあり。思わずこめかみに手を当てる。


「さて、これで分かったかな?誰かのウェポンキーを使えば、そのビクティマーをその場に呼び出すことが出来る。そして同時に、命令すれば殺人だって、ね」

「この世界じゃいつ、誰に襲われてもおかしくは無いからさ。強いビクティマーを従えていなくとも、数さえあれば強いのに勝てる。九十九先生はその典型ってわーけ」


そうでしょ先生、と花のほころぶような顔で九十九を見上げる戸日部。その光景に、ふと違和感を覚える。しかしそれを口に出すのははばかられ、きゅっと口を結ぶ。


「それに、主人は死んだら主人のラインが奪われてしまう。でも、ビクティマーは既にラインを奪われているから、いくら死んでも…こう言ってはアレだけれど、失うものが少ないんだ。もちろん、それに伴うものもあるけれど」

「…痛み、ですか」

「…ああ。いくら死ぬ限度は無いとはいえ、死ぬ瞬間の痛みなんて…誰も経験したくはないだろうね」


どこか遠くを見つめて、そう切なげに呟く九十九。その顔に見えた影は物理的なものなのか、それとも。


「…これで今日は終わり。明日は…そうだね、戦い方の説明でもしておこうか。かなりのハイペースでやっているからね、疲れただろう。今日はもう帰りなさい。戸日部さん、送っていってあげてくれるかな」

「はあい。加賀くん、行こう」

「あ、ハイ」


筆箱を鞄の中に詰め込んで、差し出された手を取る。その手は生きた人間のもので、程よく温かい。改めてよろしくお願いします、と告げると 彼女は一瞬目を見開き、それからニッコリと笑った。



* * *


「へえ、加賀くんには幼馴染がいるんだ」


学校から歩いて20分。そこにある一軒家が自分の家だ。

ただひたすら歩くのも申し訳ないなと、加賀はとりあえず自慢の幼なじみのことを会話に出す。


「はい、凄いヤツらなんです。見た目は怖いけど…でも、凄く良い奴で。俺のことも、心配してくれて」

「へえ、そうなんだ。大切なんだね」

「はい。2人とも頭が良くて、運動神経も良くて。ただ口が悪いこともあって、周りからは遠巻きにされてるんですけど」

「そっかー。残念だね」

「はい、すごく。いつか良い奴だって、分かってもらいたいんです」


つい口数が多くなってしまう。なんせ誰に自慢をしても恥ずかしくない、ほんとうに大事な幼なじみなのだ。思わず口角が上がってしまうのも仕方の無いことだろう。先程とは打って変わった様子を見せる加賀を、戸日部は優しげな微笑みを浮かべて見ていた。


「あ、ここ?」

「はい。ありがとうございました、戸日部さん」

「ううん、こちらこそ。お話してくれてありがとう」

「そんな、俺の方こそ」


それじゃあ、と小さく手を振る。最後に見えた彼女は、やっぱり笑っていた。











「…加賀、加賀陽輝」


がりがり、がりがり。


「小さい、白い髪…濃い隈。こども、って言うのが気になるけれど…これだけ特徴が一致しているのも珍しい」


がりがり、がりがり。


「…あの子はきっと、利用できる。まってて、ふたりとも」


がりがりがりがり、


べり。

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